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第五章 Ⅳ

 遂にその時は来た。水曜日の放課後、実技場にはP.E.関連の部活動の部員はもちろん、帰宅部をはじめ噂を聞きつけた生徒達も、多数詰めかけていた。

「では、まずはじめに実施競技とルールについて説明するわ。競技は『空中タッチ・オワ・ドッジ』、基本ルールは地上と同じだけれど、立体機動の能力が問われるわ。今回は一人対三人、という事で変則的だけれど、先攻後攻連続三本先取で勝利、という事にします。六回戦でいずれも勝利条件を満たせなければ引き分け。それで良いのね、城田君?」

「はい」

バイザーを上げたP.E.姿の一也が頷いた。八メートル程を隔て相対する、同じくP.E.姿の飛鳥、三和、唯が、様々な表情で彼に視線を送っている。

「城田君には不利だけれど、充分インターバルは取るから」

「まぁ、あれだけ大言壮語をしたのですから、これくらいどう、という事もないでしょう?」

嘲笑する様に飛鳥が茶々を入れる。

「朱雀院さん、余りそういう事は」

三和が静かに窘める。

「ま、誰か一人、暇になるんじゃないですか?」

意地の悪そうな笑みを浮かべる唯。そんな三人を、一也は無表情で見詰めていた。三人の力量を見透かそうとする様に。その両者を、少し離れた場所から見較べている河澄と下路。それらを、更に遠巻きに眺めているギャラリー。その中には、もちろん救難活動部の面々の姿もあった。実技場にコロシアムが出現していた。

「それでは、これから五分間、作戦タイムを与えます。攻撃順は城田君の後攻という事だから、朱雀院さん達は順番を決めて。城田君は、プラズマスラスタの調子でも確かめていたら?」

何ともぞんざいな物言いだった。下路が眉根に皺を寄せる。

「それでは、始め!」

河澄の一言と共に、下路はストップウォッチをオンにした。飛鳥と唯は、二人だけで即座に順番を決めると無駄話を始めた。一人、三和だけが一也の方を気にしていた。その一也といえば、河澄の言葉に従ってか生徒用プラズマスラスタを稼働させていた。上昇、降下。それらを速度を変え何度か試す。それが済むと、中空で高度を維持しつつ半回転捻りや一回転捻りを始める。ギャラリーから、特に三、四年辺りからどよめきが上がる。軸もぶらさず、速度も一定のそれを見ただけで、実力のほどは容易に知れたのだ。生徒用でそれをするには巧みな出力制御や姿勢制御が必要だった。前傾姿勢や後退姿勢など、丁寧に確認してゆく。

「…ここまでやるとは、ね」

下路は小さく呟いた。五分が経過し、ストップウォッチをオフにする。

「作戦タイム終了!」

オフの音を聞き分け、河澄。余裕の笑顔の飛鳥に声を掛ける。

「朱雀院さん、順番は?」

「はい。私、高宮さん、井波さんの順で」

「そう。では、対戦者以外は下がって!」

イヤホンマイクを装着し河澄がノートパッドを操作すると、天井のレーザー発振機が床に長さ十メートル、幅五メートル程の長方形のフィールドを描き出す。一也と飛鳥以外は外へ出る。二人はバイザーを閉じた。

「一回戦、攻撃は朱雀院さん、回避は城田君。始め!」

再びストップウォッチがオンにされる。これから三分間の熱い攻防が開始される筈、だったが。

 結果的に、飛鳥は一也に指一本触れられなかった。始め、の声と同時にプラズマスラスタフルスロットルで、飛鳥は上昇してゆく一也へと突入してゆく。十秒とかからず、勝敗は決する筈だった。彼女の伸ばした右手が彼のタッチパネルに触れる数瞬前、彼の姿はかき消えた。彼女がその背後を取られた事に気付いたのは、およそ三秒程のちだった。ギャラリーから見れば、どうという事もない。いったん出力を下げ降下したのち、半回転捻りしつつ再度上昇しただけの事なのだが、彼女はその事に気付かなかった。彼女が振り返った時には、彼はいったん上昇し、半回転捻りののち急降下で彼女が元々いた辺りに浮遊していた。浮遊に移る直前、高速の半回転捻りで彼女の方向を向いた。彼は生徒用バックパックの性能限界を把握し、活用していた。

「くっ、生意気な!」

歯噛みし、ムキになって彼を追う。しかし今度は上昇して躱される。その様にして、彼はフィールドを目一杯使い、彼女を寄せ付けなかった。

「そこまで!」

ストップウォッチオフの音で河澄が指示すると、二人は降下してきた。開かれたバイザーから覗く二人の表情は対照的だった。苛立ちや疲労の入り交じった飛鳥に対し、相も変わらぬ無表情の一也。

「全く、何なのよ!」

荒い息を調えつつ、飛鳥は一也を睨み付けた。一応、彼のタッチパネルが点滅していない事を確認し、河澄は告げた。

「一回戦、勝者は城田君!」

一也の手を掲げる。ギャラリーの半分以上が拍手を送った。

「攻守を変えて二回戦は五分後に。良いわね?」

飛鳥と一也を交互に見較べ、河澄は念を押した。今度は飛鳥が追われ、それを一也が追う番となる。当初の計画が狂い疲労感が大きいが、しかし三分間、逃げ切れば良いのだ。男子に出来て自分に出来ない筈がない、と、飛鳥は自分を奮い立たせた。休憩時間が終わり、二人はスタートラインに立った。

「二回戦、攻撃は城田君、回避は朱雀院さん。始め!」

フライング気味に飛鳥はプラズマスラスタを全開にした。一気に高度を取り、彼が容易に手が届かない状況に身を置こうとする。しかし。疲労の為か、出力が思った様に上がらない。と、見る間に一也が突撃してきた。回避なり何なり、彼女が反応する前に、胸部のタッチパネルが点滅し出す。一也にタッチされたのだ。始め、より十秒とかかっていなかっただろう。

「そこまで!」

河澄の声。二人は降りて来た。バイザーが開放されて、相も変わらず無表情の一也が姿を現す。それが、胸を掻き毟りたいほど飛鳥にとっては癪だった。これで二連敗が決定した。あとは唯に託すしかないのだ。


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