本当の姿
皆の驚く声を背に、私は諦めたように下へ降ろされた葉月さんの両手を握り込む。
そして、みんなの方を振り返った。
「違うの、みんな。理由は話せないけど、でも葉月さんはあのオオカミとは違う。優しいひとなの」
私の言葉に、氷のように冷たい手がピクリと震える。
そして、ギュッと私の手を握り返した。
「葉月さん?」
顔を見上げる私に、葉月さんが真っ直ぐな瞳を向けてくる。
「結奈さん。私の方から皆さんに説明してもよろしいですか?」
なにやら決心のついた顔でそう言われ、私は目を見開いた。
「いいんですか?だって、その……理がどうとか、あるじゃないですか」
そう尋ねると、葉月さんはやんわりと首を横に振った。
「結奈さんの大切なご友人ですから。このまま何も言わずにいることは、私が嫌なのです」
「でも……」
無理をしているのではないだろうか。
そんな私の疑惧を読んだように、葉月さんはふっと笑いかけた。
「大丈夫です」
私と葉月さんの会話が途切れたところで、翔月が「とりあえず」と背を向けた。
「神崎も葉月くんも疲れているだろうし、部屋に戻るぞ。説明、してくれるんだろ?」
その背中に、葉月さんが「はい」と返答した。
他のみんなも、どうにか警戒を解いて旅館に戻る。
そのまま私たちは男性陣の寝泊まりしている部屋に直行した。
その際、誰一人として口を開く人はいなかった。
部屋に入り、私たちは落ち着かない心地で立ち尽くした。
雀の爽やかなさえずりや羽ばたく音が障子の向こうから聞こえてくる。
ずしりと重い静寂を破ったのは、やはり翔月だった。
「それで?」
葉月さんの方を見ながら、翔月が畳の上にあぐらをかく。
それに習って、私達も丸くなって座った。
葉月さんは全員が聞く姿勢になったのを確認してから、「皆さんからしたら荒唐無稽な話に思われるでしょうけれど」と前置きをして、全てを話した。
常世や妖の存在、私の身に起きたこと、偽神様と呼ばれる自分のこと。
教え方が上手なだけあって、ずいぶんと分かりやすい説明だったが、翔月たちは混乱した様子で耳を傾けていた。
説明が終わると、葉月さんはおもむろに立ち上がり、自分の荷物の中から一枚の紙を取り出した。
それは変化の術に使うお札だった。
神力のこもった紙は非常に丈夫で、片手で持っているにもかかわらず、ピンと張っている。
深呼吸をひとつして、葉月さんがそのお札に手をかざす。
すると、紙は糸が切れたようにクニャリと垂れ、春風のような温かい突風が巻き起こった。
包み込むような柔らかい風が視界を白く染める。
風はすぐに収まったが、その一瞬のうちに部屋の空気が神聖なものに変わった気がした。
突風が消え、視界が明瞭になる。
目を開けると、そこに居たのは見慣れた霊狐姿の葉月さんだった。
三角にとがった狐耳に、キラキラと輝く銀の長い髪。ふわふわの大きくて立派な尻尾。
翔月たちの息を呑む気配がした。
「マジか……」
一番理屈っぽい拓真が、唸るように呟いた。
各々の反応を見る前に、葉月さんは静かに畳に両手をついた。
「騙すような真似をしてしまい、申し訳ありませんでした」
綺麗な姿勢で座礼する葉月さんの隣で、私も同じように頭を下げる。
「私も、嘘をついてごめんなさい」
謝罪の言葉を述べると、改めて自分のしたことが悪いことなのだと理解した。
嫌われてしまったかもしれない。
友達と呼ばせてもらえなくなるかもしれない。
そんな不安でいっぱいになる。
だが、それは杞憂に終わった。
みんなに顔を上げるよう言われ、おそるおそる上体を起こすと、そこには安堵の表情を浮かべた五人の姿があった。
「そりゃ、本当のことなんて言えないだろ」
姿勢を崩しつつ、泰智が笑った。
「だって、事情がファンタジーすぎる。実際に見ている今だって、信じらんねぇもん」
「だな。だいぶ驚いたけど、話はわかった。要するに葉月くんは危険なヤツじゃないってことだろ。なら、俺らから言うことは何も無いな」
翔月の言葉に、みんなが大きく頷いた。
「そうね。結奈を助けてくれたんだから、むしろお礼を言わないと」
「うん、私もそう思う。ビックリはしたけど、なんか納得もしたよ。結奈が2ヶ月も休んで連絡ひとつしなかったこととかね」
麗と明日香がそう言って笑顔を向けてくれるので、私はホっとして肩の力をぬいた。
次でとうとう北海道旅行の話は終わりです。




