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条約の花嫁  作者: 十々木 とと
番外編
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休暇計画(2)甲斐性問題


 前回分と今回もお世話になるお礼を兼ねて、村人達には村長を通してワイアットからという体をとりドライフルーツを渡してもらっている。酒の方が喜ばれそうな気がしたが、荷物の重量の都合で村で収穫できない日持ちのするものとなったのだった。アラベラにはドライフルーツに加え四人が間借りする滞在費、マント留めに加工した軸が金属のとんぼ玉。ハイラムにはタザナで子供に人気の焼き菓子だ。ハイラムは相変わらず無愛想だが、包みの中を確かめた時に僅かに表情が緩んだので、喜んでくれたのが判った。


「へぇ。自分で稼いでんのか。旦那形なしだねぇ」

「えっ、そういう話になります?」


 マント留めの説明で玉簪の話になり、感心したようなアラベラの相槌に雪江は軽く目を見開いた。


「なるだろ。妻一人養えない甲斐性なし」

「ちゃんと養ってもらえてますよ!? お金に困ったとかじゃなくて、私向こうでずっと働いてたし、だから稼ぐのは普通で、心の安定みたいな潤いみたいな……稼いだお金もこういう我儘に使ったり今後の生活費の足しというかあれ? いやだから足りないとかではなくより充実した生活になるというあれで」


 当然のような断定に慌てて雪江が説明していると、言い終わらないうちに、く、とアラベラの喉奥で笑いが詰まったような音がした。


「わかったわかった、テラテオス女のあれそれね」


 大雑把に理解を示したアラベラは、可笑しそうに喉を鳴らしている。雪江は肩を落とした。


「甲斐性なしって受け取られちゃうんですね。他の人にもそう思われてると…」


 故郷でもそう認識する人がまだいるくらいなのだから、此方では尚更だろう。少し考えれば判ることなのに、ワイアットが何も言わないからと甘えがあったかもしれない。彼ならそう言われていても雪江には言わない気がして顔色が悪くなった。彼が問題にするのはいつも雪江の安全だけだ。


「どうしよう私今度こそワットの評判悪くしてる…」

「まあまあ。女養うにゃ金がいくらあっても足りないからさ、実際破産する男もいるんだよ。補助金制度ができたのは、金持ちばかりが家庭が持てるのはずるいって不満が高まって危なかったからって話もあるくらいだ。そいつらの給金だって、いくらかは補助金で賄ってる筈だよ」

「それは……聞いてますけども」


 アラベラの顎で示された雪江の背後には護衛達がいる。

 補助金は収入によってその金額が変わる。正規軍人の収入は安定していて計算しやすく揉め事にもなりにくいから助かる、というのはハクスリーの言だ。補助金があっても住宅購入の際には相当な出費だった筈だが、ワイアットには使う当てがなくて結果的に貯め込んでいた分があるので、無茶な贅沢をしなければ破産は遠い。今回の件は贅沢のうちに入るからと、雪江が費用を用意するつもりだったのだが、少々揉めて折半することで双方妥協した。甲斐性問題になるくらいだ、男のプライドもあるのかもしれない。


「だから、ま、それがなきゃ旦那だってどうなるか判らない。稼ぐのは悪いことってわけじゃあないんだよ」


 まだ情けない顔をしている雪江にアラベラは面白がる色を引っ込め、眉を下げるようにして笑んだ。


「世間にどう思われるか知ってて商売許してるなんて、器のでっかい男じゃないか。あんたの旦那はいい男だよ」


 ワイアットを褒められるのは雪江は嬉しいが、世間的な評価は否定されていない。


「帰ったらワットと話し合います…」


 先ずは考えなしだったことを謝り、今後は雪江の行動がどういう影響を及ぼすのかきちんと説明してくれるようにお願いしなければ。雪江とて彼を守りたいのだと知って貰わねばならない。落ち込んで見えたからか、その晩ハイラムが甘いホットミルクを出してくれた。






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