00 高嶺の花に恋をしました
「おい! 焼きそばパンだ、買ってこい!」
僕はヤンキーの佐藤武にそう言われて、逃げ出すように駆け出した。
こいつは二人の取り巻きを連れて僕をパシるのが得意なヤンキーだ。
殴られるのは嫌なので、言われた通り焼きそばパンを買ってくることにした。
それにしても。
僕は世間で有名俳優なんて言われている。
それなのに学校内ではカースト最下層だった。
まぁ仕事で休みがちだし、バレないように髪を垂らしているのも理由だろう。
いつもはワックスで後ろに流しているからな。
それだけでやっぱり雰囲気が変わるようだ。
しかし一番はこの根暗な性格のせいだと思う。
もともと引っ込み思案なのだ、僕は。
テレビの向こうでは演技をしているから分からないだろうけど。
そんなわけで、僕はパシられるほどのモブになっていた。
さて、焼きそばパンを買って武のいる場所に戻る。
購買戦争に何とか勝ち、二つ手に入れてきた。
「はい、焼きそばパン買ってきたよ」
そう言って取り出すと。
武は怒ったように怒鳴り散らかした。
「二つしかねぇじゃねぇか! それにクリームパンはどうした!」
そして僕に近づいてくると、腹を殴ってきた。
スタントマンの経験もある僕には全く効かないけど。
しかし悔しい。
痛そうな演技をしながら僕は心でそう思った。
でも僕は根暗で陰キャの一般モブなのだ。
それが性に合っている。
これでいいのかもな……。
***
僕は自分の弁当を抱えて屋上へ向かう。
何とか許され解放されたが、もう昼休みは残り少ない。
しかし教室に居場所はないので屋上で食べようと思った。
だが屋上には先客がいたのだ。
彼女は黒い髪を春風になびかせていた。
遠くを見る目で街を見下ろしている。
美しい少女だった。
あれは確か大月凛。
うちのクラスの高嶺の花だ。
僕は彼女の様子に心を惹かれていた。
女優なんかにはない、そのあどけなさ。
同時に存在する気高さも魅力的だ。
彼女は自分の耳に髪を掛けた。
その動作はどこか幻想的で――。
その日その少女に僕は、一目惚れをしたんだ。
***
帰り道、僕は唯一の友人である大和と通学路を歩いていた。
昼の出来事を大和に伝えると。
「き、君じゃあ釣り合わないよ、その、カーストが」
「そうだよなぁ。僕と彼女じゃ立場が違うかぁ」
しかし諦めたくはない。
どうしようか考えていると。
「そ、それならさ、湊くんは成り上がればいいんだよ」
「成り上がる?」
「そうさ、み、湊くんならイケメンだし出来るって」
「何をだよ?」
「カーストトップだよ、湊くん」
そうか、カーストトップになれば彼女と付き合える。
釣り合わないなら釣り合うようにすればいいんだ。
決めた。
僕はこのスクールカーストを培った演技力で成り上がってみせる。