階段の先…。
満月に照らされた…切り立つ断崖絶壁。
暗い岩肌に沿うように掘り込まれた…果てしない階段。
続く…その先。
直下に広がる…夜のロアナールの大森林…を足もとに見下ろしながら…。
魔剣フーコ…が、闇の中で赤く燃えている…。
羅那の身体が、フーコの炎…に照らされ、美しく揺れている…。
羅那の背中を見つめながら…僕の手に、いつの間にか…マナさんの手が、握られていた…。
んん…っ!?マナさん…っっ!!!!???
けれど…。
マナさんは、静かに…前を歩く羅那の背中を…見つめている…。
一段一段…昇っては…。
月光に揺れる…羅那の背中…。
魔剣フーコを、闇の片手に灯して…羅那が、満月を見上げた…断崖絶壁の頂上…。
その最上段へと続く…階段。
最後の一段…を、登り切って…。
静かに口を開いた…羅那。
「着いたぞ…」
人が、通るには、あまりにも巨大な門。
とてつもない重量感の見てとれる…その重々しくも禍禍しい分厚い黒い門…。
その門…を、魔剣フーコを片手に…軽々と開ける…羅那。
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…。
ズゴオオオォォォォォン…。
空間…。
大聖堂を想わせる…天井世界…。
惑星を象る…宇宙…の煌めき…。
魔剣フーコの炎…が、漆黒の闇を…青い原初の炎の世界…に変えた。
紺碧に輝く…『ラピスラズリ』の宝石が、大聖堂に見てとれる…空間全体に隙間無く…散りばめられている…。
宇宙を模した…壁画が、広がる小宇宙…。
どこまでも…果てなく続く…本物の宇宙のように…。
「さ…、適当に休んでくれ…」
そう言って…。
羅那が、魔剣フーコの炎で『祭壇』に火を灯してゆく…。
『天地創造』を想わせる…世界…が、暗闇の大聖堂の空間内部に浮かび上がる…。
僕は…。
そう言えば…と、想い出す。
確か…15才のころ…。
両親とともに見た…この場所…に、よく似た場所。
偶然か…運命…か。
今…、僕は…15才に戻ってる…。
同じく…。
隣に立つ…15才くらいの少女なのに大人びた身体つきの…マナさん。
確か、【ヴェガ】も…そんな感じだった。
少女なのに…大人。
加えて…あの青年は、僕?
…【ヴェガ】が、【刹那】とか言ってた…『影』のような『武人』…のような男…。
『祭壇』に炎を灯す…揺れる羅那の姿に見とれながら…。 炎の明かりに照らし出された…マナさんの姿を見る…。
マナさんも…何か…想っているようだ…。
「羅那の一族は、【ヴェガ】に滅ぼされました…」
!?
そ…そうなんだ…。
突然のマナさんの発言に…。
心の中の声を言葉に出来ず…。
そのまま…僕は、「ゴクリ…」と、息を飲み込む。
羅那の背中が、震えている…。
「そうだ…」
言葉少なく…。
羅那が、ここに来て初めて…僕とマナさんに…振り返る。
ふと…。
横を見る…。
『祭壇』の炎に照らし出された…マナさんが、いる…。
毅然とした表情のマナさんが…。
…やさしく静かに…語り出した…。
「遥か昔…。『闇』に覆われた【世界】を、お母様…【女神】が、救いました…。その時、闇から『影』が、生まれ…。【『光』の本体】と【『影』の分体】が、遠く引き離されました…。そして…。【魔力質量】の重い『影』ほど、遠く…離れ…。果ては、【虚無世界】の底無き場所へ…」
と…。
マナさんが、言いかけて…。
羅那が、閉ざしかけていた口を…開いた…。
魔剣フーコの炎が、赤々…と…燃え、羅那の美しい身体を照らしている…。
「私が、誰だったのかは、知らない…。記憶が、無いんだ…。自分自身が、『人』だったのか…?『魔物』だったのか…?それさえ、分からない…。長い時間が、経ち…私たち『影』は…鬼族に…なった」
堰を切ったかのように…続けて語り出す…羅那。
頬に涙が、伝い落ちてゆく…。
羅那の怒りの表情が、…『祭壇』と魔剣フーコの『炎』…と、ともに燃えている…。
「ある時…仲間内から狂い始める者が、出た…。『影』…魂の暴走…。おそらく、何処かにいる本体…『光』…もう一人の自分が、この【世界】から消えたからだ…。原因は、分からない…。ただ、その混乱に乗じて【ヴェガ】が、現れた…。奴は、その左手で、全てを奪った…。幼い姿の私を残して…」
祭壇を一心に見上げて…。
…握っていた…僕の手を離し…スッ…と、目を閉じて祈る…マナさん。
!?
マナさんの胸もとが、青く光る…。
と、同時に…。
僕のポケットに入れた…【星惑星】が…青く光っている…。
沈黙の中に祈りを捧げていた…マナさんが、静かに囁く…。
「【超巨神土人形】を操っていたのは、羅那だったのね…」
マナさんの言葉を聴いた…羅那が、静かに…魔剣フーコ…を、降ろす…。
「すまない…。【魔力】が、激しく磨り減り…私は、…幼女の姿になった…。【ヴェガ】と遭遇した時もそうだ…。仲間と【魔力】を奪われて…」
羅那の背中の後ろの『天地創造』を模した『祭壇』が、闇の中…『炎』…と、ともに揺れている…。
「シュンタロさん…。決めました…。お母様が、残してくれた…私の…【星惑星】と…。【『風』のウィンドラ】【『水』のヴェネシス】【『土』のテラ】…3人の精霊王たちが、生み出した…シュンタロさんの…【星惑星】…。2つを合わせて…新しい【世界】を創ります…っっ!!!!!!」
『光』と『影』が、再び…『調和』…されるように…と、まるで、願いを込めたかのように…。
僕…マナさん…羅那の3人が、歩み寄る…。
「アハァ~ン…♡アタチぃ~もぉ~…いるのぉよぉ~…♡」
顔を見合わせた…3人の真ん中で…。
ピョンコピョンコ…魔剣フーコ…が、跳ねる。
「お腹減ったぁ~…のぉ~…らっっ!!!!!」
ふ…フーコ…!!!!???
ご…ご飯…食べれるのぉ…っっっっ!!!!!!!!????
「ぐうぅ~…」
何処からともなく…3人の内の誰かのお腹から…。
空腹音が、鳴り響く…。




