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条約の花嫁  作者: 十々木 とと
第一章
40/114

40. ドナドナ


 ワイアットは経過日数から鑑みてコープランド男爵の事業所に近い中央の方に進んでしまっていたようだが、エアロンが村に着くまでの時間で折り返せるとのことで、エアロン死亡説は直ぐに流すことになった。

 予め渡していたエアロンの服を破き、狩った猪の血を大量に付けて、森に出ていた村人が村に戻って来る。肉片しか残っていなかった、獣に食われた、と騒ぎ立て、村民の安否を確かめる為に村長が村全体に招集をかけた。全村民が広場に集まり互いに無事を確認し合えば、では食われたのは何者だ、となった。一連の騒ぎを見守っていた盗賊達が仲間の安否確認後、エアロンに思い至る。血塗れの服を持ち帰る役と村長以外には本当の事を知らせてなかったから、演技が下手な村人の心配は要らなかった。

 前後してワイアットの方では一部の検問を徐々に解いている。偵察に出ていた盗賊が情報を持ち帰ると、リトラーが雪江を迎えに来た。


「そろそろ出立しようと思います。長いことお世話になりました」

「検問が解かれたのかい?」

「はい、犯人の逃走経路が絞れてきたようです。そちらに気を取られている今が好機ですからね。良い時に事件が被ってくれました」

「検問知った時にはぼやいてたくせに、現金だねぇ」

「ははは、お恥ずかしい」


 アラベラは呆れ、リトラーは白々しい笑い声を立てる。


「何処通るんだい。ここ数週間一人多かったから備蓄が足りなくなっちまってさ、買い出しに行きたいから迷惑料がわりに一緒に乗せていっとくれよ」

「構いませんが、お一人で?」

「なぁに、防具付けて帯剣でもしてりゃ、護衛に見えるから問題ないよ」


 中にはまるきり女のような顔をした護衛もいるのだ。アラベラの気楽な口振りで、いつもそうしているのだと理解したリトラーは疑うことなく同行を了承した。

 雪江はこの日を以て動きやすかったトラウザーズとお別れすることになった。アラベラの服は丈が合わないから、胸元の苦しいレーニア風ワンピースを再度着る羽目になっている。一度は慣れ始めていた足元まで覆う丈がまた煩わしく思うようになっていた。ハイラムとは事前に別れを済ませていて、アラベラを見送りに出た際に目線を交わすだけだ。


 盗賊団の十名と合わせて十二名は、体高が低めの剛健な中間種を用いた一頭立ての幌馬車三台に分乗して出発した。森深い中、馬車が一台ぎりぎり通れる幅の轍道を行く。


「そろそろこの辺折っとかなきゃ駄目だねぇ」


 細い枝が幌を打つ音がばちばちと何度か響いて、アラベラがのんびりと呟いた。

 前後を挟まれた中央の幌馬車に雪江とアラベラが乗せられている。商隊を装う為の商品や食料、各員の荷物の殆どは他の二台に積んでいる為、荷台は広く使える。雪江が寝かせられる予定だった綿布団に二人で座っていた。アラベラの同乗のおかげで雪江は薬を嗅がされずに済んでいる。御者役の他に同乗しているリトラーは、今は御者台に並んで座って何事か相談をしているようだ。


「アラベラさん、帰りは如何するんですか?」

「人足でも雇うから問題ないよ」


 リトラーが帰りのことを心配していなかったから何か方法があるのだろうとは思っていたが、その通りのようだ。仕事が終わった後に本当に買い出しをしていくようで、アラベラが日常生活然としているから、雪江は盗賊達に囲まれていても必要以上に緊張せずにいられた。

 リトラーが仕切り布を捲り荷台を覗き込んで、雪江は口を噤む。


「ロガルに寄りますが、降りますか?」

「ロガルか、あそこ食用オイル高いんだよね。次の街まで乗ってくよ」


 襲撃予定地はまだ先だ。アラベラはあっさりと躱す。

 街には他の二台が必要な物を仕入れに入り、雪江達を乗せた幌馬車は迂回路を通った。ロガルから三十分程過ぎた場所で落ち合えば、構成と顔ぶれが変わっていた。幌馬車は一台減り、騎馬が六騎になっている。


「へぇ、もしかして街ごとに変えて目眩ませてんのかい」

「まぁそんなところで」

「あんた達随分でっかい規模なんだね」


 アラベラが感心したように息を漏らすとリトラーは満更でもなさそうだ。だが詳しくは明かさず、アラベラも必要以上に追求はしない。雪江は規模の大きさに不安にはなるが、目的は盗賊団の壊滅では無いのだ。深入りしようとせず、大人しく商品に徹するのみである。

 新たな六騎に護衛されるように囲まれて森を貫く道を行く。此方は街と街を繋ぐ要路なので馬車が二台すれ違える程の道幅があり、土はしっかり踏み固められていて揺れが少ない。暫く代わり映えのしない一本道が続き、馬車や騎馬とすれ違う際に隊列を細くする以外の動きはなかった。退屈と平穏で一行の気持ちが緩んできた頃、登り坂に差し掛かる。左に逸れて丘へ続く分かれ道から小さな風切り音がした。


「ぐぁっ…!?」


 騎馬の一人が肩を押さえて落馬する。馬が竿立ちになり、何事かと隊列は止まった。






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