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条約の花嫁  作者: 十々木 とと
第一章
35/114

35. 村を彷徨き隊


 大人しく待つ、というのは存外辛い。雪江は何もすることがないので家事を全て請け負おうとしたが、アラベラ家の住人である少年の仕事でもあるので分担することになった。

 この少年はハイラムといって、アラベラと血の繋がりはないとのことだった。雪江より少し背が低く、日に焼けて真っ黒で、癖のある黒髪が軽く巻いている。目つきは悪く無愛想だが働き者で、アラベラを慕っているのが態度でわかる。偶に様子を見にくるリトラーに対して敵意を剥き出しにして雪江の前に立ってくれるから、少なくとも嫌われてはいないようだ。雪江がいるため、彼はアラベラと交代で家畜の世話や畑仕事に出ていく。アラベラはリトラーが来るとわかっていてもハイラムを置いて出掛けることがある。


「ハイラム君はアラベラさんに凄く信頼されてるのね」


 雪江が並んで繕い物をしながらその行為から感じたことをしみじみと漏らすと、ハイラムはむず痒そうな顔をしたので嬉しいのだろう。雪江は微笑ましくて和んだ。

 気持ちが落ち着けば冷静に状況を整理する頭も戻って来る。この村に迷惑がかからない形で逃げ出せる方法はないかを考えるにつけ、雪江は追っ手の状況が悪くなったことに気付いた。雪江の監視に人を割く必要がなくなった分、追っ手の始末に集中できるということだ。


「…ハイラム君。私、この村の中自由に出歩いちゃ駄目かな」


 雪江は何を馬鹿なことを言っているんだ、という目でハイラムに見上げられた。


「ほら、家畜の世話とか畑仕事とか、私にも手伝えることがあるかもしれないし」

「…………………………………………アラベラに聞いて」


 不機嫌になったので、ハイラムは反対のようだった。



「いいよそんなの、家のこと手伝ってくれてるだけでも助かってる」


 外から帰ってきたアラベラもあっさり却下した。


「私が村の中うろうろしてたら監視に人手が必要になりませんかね」

「…護衛が心配なのかい」


 雪江が渋々意図を話すと、驚いた顔をされた。何故そんな顔をされるのか解らず雪江は首を傾げる。


「いけませんか?」

「いけなかないけど、珍しいね。護衛が護りきれなかったからあんたこんなことになってんだろ。追っ手が護衛なら、そいつらはまだ仕事をしてる、それだけの話だよ。使えない護衛に激怒する女は見たことあるけど、気にする女は初めてだよ」


 今度は雪江が驚く。仕事をしない人間に対しての反応としてはありなのだろうが、雪江の護衛達はきちんと職務を全うしていた。


「いえそんな……あれは誰が護衛だって防ぎようのなかったことですし、…今は生死がかかってるんだから当たり前でしょう」

「ふぅん…? まぁどんな状況だったかは知らないけど、護衛の為に身を危険に晒すのは違うだろう」


 彼らが職務を全うする上で邪魔になる価値観であることは雪江とて百も承知だが、護衛と護衛対象で命の重さに違いが生まれるのが未だに受け入れられない。これがいつか、彼らに要らぬ不利益を産むことになりそうで目下の課題ではあった。だが雪江は、今は状況が違うのではないかと思う。


「ちょっと人の目を引きつけておくだけです。その間に護衛が動きやすくなって私の居場所を知らせることができれば、万事解決じゃないですか。これは献身じゃないんです。連携です」


 情けなくはあるが、雪江にできる最大限のことなのだ。ここは譲れない。雪江が真っ直ぐに切れ長の目を見詰めると、アラベラはふと息を抜いて、口元を歪めるように笑った。


「あんたに謝んなきゃなんないねぇ」

「何をですか?」

「怯えるだけの子兎ちゃんだと思ってたからさ」

「うッ!? …うぅん…?」


 子犬ですらなかった。

 衝撃を受ければ良いのか、道理で男達に相手にされなかったわけだと納得すれば良いのか。雪江は気持ちが整理できずに唸った。


「こ、怖くなるにはどうしたら良いですかね……?」


 雪江にとっては深刻な悩みだというのに、アラベラは吹き出して大笑いした。


「あー、笑った! 久しぶりに大笑いしたよ! まぁ無駄なことは置いといて」

「無駄!?」

「いいよ、但しあたしやハイラムから離れないこと。村の野郎どもにも目をかけとくように言っておくから、顔を覚えること」

「うぅう、はい…」


 雪江は置いておかれたことを突っ込みたかったが、真面目な話をされては流す他ない。


「後はそうだね、追っ手が本当に護衛かもわかんないし、出てきてもらわないことにはね」


 それからハイラムも交えていくつか話し合い、雪江は借りてる部屋を二階から一階に移すことになった。






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