表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
条約の花嫁  作者: 十々木 とと
第一章
13/114

13. 決壊


 訪ねた家は大きかった。二階の窓が横に三つ並んでいる。おそらく裏にも同じだけの窓があるだろう。部屋数が多いことが窺えた。


「ふ、普通のご家庭ですか。これ」

「子供が四人いるからな」


 ぽかんとした雪江に答えるワイアットは常態だ。門の中に立っていた護衛が取り次ぎ、程なく家主が出てきた。


「やぁ、いらっしゃい」


 雪江にも聞き覚えのある声だった。本部では視界が殆どなかったから顔は初めて見るが、騒がしい中紳士的に対応してくれた年嵩の男だ。

 榛色の髪を綺麗に撫でつけて、髪と同じ色の目に眼鏡をかけている。しっかりした顔の骨格の割りに目元が優しくて親しみやすい。ワイアットと並んでも遜色ない偉丈夫なのに、シャツとベストをきっちり着こなす姿は文人と言われても違和感のない、柔らかい空気を持っている。


「待ってたよ。僕はセオドア・ティーグ。気軽にセオドアと呼んで」

「雪江です。トコ・プルウィットを教えてくださって、ありがとうございました。良いお店ですね、マダムも凄く親切でとても気に入りました」

「役に立ったなら何よりだよ。さぁ入って。ルーシーが君に会うのを楽しみにしてたんだ」


 門を潜ると、雪江一行は家の外周をぐるりと回って庭に通された。


「ルーシー、来たよ!」


 セオドアの声に、白いテーブルセットで茶器を用意していた婦人が顔を上げる。


「貴女がユキエね! ルクレティアよ、ルーシーでいいわ。今日は天気がいいからお庭にしたの。座って座って!」


 ルクレティアは振り返るなり、大きな笑みで雪江を手招いた。

 狐色の大きな吊り目に高い鼻梁、高い頬骨に大きな口。鮮やかな茜色の髪を顎のラインで切り揃えた、快活な印象を与える雰囲気美人だ。雪江と比べると肩幅があり、背も高くて豊満だ。雪江もそれなりに胸もお尻もあるが、並ぶと華奢に見えてしまう。

 民族は明らかに違うのに、同じ世界の人間だと思うと雪江は胸がいっぱいになる。


「ルーシー、さ…」


 雪江はルクレティアしか見えていなくて、セオドアが「君はこっちだよ」とワイアットを連れて家の中に消えたことには気付かなかった。


「ルーシーさん、これ、子供達に人気だっていう焼き菓子屋さんのマフィンなんですけど、良かったら」

「ありが…ユキエ!?」


 雪江は胸がいっぱいになり過ぎて、包みを渡しながら涙が溢れてきた。


「ごめんなさい、こんなつもりじゃ…私、自分がこんなにストレスに弱いと思わなかっ…だって、テラテ…ルーシーさ…」

「いいわ、沢山泣いて。この際だから全部出し切っちゃいましょ」


 ルクレティアは包みをテーブルに置いた。要領を得なくなりつつある雪江を抱き締めて、宥めるように背中を撫でる。その撫でる手の優しさに、包み込む人の温もりに安堵して、雪江は子供のように泣いた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ