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松葉色の思い

 想いを託した、葉月さん色の首飾り。

 まぁ、実際は託そうとして出来なかったのだから、恋というのはつくづく厄介だなぁ、なんて思うのだけど。

 とにかく、複雑な心情をぶつけた宝石が、どういうわけか今、私の胸元で揺れている。

 しかも、送り主はその心境の中心にいるひと。


「その……迷惑でしたか?」

 あまりの驚き具合に固まっていた私は、不安そうな声にハッと我に返った。

「そんなことあるわけないじゃないですか!嬉しいに決まっています!」

 いろんな感情がこもって、大きな声が洞窟内に響き渡る。


 こだまする自分の声に恥ずかしくなって、そっと口元を押さえた。

 そして一呼吸つくと、「ありがとうございます」の言葉とともに微笑んだ。


 私の言葉に安堵の表情を浮かべた葉月さんは、今度は照れたように目をそらす。

「ええと……それでは、行ってきます」

 早口にそう言って、早々に立ち去った。


(どうしよう。私、今すっごく気持ち悪い顔してる)

 葉月さんの出ていった入口を見つめながら、私は顔をペタペタと触りまくった。

 何かを期待する自分と、そんな自分をどこか遠くで冷静に見ている自分。

 溢れんばかりのニヤケ顔を抑えようとして、ふやけたシリアルのようにフニャンフニャンな表情が、翡翠に浮かんでいる。


 うん、気持ち悪い。

 けれど、湧き上がるこの気持ちを一体どう処理しろというのだろう。

 葉月さんからの贈り物。それもアクセサリー。

 ただ単に私が欲しそうにしていたからなのか、本当に似合うと思ってくれたのか、それとも──。


(ううん、やめておこう。期待しちゃだめだ。だって葉月さん、そういうことに(うと)そうだし。というか実際疎いし)

 絶対に他意はない。

 納得するように一人で何度も頷いてみる。

 そうして少し心が落ち着くと、改めてペンダントを覗き込んだ。


「うん。やっぱり綺麗」

 深緑の翡翠と、そのてっぺんに咲く水晶の小花。

 シンプルなデザインの中に潜む繊細さは、どこか儚い印象を与えてくれる。


(そういうところも含めて、葉月さんっぽい)

 しっかりと存在しているのに、(まばた)きした瞬間に消えてしまいそうな感じがとくに。

 つと、嬉しさに切ない気持ちが滲んだ。


 ペンダントを贈ってくれた理由。

 それは、お別れが近いということを知らせているのではないだろうか。


 当たり前は、(いず)れ当たり前じゃなくなる。

 生きている一分一秒が、泡沫(うたかた)の夢のように流れ、移ろい、消えてゆく。

 それは命だったり、人との繋がりだったりするのだけど、それらがあっという間に終わりを迎えることなど、別段珍しくもない。


 だってそうだ。

 誰にでも劇的な最期を用意してくれるほど、人生は綺麗ではないのだから。

 そのことを私も葉月さんもよく知っていた。

 だからこそ口にして傷つけたくないし、できることなら変わらずにいたい。

 永遠を信じていたい。


 もし葉月さんがこのペンダントを自分自身と重ねているのなら、離れていても寂しく思わないでほしいとか、そういう思いを込めたのではないだろうか。

 そうだとしたら、すこし(まず)い。


 これは出会った当初から感じていたことだが、何となく葉月さんは自分の『生』に関心がないような気がする。

 常世で私を助けてくれたことだって、死に場所を決めていたからこその行動のように思えるし、実際にそういう嫌いはあった。

 だから私は、葉月さんに現世に来るよう提案したのだ。


(まあ、お別れしたくなかったという理由もあるけど。それと同じくらい、このひとをこのまま独りにしてはいけないって思ったんだ)


 どこか危うい彼を引き留めるために。

 生きたいと、幸せになりたいと、そう思えるようになってほしくて。

 その役目が私ではないと分かったら、(いさぎよ)く手を引くつもりだけど、でも……

(でも、それまでは私が──)


 ハッとして私は顔を上げた。

 ずいぶんと長い間、物思いに(ふけ)っていた気がする。

 すぐに考え込むのは私の悪い癖だ。

 自分が納得するまで考えて、考えて。そうして解決するまで、私の歩みは進まない。 

 そう、何かが私の思考を止めない限りは。

さて、何が結奈ちゃんの思考を邪魔したのでしょう?

(*´ ꒳ `*)

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