回想…【風魔刹那】…。
「…情けない…男…だ…」
【虚無世界】に生息する【食魔植物】のツルで雁字搦めにされ…身動きの取れない…目の前の男を見て、そう…思う。
ここに来る前…。
漆黒の部屋…。
と…女…。
【ヴェローナ=ガラテア】の【魔力解放】による【時空間魔法】…。【創造異空間】…。
異空間…暗闇の記憶…漆黒の空間の中に浮かぶ幾つかの扉。
【呪いの鍵】を【解錠】して開けられた…小部屋。
暗黒が…、広がる小宇宙の中に置かれた…テーブル…椅子…ベッド。
この世界に生きる者たちの魂を結晶化して、女…ヴェローナ…が、創り出した…水晶のような球体…。
その中…に、映る者たち…。
然したる興味は、無かった…。
光と影…。存在を異にするもの…。その結びつきは…切り離すことが、出来ない…。
例え離れても…この世界を彷徨う…。
本来…離れるはずのない…光と影…。
この世界では…お互いが…お互い…を、探し…求め合う。
仲間…というのなら…この女…ヴェローナ…も、そうかも知れない…。
答え…というものが、水晶に映し出される…。
「自分には、興味が…無いの…?」
問いかける…ヴェローナ…の瞳の奥に映し出される…自身の姿…を、見つめる。
妖艶とも見てとれるヴェローナの滑らかな流線形が、俺の口元へと滑り込む。
自身の感情の起伏より、女…ヴェローナ…の身体の凹凸を感じる。
何よりも…目の前の…熱い心音が…記憶よりも確かに…ヴェローナの感情の一部として伝わる。
「さて…。刹那…。そろそろ…行きましょうか。捕らえていた鬼族の子ども…『影』が…とっても役に立ったわ…。私から与えられた膨大な【魔力】を存分に解放して…ね…」
女…ヴェローナ…の…『光』とも呼べる…『マナシス』…。
無傷で抵抗されることなく…自身の優位性を保ちながら…自我を、統合させる…。
つまり、『光』である『マナシス』を、『影』である『ヴェローナ』が、乗っ取る。【融合魔法】。
『光』と『影』…。
会えば分かるとされながらも、お互いを直視することは、目を背けたくなるほどに、決意と覚悟…それ以上に、勇気の要ることだと…聴く。
なぜ…か…俺自身が、そう言っている…。
自身に秘められ…隠された…『力』…が、より一層…水晶球に、映し出される…情けない男…を、目の前にして…静かに、叫ぶ。
「会ってみたい…」
鬼一族を一瞬で、闇に葬り去った…ヴェローナ…。
一族の集落に漂う『魂』と、その『影』の全てを吸収して…。
幼い鬼子を洗脳…【呪い】を施し…捨て駒の『影』として『マナシス』の『力』を削ぐために、放った…。
『闇』と『土』の属性を持たせて…。
今…。
目の前の…情けない男…を見て思う…。
「さて…。どうしたものか…」
命は、取らない。
なぜならば、『光』を失った『影』…つまり、俺自身が、魔物…あるいは、魔人と化して暴走するからだ…。
この幼い鬼子のように…。
それ故に…あくまで、統合…融合させるのが、目的だ…。
が、それ以上に、今は…この男…『シュンタロ』…を、見て…面白いと、感じている…。
隣立つ…『影』…ヴェローナは…『光』の『マナシス』を見て、恍惚とした表情を闇に浮かび上がらせ…口唇を紅潮させている…。
やはり…。
この世界には、興味が、無いが…。
目の前にいる…この男…には、興味が…ある。
男の隣に、突き刺さる…魔剣が、炎を噴き上げる。
赤く照らし出された…目には見えない…俺自身の感情が、より一層…激しく燃え上がる…。