第五章 Ⅰ
第五章
第四一一機動歩兵大隊を収容した三機の小型VTOL輸送機が、灰色の雲を敷き詰めた上空を編隊飛行していた。迎撃により木更津基地攻略を断念し銚子周辺に投下されたバグスを掃討、帰投する途中だった。小型VTOL輸送機は最大十四台の『試着室』を搭載するため、胴体の中間辺り三分の二余りが陸上のトラックの様な楕円形の断面をしている。それを挟む様に機体前後に着席した隊員達の面には、疲労の色が濃く浮かんでいた。その中には、外傷の応急措置を施された者の姿もあった。敵はドローンの護衛を大量につけ航空部隊を忙殺、更には小豆沢とは比較にならない程の降下部隊を投入してきたのだ。完全無人であるが故の容赦のなさ。迎撃ミサイルをものともせず犠牲を省みず、結果広範囲にバグスの投下を許してしまった。しかも、そのバグスが手強くなっていた。アントはともかく、スパイダーやタランチュラの防御力は明らかに上がっていた。しかも。
「…やはり、自爆は厄介だわ」
天井を見上げ、スーザンが呟いた。先の戦闘でSSMの発射を許したため、グレネード弾体にパテ弾が追加された。速乾性で、硬い物に命中すると広範囲に広がる。射出口を塞ぎVLSを使用不可にするのが目的だったが。自爆をするタランチュラが複数存在し、市街地に少なからぬ損害を出してしまったのだ。その為に何人かの隊員のP.A.W.W.が破損し、幸運な事に軽傷ではあったが負傷者も出ていた。結果的に、急行した装甲歩兵部隊(地上専用のP.A.W.W.を使用する部隊)と協同で、どうにか掃討を完了したのだった。
「同意です。しかし、SSMの発射を許せば、被害はより広範囲に亘るでしょう」
久音が隣で重い口調で言った。
「それはもちろん。私達に、あれをより迅速に無力化出来る装備があればね」
地上部隊では移動速度に限界があり、航空部隊ではバグス搭載の対空兵装が恐い。結局、対バグス戦で一番槍を仕るのは、彼女達機動歩兵という事になる場合が圧倒的に多いのだ。しかし、運用上からも彼女達が使用可能な兵装は、結局は彼女達が携帯して降下出来る程度の物に限定されてしまう。
「可能性があるとすれば、ジャベリンの強化版か、あるいは新型でしょうか?」
機動歩兵向け兵装としてジャベリンは扱い易いが、破壊力強化の余地があるかは疑問だった。
「いずれにしても、携行弾数の制約はね。やっぱり、あのレールガンクラスの物が欲しいわ、一門きりでも」
一也が関わったレールガンの威力が凄まじかったのを、スーザンはありありと思い浮かべられた。発射されたダーツ状の鉄甲弾は、射撃場に五百メートル離れて設置されたスパイダー(ろ獲された物から兵装とコントロール部は除いてある)の腹部を貫通したのだ。
「しかし、あれでは大きすぎます。投下するには輸送機が必要でしょう。我々に追随出来るとは思われませんが?」
「そうなのよね。多少威力が落ちてももう少し小型化と、あと機動性を重視した自走化についてもレポートでは言及しておいたけれど。ナンシーさんのところはNEDだったかしら?」
NEDとは日本電子装置株式会社の事である。同社は半世紀以上の歴史を持つが、軍需関連に乗り遅れてしまった。今は、その差を埋めようと必死になっているのだ。ブラックオーガの様な、トンがった機体を納入したのも、何でも良いので目立ちたい、という意識の表れでもあるのだろう。もっとも、そこに一也というイクイッパが現れる事で、想定外の好機が訪れようとしているのだが。
「そうです。あれは戦闘車向けですから、あれをP.E.からの電源供給で稼働させる、というのは奇を衒いすぎと思われます」
「あら、一也君は、それをやってのけたけれど?」
ブラックオーガからの電力供給だけで砲座は稼働し、レールガンは発射されたのだ。
「彼は…」
久音は、酷く曖昧な笑顔を作った。未だに、彼をどう受け止めて良いのか判らない。あるいは、一生このままなのかも知れない、と最近は考える様になっていた。
「まぁ、とにかく。NEDさんが私のレポートを真剣に受け止めてくれる事を願うわ。まぁ、それが叶ったとして、色々と影響が出て来るわね」
「運搬の方法に、任せられる隊員の選抜、それに戦術研究も」
スーザンは大きな溜息をついた。
「はぁっ。問題山積に前途多難か。それでも、私達はやらなければならない」
「はい。一番槍こそ我らの誇り、ですから」
スーザンと久音は、力なく笑い合ったのだった。




