ダブルシャドウ
出会った場所は無人となった、廃村。
女と女が拳で向かい合うのだが、双方共に瓜二つの姿をしていた。
呼吸もあっている事は偶然ではない。
「ふーぅ」
【ふーぅ】
戦い。
肉体を使った肉弾戦、不思議な力を用いた魔術戦、生命の追求によって最善最新が生んだ科学。
無差別というランクを設定すると、必ず出てくると言える強者の能力と言えるものがある。
”コピー・模倣・分身”
特殊でありながら、誰しも浮かぶシンプルで汎用性もある強い能力。
格闘専門とする山本灯本人をして、こうしてこんな力と相対すると気分が悪いでしかないもの。
自分と色合いがちょっと違う、自分が今日の対戦相手。
自分の敵は自分だって事がホントに起こった、今日のベストバトル。
「あんたさぁ」
両者、息を合わせたように中腰となって、半身の体勢をとる。重ね合わせて来る真似っこ。
まだ間合いではないが、両者の踏み込みで激しい力のぶつかり合いになる。灯と、その相手の構えは防御に薄く、攻撃と回避、奇襲に向いている。
攻撃重視に意識の強い灯らしさ。
「不細工過ぎない?」
軽い挑発をかました。
だが、それ以上に自分の分身と名乗ろうとするものが、灯自身からしてそんな気持ちでしかなかった。
再現不十分?元々、お前がそれ系なんだろって、言い返すべきなんだろうか。
灯の分身はそんな軽い挑発を、灯の意識のままに返す。
構えた拳をさらにギュッと握って、足腰を強く踏ん張りつつ。心と口が
【あんたの方が】
反論。とても安い反論。
そんな僅か過ぎる、肉体の力みを本体が鏡よりも正確な自分を見ている灯からしたら、その屈辱よりも重たい事実に、現実を教えるもの。
灯の踏み込みはもう始まっており、拳はすでに勢いを乗せて、自分の分身の射程に入れていた。
自分と同じ、自分の劣化だとしたら、これで終わり。自分の肉体はここから回避や防御、受け身もできないと限界を示している。
ドゴオオオォォォッ
言葉通りの挑発は宣言となり。
灯の分身は顔面に直撃した一発で、惨く酷い顔となった。灯として、自分の顔を殴るというのはやはり気分が悪い。でも、それは今日から、
「今日、あたしを始めた奴がさ。生まれてからあたしをやってる奴に勝てるわけないでしょ」
もっとも、こんな挑発なしにやったとしたら。それはそれで面白い事だったし、逆にやられる事もある能力なのだから……手強いとは思っている。
でも、自分と対峙するのだから。自分を知ってりゃいい強さで対応できる。
「あたしを真似るんだったら、あたしより弱い奴を虐めるべきね。あたしに挑んでどーすんのさ?」
それは正論だと思う。
誰かと同等近く強くなれると言っても、超えている事は難しい。ならば、それよりも弱いところでイキていれば、最強・無敵と自負できただろう。
だが、そんな飾りでしかない場所に、灯はいるつもりはない。もっともっと、高みにいきたい。そう望んでいる強さに限界を決めていない。
「ま、偽物だし、しょうがないか」
灯は確かに倒した。
しかし、今倒した自分自身は本体の分身と言えるもの。
コソコソと本体は隠れていながら、敵のコピーを生み出し、戦わせる能力。
”ダブルシャドウ”
と呼ばれる魔術だ。
まぁ、分身がいないのだから。灯もフリーなため。優位は変わらず。
「結構遠くでやる能力じゃなさそうだから、隠れてたら引きずり出して、殴り壊すまでよ。沢山出せないし、すぐに出せないでしょ」