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第四章 Ⅱ

 その仕事は、一見簡単そうだった。簡潔に内容を説明するならば、会社から指定された相手と一定時間話をする、ただそれだけだった。ただし必須条件として、リモートでなく直接対面で、という事があった。その場所としては、喫茶店やレストランの様な公衆の目のある場所が指定されるが、カウンセラーと呼ばれ会社から派遣される者と、話をする相手が合意をすれば、年齢にもよるがそれ以降の行動について派遣元は一切関知しない。給料は完全歩合制で、カウンセリング料名目のごく一部が支払われる。こういった類の『仕事』は昔からあり、特に亜矢の様な未成年(十八才から成人とされている)が絡む場合、警察当局の摘発を受ける事も多々あった。それでも、決して美人とも言えない彼女を登録させているのは、それなりに需要があるからなのだ。会社側としても、彼女に幾つもの注意事項、禁止事項を与え、アリバイ作りは行なっている。彼女にとってはあくまでアルバイトの一つに過ぎず、自分ルールもきちんと定めていた。一つ。週に一日、一人のみ三十分とする。一つ。話し相手との関係はあくまで喫茶店内でのみ。一つ。プライベートな事は一切真実を語らない。自分はあくまで、心に痛みや悲しみを抱えた人を、僅かでも癒すカウンセラーなのだ。この一点を忘れさえしなければきっと上手くやってゆける、そう自分に言い聞かせていた。事実、ある時点までは上手くいっていたのだが。


 朝、澄玲が自分の座席でクラスメイト達と軽く会話を交わしていると、一也が入って来た。怪訝そうに首を捻っている。その様子に、自分の予想が正しかった事を確信し、悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「どうしたの城田君。何かあった?」

その声に振り返った一也は、じっと澄玲を見詰めた後言った。

「…寮内で、見知らぬ生徒達から声を掛けられた」

「へぇっ、何て?」

意地悪そうな笑みが、知れずに漏れた。

「部活動の勧誘だ。P.E.関連ばかりだ。同級生ばかりでなく上級生もいた」

「へぇ。で、何て答えたの?」

「昨日と同じだ。学業優先で考えていないと」

「ふうん?でもね、それで簡単に引き下がるとは思えないけど?」

「なぜだ?」

本当に判らない、という風の一也が、少々憎たらしくなってくる。あそこまでの実力を見せつけておいて!

「だってぇ、君はもう充分に、P.E.を上手く扱えるじゃぁない?実技場で見せびらかしてたでしょ?」

少々ふて腐れた様な口調。もう充分に、という所を強調する。編入初日の模擬戦は、その部員達が多数目にしていたのだ。

「あの程度でか?そもそも、なぜ今頃なのだ?」

あの程度、ときた。本当に憎たらしい。

「さぁてねぇー。ま、初日にやらかしてくれたんで、距離を詰めるのを躊躇ってたんじゃない?それが、天野先輩が現れたんで敷居が低くなったり、あるいは焦ったり?」

「そうなのか?」

一也は理解しかねる、といった表情をしている。

「まぁ、今は部活動は中止だし、試験明けが大変かもねー」

少しは困れ、と心中で舌を出す。異性とはいえ特待生を放っておくのはもったいないを通り越し罪悪ですらあるだろう。学校内はもとより、全国規模でのP.E.関連の競技大会が毎年複数開催されているのだ。

「そうか?どうせ断わるというのに」

「そう簡単に諦めてくれるかなぁ?どの部だって、優秀な一年は欲しいと思うけど?」

「ふぅむ。諦めさせる方法はないのか?」

距離を再び取らせる為に、脱衣所の様なやらかしは出来ない。そうなればせっかく得た文明人として生きる為に学ぶチャンスが失われるかも知れないのだ。

「だから、天野先輩の誘いに乗ったら?一つ決まったら、充分断わる理由になるでしょ?」

他人事だと思って、気楽に薦める。暫く黙考していた一也だったが、やがてこう切り出した。

「…ならば、一つ条件を付けさせて貰う。植阪さん、朝野さんと同時であれば、考えても良い」

「ええっ!?」

澄玲は間の抜けた声を上げた。一也にしてみれば、とにかく勧誘を断わりたい。そこで部活動に消極的な二人を条件に入れれば、断り易い筈だった。二人なら、上手な断り方も考えてくれるかも知れなかった。

「ふむ、上出来だ」

小さく呟いてみせる。

「何が上出来よ!何で私達も巻き込むわけ!?」

「うん?あの場に二人とも居合わせたのだ、当然だと思うが?」

「誘われたのは貴方でしょう!?」

「ふむ。しかし、二人は駄目、とは言っていなかった筈だが?」

「そりゃ、そうでしょうけど!」

「そもそも、部活動も学校生活の一部ではなかったか?丁度良いではないか」

あの時の言葉が、ブーメランの様に返ってくる。

「いや、それは」

とそこで、HRのチャイムが鳴った。何事もなかった様に、一也は着席した。澄玲は内心、頭を抱えてしまった。一也に関わってからこの状態が立て続けだな、と思いながら。


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