激震…!?
「なんで、守れないんだろう…」
自分に問う。
『力』が、なかったから?
『覚悟』が、足りなかったから?
それとも、『運命』?
目の前に倒れる羅那の身体が、僅かに痙攣して力を無くす。
地に伏した羅那の陰影が、月の光に映し出され、雲間を流れる風の音だけが、聴こえる。
無数の【人面蠍】は、羅那の拳圧と爆風で消し飛んだ。
ついさっきまで、僕を救おうと必死で闘ってくれた羅那が、動かない。
ほんの数分前まで、一緒に寝てたのに。
目の前の蠍姿の女性は、なんのために、生まれて来たのだろう。
ゆらゆらと揺れる彼女の影を見る。
けれど。
羅那は、動かない。
「ねぇ…。君は何のために、生まれて来たの?」
気がつくと…。
羅那を奪った蠍姿の女性に話しかけていた。
僕を取り巻く何かの植物のツルが、僕の身体の中に引っ込み…。
代わりに僕の手のひらから、ズルズル…のびて…蠍姿の女性…『蟲魔王』【スコルピオーネ】を…一瞬にして取り込んだ。
…▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼…
「ねぇ…。君は…誰…?」
私に話しかける一人の少年…。
『勇者』…と、呼ばれる【全世界の救世主】…。シュンタロ…。
【虚無世界】にいる【吸血鬼】どもを、出し抜き…。
『蟲魔神』【ベルゼバベル】様より授かった【次元転移式空間装置】で、近づいた。
シュンタロ…。『緋色』の『瞳』…。
その【魔力】。
「欲しい…」
もうすでに、分かってしまったの…。
身体が、動かない。いえ…。心も。
シュンタロ…。あなたに、喰われる『悦び』…。
終生、お慕いしていた【ベルゼバベル】様の私につけた『首輪』のような【呪縛】…。
…が、解ける…。
代わりに…。シュンタロ様から生まれた『糸』が、私に『永遠』に…絡み付くように…絶えず刺激する…『緊縛』…。『禁断の赤い糸』。
あぁ…。もっと、強く奪って欲しい…。もっと…。私の…すべて…を…。
…▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼…
「シュンタロ…様。先ほど迄の御無礼…。大変失礼致しました…。お仲間の『鬼姫』羅那様を傷つけてしまったこと。深くお詫び申し上げます…。誠に申し訳ありません…」
…『蟲魔王』【スコルピオーネ】…が、『満月』を背に…スーッ…と、立ち…。
月に照らされたその美しい『影』が、僕へと…のびて…深々と、頭を下げる…。
何を言ってるんだろう…。
「羅那…は、もう…」
「シュンタロ様。心配には、及びません…。羅那様は、少々…眠っておられるだけです…」
え…?
「ぐおおおぉぉぉぉ…。んぴぃ~♡」
羅那が、はだけた『浴衣姿』で、大股を広げて大地に、『大の字』で、寝転がっている…。
「シュンタロ~ぅ…♡大丈夫かぁ~…♡むにゃむにゃぁ…」
ら…、羅那…さ…ん?
「流石は、『鬼族』ですね。それも、『鬼神』とお見受け致します…。羅那様にとっては、私…スコルピオーネ…の『麻痺毒』も…強めの『お酒』を少々、多めに飲まれた程度のもの…。しばらくもすれば、目覚められます…」
そう言って…。
「がふっ…!!」 …と、口から紅い『血液』を吐き出し…。片膝をつく…『蟲魔王』【スコルピオーネ】。
「『致命傷』を受けたのは…私…スコルピオーネ…の方です。流石に、羅那様の『核撃』のような『蹴り』を、まともに喰らっては…生きていられません。どの道…『蟲魔神』【ベルゼバベル】様を裏切った身…。直ぐにでも、【ベルゼバベル】様に滅せられることでしょう…。でも、もう…良いのです…」
え…っ!?『血』…っっ!!??
…って、え…?
う…、うら…っ?裏…切り…?
も、もう…?良い?…って?
こ…、このまま…?え…っ!!!??
「私……。『蟲魔王』【スコルピオーネ】…は、人生の『最期』…に、『恋』…してしまいました…。あなた…。シュンタロ…様…に…」
え…?
「えええぇぇぇぇ…っっっっっっ!!!!!!!???????」




