社会を変えたSF
(* ̄∇ ̄)ノ 寄才ノマが極論を述べる
物語が社会を変える。
などと言えば空想家が何を世迷い言を、と言う人もいるかもしれない。
変わった例ではあるがひとつの事例を紹介しよう。
■ロボット
ロボットと聞けば何を思い浮かべるだろうか? 人が操縦する人型のものから、工場で働く工業用ロボット、ペットの形をしたロボット。
最近では店の受付をするロボットもあり、SFにおいては暴走する機械が人間の敵となったりもする。
ロボットが概念として誕生したのは1920年。
チェコの戯曲家カレル・チャペックの『RUR』これに出てくる人造機械人間が始まりだという。
その後、近未来社会を描く作品で人造人間が登場するようになる。
■ロボット三原則
ロボットで有名なものが、このアイザック・アシモフの描いたロボット三原則。『われはロボット』の中で登場した。
第一条
ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条
ロボットは人間の命令に服従しなければならない。ただし、その命令が第一条に反する場合は、この限りでは無い。
第三条
ロボットは、第一条及び第二条に反する怖れのない限り、自己を守らなければならない。
このロボット三原則は後のSFに大きな影響を与えることになる。
では、なぜこのロボット三原則が産み出されたのだろうか?
■ロボットは人間の敵
当時のSF作品のロボットとは、人間の敵役として描かれているものだった。
ロボットを描いた近未来社会の物語では、ロボットが民衆の仕事を奪い失業者が溢れる、また、為政者がロボットを使い人間に暴力を奮い圧政を行うなど。
機械文明の発達した社会に対する民衆の不安や怖れがロボットを敵役とする物語となった。
その風潮の中でアイザック・アシモフがロボットを扱う作品を描くときに、人造の機械知性に対する民衆の不安を取り除かなければ、ロボットは人々に受け入れられない、と考えたのではなかろうか。
当時の欧米においては、ロボットは人の敵というのが当然というものだった。
人間を傷つけないことを命令として組み込むロボット三原則は、人が持つ人造物の反乱への怖れ、フランケンシュタイン・コンプレックスからだろう。
■日本人のロボット観を変えたもの
日本人が欧米のようにロボットを怖れ無かったもの、その理由とは。
鉄腕アトムとドラえもんである。
どちらも人造のロボットでありながら、人に友好的であり、人の友人であり、人を助けてくれるロボットである。
手塚治虫の描いた鉄腕アトムは、平和の為に悪と戦う正義のロボットとして、当時の子供たちに熱狂的に受け入れられた。
その後のロボット作品でも、正義の味方、人類の味方、というロボットが現れた。手塚治虫の鉄腕アトムは日本人のロボット観に大きな影響を与えている。
■産業機械としてのロボット
今でこそ工場では様々なロボットが使われている。しかし、工場でロボットが普及されるまでには障害が多かった。
ロボットが普及すればロボットに仕事を奪われる。人間の必要の無い社会になる。そのような怖れを抱く人々にとって、職場へのロボットの導入は認められないものだった。
かつて、モールス信号の交換手というのは高給取りだった。専門性が高く人が憧れとする職業でもあった。しかし、技術の進歩から今ではモールス信号の交換手という職業は無い。
現在の銀行でもまた、AIが普及すれば銀行員の九割近くが削減できると言われている。今の銀行員が、かつてのモールス信号の交換手のようになるかもしれない。
技術が進歩しても人はその立場を機械に奪われたくは無い。日本でも、週休二日制が広まらなければ、これほどATMは普及しなかったかもしれないのだから。
労働組合も会社もロボット導入に反対するのが、1980年代の欧米では当然という風潮があった。
■産業ロボットが普及した日本とは
産業用のロボットが世に出始めた1980年代。
日本には世界で稼働する産業ロボットの約70%があったとされる。
これには日本の終身雇用制度も理由のひとつ。産業ロボットを導入しても職を失う不安が無いことが、産業ロボット導入を受け入れたという。
しかし、ここには日本人独特の、ロボットは友達、というメンタリティが育っていたからではなかろうか。
鉄腕アトムに熱中した世代が大人となり、ドラえもんの未来の道具に憧れた子供が増える。ロボットを身近に感じるSF作品の普及。
これがロボットを敵役とは見なさない日本人のメンタリティを育て、産業ロボットを受け入れやすくしたのだろう。
欧米においては労働組合の反対で普及の進まない産業ロボットの導入。日本だけは着々と進み世界の70%の産業ロボットが、この小さな島国にあった。
70年代から80年代後半にかけての日本の製造業の強さとは。
他国よりも精密、精細な物を安く大量に作ったこと。
既存の一般的な工業製品よりも複雑で高機能高性能な製品。日本企業はこれを安く、大量に市場に投入し、シェアを高める事で他国の企業との競争力とした。
一方でオートメーションからの大量製品が市場に溢れ、作っても売れない時代が到来するのもここからになる。
■まとめ
日本の製造業を支えたものには、日本人が欧米とは違いロボットを友達と受け入れる精神があった。
ロボットを敵と考える風潮を持つ欧米が、産業ロボットの導入にまごついている間に、日本は先んじて産業ロボットを導入した。
そこには手塚治虫の鉄腕アトムから始まる、ロボットを身近な友達とするマンガとアニメがあった。
もしも、手塚治虫の鉄腕アトムが存在しなければ、日本の工業製品が世界に広まることは無かったのかもしれない。