避暑地へ
青い空、白い雲、見渡す限りの豊かな高原。
そよそよと頬を撫でる風が心地良い。
大きく息を吸えば、干し草の甘い香りが鼻腔をくすぐった。
そう、私たちは今、三泊四日の北海道旅行のスタート地点に立っているところなのだ。
飛行機で約二時間程して着くそこに、あの纒わり付くような暑さはどこにも見当たらない。
「涼しい……」
隣でそう呟いたのは、人に変化した葉月さんだ。
黒のスキニーパンツと白無地のTシャツ、そして明るい青色のリネンシャツをサラッと着こなした彼は、眩しそうに青空を見上げている。
「良い天気ですね、葉月さん! 」
私がそう話しかければ、にこやかな微笑みと共に、
「そうですね」
という嬉しそうな声が返ってきた。
(あぁ、本当に大変だった。私達の邪魔になるとか言って遠慮する葉月さんを説得して、どうにか一緒に行くことができたんだよね。麗達に誘われた日からほんの数日しか経っていないけど、長かったなぁ……)
「結奈とイケメン君! もうバスが来てるわよ! 早くしないと置いていくからね? 」
しみじみと思い返していると、麗の私たちを呼ぶ声が聞こえた。
空港から直接宿まで行ける無料のシャトルバスが、どうやら到着したようだ。
バスに乗りこんで、私達は一先ず予定の確認をすることにした。
因みに、ここにいるメンバーは麗と明日香、葉月さんと私、それから同じ学部の遠藤拓真と牧野泰智の六人。
今回誘ってくれた旅館の跡取りこと、市ヶ谷翔月とは後で合流する予定なのだ。
「まずは宿に行って、翔月のご両親に挨拶しないとだな。何しろ、宿代を殆どタダにしてくれたんだから」
泰智の言葉に、私たちは揃って頷いた。
かなり名の通った宿で、学生のバイト代では到底泊まることの出来ない所である。
二部屋なら、と貸し出してくれた翔月のご両親には、本当に頭が上がらない。
それにしても、と私は窓の外に目をやった。
流れる景色は青と緑で埋め尽くされ、時たま見えるヒグマやウシの動物注意標識は、北海道に来たことを強く実感させてくれる。
因みに、ツキノワグマの生息する九州や四国では、クマに襲われたとき専用の病院が設立されているが、ヒグマの生息する北海道では存在しないという。
理由は簡単。ヒグマに襲われて生き残る者がいないから。
そんな話を以前、翔月が笑い混じりにしていた。
専用の病院が本当にあるのかは分からないが、それだけヒグマは危ないのだろう。
(見た目は可愛いのにね。一度で良いからモフってみたいなぁ……)
どんな触り心地なのだろうか。
写真で見る限りではゴワゴワしていそうな毛質だが、案外柔らかいのかもしれない。
いいや、ツヤサラという可能性も否めない。
(うーん、サラサラかゴワゴワか……それともフワフワ? 写真だけじゃよく分からないよね。よし、決めた! 動物園で確かめてみよう! )
私は心の内で何度も頷く。
今日はとうとう、待ちに待った動物園に行く日なのだ。
(楽しみだなぁ。色々な場所を、葉月さんや皆と見に行くんだ。これはきっと、最高の旅行になるね! )
和やかに、賑やかに、私たちの旅は始まった。
けれど、私達はまだ知らない。
この旅が、生涯忘れることの出来ないほど驚天動地なものになることを。
影が一つ、動き始めた。
筆者が北海道に行ったのは、結構前の話。
よって今回のお話は、ぼんやりとした記憶と、ネットで調べた知識と、そして北海道出身のとある先生のお話を元に書きました。
本当は直接行って書くべきなのでしょうけど、このご時世ですからね( ˊᵕˋ ;)
北海道在住の方、もしくは北海道に行ったことのある方へ。もし何かおかしな点がございましたら、ご指摘よろしくお願いします。




