表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/64

夏休みの予定

 溢れ出る汗を拭きながら、私は目の前で繰り広げられている会話を聞いていた。

 話題となっているのは、もうすぐ迎える夏休みの事だ。


 大学の夏休みは長い。

 しかし、思い切り遊べる学年は限られているわけで。

 とある先輩によると、低学年のうちにやりたいことを全てやるのも、一つの手だという。

(私はレオドール様の連絡を待たないといけないから、夏休みは殆ど遊べないだろうな。まぁ、葉月さんと一緒に過ごせるから良いんだけど! あぁ、でも少しでいいから、二人でお出かけとかしてみたいなぁ)


「──ってことでどう? 結奈」

「ふぁい!? 」

 ぼんやりとしていた私は、突然話を振られて奇声を上げた。

 どうやら浮き足立ちすぎたようだ。

「今年の夏はかなり暑くなるらしいから、避暑地に旅行でも行こうって話していたのよ。もう! 結奈は直ぐに思考を飛ばすんだから」

 麗が呆れたようにそう言った。


「ごめんって」

 そう謝りつつ、魅力的なお誘いにグラつく心を律する。

 葉月さんを一人にしてはおけないし、何より旅行はお金がかかるのだ。

 家庭事情もあり、学費は奨学金でなんとかなるものの、生活費は両親が残してくれたお金を使っている。

 つまり、旅行に充てるお金など無い。


 さて、どうやって断ろうか。

 麗は、そんな私の心を読み取ったのか、それはもう目にも止まらぬ早さでスマホを弄り、とあるページを提示してきた。

旭谷あさひたに動物園】

 その文字と共に載っている、動物達の写真。

 中でも、実際に触れ合えるコーナー【小動物ふれあい広場】が目を引く。


 ホームページ画面に、私の瞳孔は全開だ。

 もふもふ不足の指先が勝手に動き出す。

 溢れかえるほどのもふもふの画像に、私は手を伸ばした。

 しかし、所詮それらはスクリーン上のものであり、触れてもつるんとしていてもどかしい。


(悔しい! 目の前にもふもふがあるって言うのに、触れないだなんて!! )

 ぐっと歯を噛み締める私を見て、麗は勝ち誇った笑みをうかべた。

「結奈が一緒に行くのなら、ここも行く場所リストに追加してあげるわよ? 」

「くっ……! そう来たか」


 麗と明日香は、私のもふもふ好きを知っている。

(これは手強いぞ……)

 鼻先に突きつけられている画像から目が離せなくて、私は頭を抱えた。

 そんな私に追い打ちをかけるように、麗は続ける。

「私のサークル仲間にね、旅館の跡取りがいるのよ。知り合い割引で安くしてもらえるわよ」

「そ、そんな……」


 そんなうまい話があるのだろうか。

 友人からの旅行のお誘い。

 動物園でもふもふ三昧。

 そして、極めつけは宿代の割引。

 それらが天秤の重りとなってのしかかる。


 だが、もう片方の重りも中々ずっしりしているのだ。

 何しろ、好きな人との同居ライフである。

(葉月さんと一緒に居たい……。それにいつ、レオドール様から連絡が来るか分からないもん)


 レオドール様の見立てによると、葉月さんが常世に戻れるのは2週間後らしい。

 とはいえ、見立ては見立てだ。

 数日の誤差があってもおかしくは無い。

 もしも予定より早く連絡が来てしまったら、葉月さんと過ごす時間が減ってしまうのだ。

 葉月さんが常世に戻ること。

 それは、葉月さんとのお別れを意味する。


 そう思うと心がズキリと痛んだ。

(明日香達との時間は勿論大事だけど、でも今は……葉月さんとの時間を大切にしたい)

  ぐっと拳を握って、私は頭を下げた。

「ごめん、それでも金銭的にキツいんだよ。私のことは気にせず、二人で楽しんできて」


 私の固い意思が伝わったのだろう。

 二人は残念そうな表情を浮かべつつ、了承してくれた。


動物園の名前が、どこか見覚えのあるものなのはご愛嬌ということで( ᵕᴗᵕ )


今シリーズは随分と和やかな雰囲気ですが、そろそろ物語は動き始めます。

そういう訳で、次回はその発端について書きますね!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ