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謎の組織

 事前に決めてあった合流地点は、出雲町と天中の狭間に位置する屋敷だった。

 屋敷といっても大層なものではなく、こぢんまりとしていて、この辺りで任務を遂行する際の拠点とされている建物だ。


「お疲れ様です」


 門番をしていた二番隊の隊員が、やって来たタウフィークとハサンに敬礼する。


「お疲れ。隊長は中に? 」


「はい。それと犯人も。尋問室にいるので、そちらへ向かうようにと伝言を預かっております」


 さすが追跡に特化した二番隊。

 きちんと犯人を捕らえたようだ。


 二番隊にはボーナスを、と頭の隅で考えつつ、タウフィークはハサンと共に尋問室へと歩を進めた。

 尋問室は地下にあり、犯人が逃げないよう、隊員達は厳重の警備体制をとっている。


 屋敷の出入口に二人、地下への扉に二人、そして尋問室前に三人。

 タウフィークとハサンが通る度に、それぞれ敬礼をしていく。


 そんな彼らに応えている間に尋問室に着いた。

 ドアを開ければ、狭い部屋にフードの男と二番隊の隊長、ウダイがいた。

 既に尋問を始めているようで、質問内容を書き留めている。


「ウダイ。何か分かったことはあるか? 」


 そう尋ねれば、ウダイは苦々しく首を振った。


「残念だが、あまり収穫は無さそうだ。こいつは組織の下っ端で、古文書を盗むためだけに雇われたらしい」


「組織? 」


 タウフィークの隣で、ハサンが呟いた。

 その呟きをきちんと聞き取ったウダイは、手元の紙をタウフィークに渡しつつ頷く。


「ああ。元は小さな組織だったが、最近になって増員し、今ではかなり巨大な組織になっているとか」


 紙に書いてあったのは、犯人と組織についての僅かな情報。

 本当にこの犯人は下っ端だったのだろう。

 上層部との接触は1ミリも無い。


「これだけじゃ分からないな。他に何か情報は……そういえば、肝心の古文書はどうした? 」


 犯人に気を取られて今の今まで忘れていたが、犯人が捕まったということは、つまりは古文書も取り返せたことになる。


(手がかりになるかもしれない)


 少し見え始めた希望の光は、しかし直ぐに打ち消されてしまった。


「言っただろう? 俺は下っ端だと」


 そう言って笑う男の言葉に、ウダイが顔を歪ませた。


「追っている最中、数メートル先の物陰から仲間と思われる妖が現れた。敵襲だと身構えた我々の隙をつき、そいつは古文書を手にして走り去っていった。二手に別れようとしたが、既に行方をくらましていて、追跡は出来なかった」


 つまり、目の前にいる犯人は捨て駒だったのだ。

 この男から得られる情報はない。

 しかし──


「腑に落ちないな」


 腕を組んで壁に寄りかかり、タウフィークは男を睨んだ。


「お前はうちの五番隊をたったひとりで戦闘不能にまで陥らせた。そんな腕の立つ者が下っ端とは、納得がいかない」


 そう言うと、男は更に笑みを深めた。


「へぇ、随分と俺の腕を買ってくれるじゃねぇか。嬉しいねぇ」


 張り詰めた空気に流れる間延びした声。

 その声は、部屋にいる者全員の神経を逆撫でし、胸を悪くさせた。


 ただ単にタウフィーク達を苛立たせたいだけなのかもしれないが、何かをはぐらかされた気もする。


「お前の腕じゃない。五番隊の腕を買ってんだよ」


 タウフィークは吐き捨てるように言い、二人に外へ出るよう合図した。


 揃って外に出れば、三人は一斉に深く息を吐いた。

 犯罪者との会話は精神を消耗する。

 己の心が黒く染っていくような感覚は、何度体験しても気分の良いものではない。

 六つのうさぎ耳は、力なく垂れ下がっていた。


「これからどうする? 」


 ハサンの問いかけに、タウフィークは思案顔で目を伏せた。


「情報が無ければ動くことは出来ない。とりあえず、三番隊を出動させる。有益な情報を得次第、一番隊と俺で始末をつける。二番隊はここで待機。奴は敵が見せた唯一の尻尾だ。いくら下級でも掴んでおいて損は無い」


「分かった。三番隊にはこちらで伝えておこう」


 スラスラと考えを述べるタウフィークに、ウダイは大きく頷いて見せた。


 因みに、アルミラージ一族は一から十までの隊に分かれている。

 一番隊は急襲、突入部隊。

 一族の中で剣の腕がトップクラスな者達が集まる。


 二番隊は追跡、取調べの部隊。

 剣の腕よりも座学を得意とする。


 三番隊は監察。

 簡単に言ってしまえば、スパイのようなものだ。

 完全な裏方で、殆ど剣を持たない。


 四番隊は救護専門の隊。

 そして五〜七番隊は警備隊だ。

 剣の腕は人並みだが、長時間の護衛に耐えきれるほどの、強靭な精神力と体力が必要となる。


 八〜十番隊は見習い剣士が当てはまり、一族の17歳以下は全員ここに区分される。


 そして、これら全ての隊の上に立つのが、副族長であるタウフィークだ。

 一族のトップである族長に作戦の提案をしたり、現場に行って直接指揮を執ることもある。

 食中毒事件の時のような、緊急事態にのみ護衛の仕事もする、言わばオールマイティな役職だ。


「ハサン、俺たちは今のうちに報告に行こう」


 タウフィークの言葉に、ハサンは嫌そうな顔をした。

 政府からのお叱りが待ち受けているとなると、その反応は当然だ。

 低く呟かれた「ああ」という声も、やはり嫌そうだった。

アルミラージ一族の説明が入りましたが、ほとんど作中で使われませんでした(笑)

……残念。

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