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条約の花嫁  作者: 十々木 とと
番外編
92/114

玉簪(1)着手


「新しい型の髪飾りを商品化するにあたって権利関係の届けをしてほしいということなんですが、此方に持ち込んだっていうだけで私が権利を主張してしまって良いものなんでしょうか」


 雪江は宝飾デザイナーが書き上げた玉簪の図案のうち、基礎となる最も簡素な物を持ってテラテオス課を訪れていた。図案を眺めてハクスリーが首を傾げたので使い方を説明したのだが、真っ直ぐな棒一本で髪が留まるものなのかと不思議そうにしている。


「物の判断は担当部署じゃないとできませんが、そうですね、自らの考案ではなく故郷に既にある物だと伝えれば大丈夫ですよ。その場合、アルグスコフ人が考案者を騙るのを防ぐという視点になるので。夫人に勧めた宝飾店は実に良心的ですね」

「そうですね……多分デザイナーさんが誇りを持って仕事をしている人なんだと思います」


 言われるまでは忘れていたようだが。何かしらの理由でうっかりしていただけなんだろう、多分、きっと。内実は判らないが、雪江は神妙に頷いておいた。


「えーっとつまり……便宜上権利は個人に付与するけど、その個人を通してテラテオス人の考案だと示すことになるということですか」

「そういうことですね。考案者ではなく、輸出者としての権利と思ってくださればいいんじゃないですかね」


 雪江は考案者でもないのに権利を主張することに抵抗感があったが、どうやら騙りにはならないようで安心した。


「あ。じゃあ、権利者として収入があった場合は……テラテオスの知的財産に対する収入だから、何割かはテラテオスに納めることに…?」

「そこまで考えられていないです。現行の法律に当てはめて対応している形なので。同じような案件が増えればそういった議論も出てくるかもしれませんが、今のところ夫人の籍があるアルグスコフ王国に税金を納めることになります」

「そ、そうですか…」


 少しややこしいが、法律上の問題はないということだ。雪江は悩んだ。直ぐ様自活する必要も、ワイアットにお金を返す必要もなくなった今、急いで稼がねばならない理由はない。脚本監修の需要はあるのだから、其方だけでも少しずつ収入を増やすことができるだろう。ただ、あんなに作りたがっているデザイナーを無下にするのもどうかと思う。雪江自身も玉簪は欲しい。


「どうします? 出願しますか?」


 葛藤している雪江にハクスリーがそっと問うた。


「ぅお願いします」


 宝飾店との契約で得る実施料を元手に、庶民が気軽に手にできるような安価な物を作ることだってできるのではないか。雪江は思い切って頷いた。

 出願はハクスリーに手伝ってもらい、実態審査期間を経て無事権利を得ることができた。雪江は年単位かかる感覚でのんびり構えていたので、一か月程の早さで結論が出たのは意外だった。


「というわけで、作ってもらったの! 見て!」


 雪江は早速、帰宅してきたワイアットにお披露目する。真鍮の軸に、花嫁の首飾りから外した青緑の石を使ったものだ。見た瞬間にワイアットははっと何かに気付いた顔になり、雪江の背後に控えている護衛に目配せした。近寄ってきたコスタスに雪江の手ごと掴んで玉簪を持ち上げ見せる。


「武器に使える」


 雪江は笑顔で固まった。解っていた。装身具に対して良い悪い以外の反応は期待できないと。だからといって、そういう趣旨で見せたのではない。

 コスタスの顔が引きつりそうになった。確かに使えそうな形をしている。だが今はそういうことじゃないだろう。


「お教えします」


 コスタスは頭痛のする心地を微笑みの下に隠して、護身術訓練に取り入れることを承った。






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