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第五章 Ⅹ

 河澄達は、善戦していたと言えるだろう。校門を破られ、突入してくるバグス達に一斉射を浴びせた。残念ながら撃破には到らなかったが、それでも何機か脚部等に損傷を負わせAI達に警戒感を抱かせる事に成功した。距離を取りつつ校庭に散開し、銃撃を加えてくる。それらは防弾ブロックに弾かれ、またP.E.の頭上を掠めていった。

「よしよし、このままよ」

河澄の面に余裕の笑みが浮かぶ。彼女達の目的は、あくまで連合軍到着までの防衛なのだ。時間の経過は味方の筈だった。反撃しつつ、仮想スクリーンに表示された残弾数を見る。既に一桁。換えの弾倉は手元になかった。備蓄可能な弾薬量には制限があり、無駄遣いを警戒する余り結果的に出し渋る形になってしまった。体育館には補充を考え一人待機させているが、自分のみならず、そろそろ残弾が尽きかける教官達が続出するだろう。弾薬配布が間に合わず弾切れとなれば、当然弾幕に穴が空き、敵の付け入る隙を作ってしまう。ならば、自分で取りに下がるしかないか…そんな事を考えている彼女の頭上を、二十ミリ弾が掠めてゆく。

「くぅっ!」

この状況ではとうてい容認出来ない。と、そこへ。

『三多教官!』

聞き慣れた声で、通信が入る。その声の主について考えれば、驚愕せざるを得ない。

「朱雀院さん!?どうしたの、P.E.を装着しているの!?」

『はい。何か、お手伝い出来ないかと』

想定外の申し出に、彼女の苛立ちが膨れ上がった。この状況で、何を面倒事を増やしてくれるのか!

「何を言っているの!?早くシェルターに戻りなさい!これは実戦なのよ!?」

言いつつトリガを引く。空薬莢が吐き出され、残弾数が一つ、減った。スパイダーの頭部が多少凹んだものの、撃破するには到底至らない。

『お願いです、教官。私達に何かさせて下さい。そうでなければ恐くて恐くて、どうにかなってしまいそうで』

今度は三和の声。河澄としては、弾薬補充の人手に二人追加されるのは渡りに舟だが、教官としてそれを許して良いのか?しかし。特待生二人は既にP.E.を装着済みで、二十ミリ弾の直撃でも受けない限り、まず命に別状はないだろう。ともかく、あと何分か持ちこたえられさえすれば、こちらの勝利が見えてくるのだ。

「…判ったわ。弾薬補充をお願い。体育館に弾倉を積んだカートがあるでしょう?教官の指示に従って、出来るだけ姿勢を低くして、決して慌てないで!」

『はい!』

『はい』

通信が途切れる。今度は教官達に呼び掛ける。

「弾薬の補充が来るわ、支援して!スパイダーに集中攻撃を。補充を受けたら各自の判断で攻撃!」

一斉に『了解』の返答があった。

「朱雀院さん達はどう?運べる?」

『はい、行けます!』

飛鳥の返答は、勢いだけは充分だった。

「そう。では支援攻撃開始!」

河澄を始め教官達の攻撃がスパイダーに集中しだす。最も致命的となりやすい攻撃力を持つ敵を、一時でも封じ込めておければ。あわよくば撃破出来ればベストだった。

「良いわよ!」

河澄の一言で、二機の生徒用P.E.が体育館を飛び出した。蹲る様にして、教官達に両手に抱えた弾倉を手分けして配る。河澄の横に、飛鳥が来た。

『弾倉です』

言いつつ、傍らに置く。ちょうど弾切れになる所だった。

「有難う。それはそれとして、貴女達とは、後で話さなくちゃね」

弾倉を交換しつつ。

『……はい』

緊張した声の返答がある。この事に気を取られたのか、後退するため不用意に上体を起こしかけた時。

『きゃあ!』

頭部から胸部にかけ八ミリ弾を被弾し、飛鳥が悲鳴を上げた。突出してきたアントが、ガトリングガンを放ったのだ。

「大丈夫?」

攻撃してきたアントに照準を定め、トリガを引きつつ問うと。

『体は、大丈夫です。でも……制御系にエラーが出ています。動けません』

荒くなる呼吸で、そう報告してくる。被弾の衝撃で基盤が破損したか?アントを止めるべく攻撃を集中する。前脚が破損したか、速度は落ちたが尚も突進してくる。近距離で銃撃を受ければ、生徒用P.E.は保たないだろう。飛鳥の目前に、死が迫っていた、と。

「え?」

河澄のサイトウィンドウに、未だ明るい西日を受け長い影が校庭に伸びる様が表示された。と、次の刹那。オレンジに縁取られた黒が、地上に降り立つ。もちろんブラックオーガだった。唯一の、かつ絶対的な援軍が駆け付けたのだ。

「何、あの機体は!?」

両手にヒートソードを握ったP.A.W.W.は、一旦停止したアントに肉薄、右手を振り下ろした。ヒートソードが頭部を一刀両断する。もちろん両手を『分解』状態にし、包み込んであるのだ。脚部が脱力し、全身が地面に落下した。その様を確認し、上昇すると次の獲物へと襲い掛かってゆく。

「…撃ち方止めっ!」

遅ればせながら指示を出しつつ、軽やかにバグスをヒートソードで切り裂いてゆく機体を、河澄は観察した。両肩に連合軍の徽章と何桁かの英数字があるばかりで、部隊標識も階級章もない。四機ものプラズマスラスタを搭載したP.A.W.W.など記憶になかった。試作機か?肩の英数字はコードナンバー?しかし、こんな機体をまともに扱える機動歩兵など、そもそも存在するのか?それにあのヒートソード。アントの頭部を切り裂き、胴体部と腹部の連結機構を難なく切断し、集中攻撃でガタが来ていたとはいえ、スパイダーの腹部を深々と刺し貫く。ヒート系の武器にその様な切れ味があっただろうか?あるいは、これもまた試作兵器なのか?教官として、合法の範囲内で連合軍に関する情報収集も欠かさない彼女にとって、それは完全に未知の領域の存在だった。その登場より三分余り、校庭は静寂に包まれた。スパイダーの腹部よりヒートソードを引き抜いたブラックオーガは、彼女達に一瞥をくれるとプラズマスラスタを全開にし、未だ高い夕日に帰るかの如く、西の空へと飛び去ったのだった。それはまるで、大昔の宇宙人ヒーローの様に。それと入れ違う様に、機動歩兵の輸送ドローンの飛行音が聴えてきた。

『……教官、あれは一体、何だったのでしょうか?』

傍らの飛鳥が訊ねてくるが、それはこちらが訊きたいくらいだわ、と河澄は胸中で呟いた。

「さぁ、試作機かしらね?少なくとも、私はあんな機体は知らないわ」

立ち上がると、眼前に横たわるバグス達の残骸を眺めながら答えた。しかし、いくら最新鋭の試作機であろうと、眼前の戦果は信じ難いものだったが。あれがもし制式化されれば、少なくとも地球における戦況は一変しかねないだろう。それ相応の数のイクイッパを揃えられるならば。

『凄かったですね!あれを装着していたのは、どの様なお姉様なのでしょう!?きっと凛々しいお方なんでしょうね!?』

まさか同年齢の、しかも男子のライバル(?)だなどとは夢想だにしない飛鳥だった。戦い済んで日が暮れて。立ち上がりバイザーを上げた教官達が見上げる視界の中に、降下してくる機動歩兵達の姿が小さく見えた。


 一也が寮に帰ってきたのは、午後七時過ぎだった。酷く心配していたあやねに。

「学校の状況を耳にし、様子を窺っていました。心配をお掛けしました。もう大丈夫です、問題ありません」

一也は素っ気なく答えただけだった。あやねとしても、養護教諭助手も付いていた事であるしこれ以上は過干渉になる、と自重したのだった。病院には実際に来院記録がある筈だった。何らかの理由で追及された時の為に。

 バグスの残骸を前にして、困惑を隠せない機動歩兵の中隊長(支援要請を受け駆け付けたのなら、尚更だろう)から状況説明を求められて、河澄は連合軍の、恐らく試作機が全て破壊した、と説明した。

「そちらで確認が取れるのでは?」

河澄にそう逆に問われ、中隊長は「そうですね」と、答えるより外なかった。その後、飛鳥達は小一時間程独断行動に関して説教を頂いた。

 学校の被害は、校門を除けば軽微と言えた。体育館の壁には、弾痕の跡も生々しかったが。飛鳥の機体は、外部からノートパッドを有線接続し、強制解除した。死ぬ様な目に遭ったというのに、存外飛鳥自身はけろっ、としていた。

 学校で発生した戦闘は、十分余りで終了した。謎の(読者及び一部登場人物以外には)黒いP.A.W.W.の活躍もあり、死傷者はゼロに抑えられたのだった。この出来事は、今後どの様な影響をこの世界にもたらすのだろうか?


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