表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/64

魅惑的なお誘い

「ここまで来たら、全て吐いてもらおうか」

 ねぇ、結奈?

 黒髪ロングの美少女が、私に向けて勝ち気の笑みを向けた。

 腕を組んだ彼女の目は楽しそうにきらめいている。

「観念なさい! もう逃げ場なんてないんだからね!! 」

 隣で頬を膨らませる少女も、物騒な言葉とは裏腹に笑顔を浮かべている。

 そんな二人と向かい合って、私と葉月さんは座っていた。


 ──遡ること十五分前。

 転びかけていた私は、葉月さんによって引き戻された。

「大丈夫ですか? 」

 そう尋ねられ、私は小さく頷く。

 何か言おうと口を開いたとき、私の腕を掴んだ犯人が現れた。


 大学の同級生、関谷麗だった。


 色々と聞きたいことがある、話したいこともある。

 そんな言葉を連ねながら、麗はあれよあれよという間に私を攫ってしまったのだ。

 そうすれば当然、葉月さんもついてくるわけで。

 席をとっていた明日香と合流して、今に至る。


 彼女達が私に尋ねたのは、勿論葉月さんのことだ。

「今の今まで浮いた話の一つも無かった結奈が、なぜ男と二人きりで歩いているのか。さぁ、正直に話すのよ! 」

 ビシッと私を指さして、麗が言った。

 一方、話題の中心である本人は、困ったように私と麗を見比べている。


「えっと……あ、ほら! 私、この前入院していたでしょ? そのときに仲良くなったの。病室が一緒だったから」

 何とかそれらしい話を作るが、麗と明日香は未だ疑わしげにこちらを見ている。

 そうだよね? と葉月さんの方に目配せすると、目を泳がせながらも首肯してくれた。

(わぁ、なんて嘘っぽい肯定! )


 ともあれ、こちらの話は終わった。

「それで、話したいことって? 」

 そう尋ねた私に、麗は真剣な面持ちで頷いた。

「この前話した旅行の件よ。ほら、避暑地に行こう言って、結奈が断ったやつ」

 あぁ、あれね。

 そう反応する私とは反対に、隣から「え? 」と小さく声が漏れた。


 私が葉月さんの声に答える間もなく、麗は続ける。

「結奈が行けないって話したら、旅館の跡取りが拗ねちゃってね。あまりにも落胆するものだから、アドバイスしたのよ。それも、かなり無茶な提案だったんだけど……」

 苦い顔をして話を途切れされた麗に、私は何となく察する。

(その無茶な提案にノっちゃったのね)


「それで、どうアドバイスしたの? 」

 怖いもの聞きたさで尋ねれば、目を逸らす麗の代わりに、明日香が口を開いた。

「宿泊費、全額無料」

 ポンと投げられたその言葉に、私達三人は沈黙した。


 その旅館の跡取りが誰なのかは分かっていた。

 高校、大学と同じ学校に通う男子で、割と気心知れた仲だ。

 正直、友人との間に金銭の事情を入れたくない。

 だが、断るための理由が思い浮かばない。


 どうしようかと悩んでいた私は、ふと左手に何かが触れたことに気づいた。

 見れば、葉月さんが私の手に自分の手を重ねている。

 その手が僅かに神力を帯びていて、私はぎょっとした。


「あの、結奈さん」

 唐突に聞こえた葉月さんの声。

 しかしそれは、空気が振動して伝わったものではなかった。

 直接頭に響くような、そんな感覚だ。

 実際、葉月さんは口を動かしていない。

(どういうこと!? )


 驚いてアタフタする私に、葉月さんはなおも続けた。

「あまり公の場で話さない方が良いと思い、勝手ながら術をかけさせていただきました。私が結奈さんに触れている間、声を出さずとも会話できるようになるのです。驚かせてしまい、すみません」

 小さく微笑む葉月さん。

 謝っている割には、どこか楽しそうだ。


「それじゃあ、この会話は二人に聞こえていないんですね? 」

 口を動かさずに、脳内で聞く。

 すると、葉月さんは満面の笑みを浮かべた。

 しかし何故だろう。

 葉月さんの目が笑っていない気がする。


「ええ。少し込み合った話をするので。それで……結奈さん」

「は、はい」

 いつもより低い声が、私の脳に直接届く。

 ただならぬ雰囲気に、自然と背筋が伸びた。


「ご友人との旅行をお断りしたというのは本当ですか? 」

 綺麗な笑みを浮かべているのに、背後から黒いオーラが溢れ出ている。

 ──まずい。

 私はゴクリと喉を鳴らした。

(なんか怒っていらっしゃる! )


 何に怒っているのか分からないが、これは完全に黒狐バージョンの葉月さんだ。

 そう、あれは黄泉の従者を追い返した時や神桃楽しんとうらくの店主を脅した時のこと。

 相手の隙を容赦なく突いて、言葉巧みに窮地を乗り越えてきた。

 そんな彼を口で負かすことなど、到底無理だ。


(何が葉月さんを怒らせたのか分からない以上、正直に答えるしかないね……)

 私は包み隠さず、事情を話した。

 特に動物園のことは、それはもう熱く語った。

 最後まで口を挟むことなく聞いてくれた葉月さんは、話を聞き終わると同時に不満顔になる。

「言ってくだされば良かったのに。折角のお誘いですよ? 私のことなど気にせず、楽しんできてください」


 流石葉月さん。

 お金が無いから断ったと、そう伝えたはずなのに、葉月さんは本当の理由を見抜いてしまった。

(でも少し違うんだよね。葉月さんは、自分がいるから断ったって思っているけど、本当は……本当は葉月さんと一緒に居たいから断ったんだよ)


 なんて、口に出して言えないけれど。

 情けないなぁ、とため息を吐きかけたとき。

「それがいいわね」

 何やら話し込んでいた麗と明日香が、名案とばかりに頷きあった。

 どうやら、話がまとまったらしい。

 二人は私達の方に向き直って、ニンマリと笑った。


「ねぇ、結奈。そのイケメンさんも一緒に、皆で北海道に行かない? 」


怒った葉月さんはレアです( ˵・・˵ )

普段怒らない人が怒ると怖いと言いますが、葉月さんに関しては怖くなかったかな笑


次回はなんと!あの素敵紳士が出ます!!




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ