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第三章 Ⅳ

 時は遡り、当校初日の朝のホームルーム。当然ながら、一年二組では一也の自己紹介が行なわれた。

「城田一也です。これから宜しくお願いします」

黒板に取って代わった巨大スクリーンの中央には、一也の自筆の名が堂々と大書されている。なかなか整った字だった。教壇のタッチパネルで手書きしたものだ。左側に立った裕がレーザーポインタでそれを指すと長方形の点線で囲われ、レーザーの動きに合わせ右側へと寄せられる。今の時勢、名前の書き方などクラスのデータベースにアクセスすれば容易に検索可能なのだが、転校生の通過儀礼として脈々と受け継がれた伝統らしい。

「城田君は長らく闘病生活を送ってきたが、手術を受け寛解したと同時に、B.E.適性が開花したそうだ。当校へは、リハビリと経過観察を兼ねて志望したそうだよ。そのサポート役として、新しい養護教諭助手が赴任している。まぁ、そんなところで。とにかく、異例のケースではあるがクラスメイトとして温かく迎えて欲しい」

レーザーポインタには指向性マイクの機能があり、オンにするとそれが拾った音声を聞き分け、タイムラインの様にスクリーンに表示してゆく。これは学校のサーバに記録されてゆくのだった。目の前に並ぶクラスメイト達(もちろん全員女子だが)を見回しつつ、一也は貧相だな、と胸中で呟いた。それはもちろん肉体の成長具合の事ではない。その内側の魔力、B.E.を指しての事だ。どれも集束点が薄い、また小さい。それでも市井の女性達よりはマシだろうが、二週間余り現役の機動歩兵達と接していたならば、心許なさすら感じてしまう。もちろん、いま目の前にいる学生達はこれから彼と共に練り上げられてゆくのであり、そもそも両者を比較する事じたい大間違いなのだが。

「さて、それでは紹介はこれくらいで良いね。城田君の席は」

「先生!」

突然、一人の生徒が挙手した。目元がきつそうな印象で、比較的長身だ。

「はい、生田さん?」

少々驚いた様に、裕が名を呼ぶ。生田と呼ばれた生徒は起立した。

「この学校には女子しかいませんが、今日からその男子と一緒に勉強する事になると、色々な問題が起きませんか?」

「確かに、ここは女子校の様だけれど、一応共学だからね。男子用の設備も一通り揃っているし、問題は」

愛想笑いと共に裕が言い掛けたところで。

「そういう問題ではありません。なぜかこの学校に、しかもこのクラスに男子が、入ってきた事が問題なんです!このクラスには特待生がいなくて、唯でさえ他のクラスより不利な状況なんですよ!?そこに足手まといの男子が来るなんて、競技会は捨てろ、って事ですか!?」

話しているうちに声が大きくなっていった。これまで思うところが色々とあったのだろう。競技会とは、クラス対抗で学期末毎に行なわれる(ただし一年の一学期を除いて)、学期毎の修練の成果を披露する場だった。更に学年末には、全学年でクラス代表同士が競う個人競技会もあった。

「ああ、実は城田君が」

「先生」

今度は裕を一也が遮る。静かな中に抗い難い圧力を感じ、裕は口を閉じた。

「生田さん、か?我がその、特待生とやらだ。これで三クラスとも特待生が揃ったのだ、喜ぶべきだと思うが?」

教室内がざわつき始める。澄玲は内心、へぇー、と半ば驚き、半ば喜びの声を上げた。やはり一ヶ月遅れで編入を認められたのはそういう事だったのか、と。生田はきつそうな目をよりきつく逆立てた。

「そんな事あり得ません!嘘をつくなんてどういうつもり!?」

「特待生云々を言い出したのは我ではない。この学校の試験担当者が、書類にそう記載しただけだ」

「その通り。城田君は、紛れもなく特待生だからね」

裕も太鼓判を押す。それでも生田はなお、納得がいかない様子だった。

「何かの間違いです!男子が特待生なんて、測定機器に問題でもあったんじゃ!」

「生田さん、幾ら何でも」

「なるほど、貴女は、我が何かの間違いで編入を許された、と言いたい訳か?ふむ。だが、そうなると、貴女も我同様、何かの間違いで入学を許されたのかもな」

「!何ですって!?」

生田のトーンが上がる。彼女の人生の中で、この様な侮辱を受けた事は一度もなかったのだ。

「我が男である、と言う理由でこの学校の入試システムを疑うのであれば、それはすなわち、貴女達全員に返ってくる事になるが?」

この言い草に、内心澄玲は頭を掻きつつ、あー、そうかも、などと呟いていた。しかし、生田はもちろんそういう訳ではなく。

「私は!いえ、クラスメイト達は、中学の頃から入学を目指して日々努力してきたんです!それを貴方は侮辱した、謝罪して下さい!謝罪して!」

えーと、私は違うんですご免なさい!と、内心謝罪する澄玲。

「謝罪?さて、我がそれを行なう理由が皆目見当もつかないが?我はただ、貴女の主張に対し論理的展開をしたに過ぎない」

ラノベの主人公か何かなら、ここで平身低頭謝罪するところかも知れないが、中身は元魔王なのだ。とにかく謝罪し潔く引き下がる、などという思考は微塵もない。

「あー、生田さん、そんなに熱くならないで。とにかく、ミスでも何でもなく、確かに城田君は編入試験に合格して、ここでこうしているんだよ。城田君も、これから一緒に勉強してゆくんだから」

裕の何とも頼りなげな取り成し。それを後目に、生田は更にヒートアップし。

「論理ですって!?どうでも良いのよ、謝罪して、謝罪しなさいったら!」

遂に涙ぐむ。あーあ泣かせちゃったー、ホント、サイテー、などという声が上がり始め、教室内の空気は最悪級に悪くなっていった。その空気に、澄玲は本当の息苦しさを感じた。こういった不協和音が嫌いなのだ。どうにかしたい、その一心で彼女は挙手していた。

「うん、植阪君?」

藁にも縋る様な、といった思いで裕が名を呼ぶ。澄玲は立ち上がった。

「ええと、植阪です。その、生田さんは、城田さん、が特待生だっていうのが納得出来ないのね?だったら、放課後にでも実技場で模擬戦でもやってみたら?生田さんと、城田さんで。それで納得出来ない、っていうのなら、それこそ校長先生なりに掛け合ってクラスを変えて貰うとか」

咄嗟の、出たとこ勝負の提案だった。生徒一人が納得いかないからといって、はたしてそう簡単にクラスなど変えられるのか?もちろん彼女には判らない。しかし。

「植阪さん、有難う。判りました、私はそれで構いません。貴方は?」

涙を拭いつつ生田は提案を呑んだ。まだキラキラ光る瞳で、城田を見据えた。

「我がそれに同意する必然性が見当たらないが?」

一也からすればもっともな意見ではあったろう。一生徒が自分の入学に納得いかないからと、何で自分が我儘に付き合わねばならないのか?この場をともかくも納めよう、などという思考が働く筈もない。

「ね、城田君。ここはどうだろうか、この提案を受けては?これからここで学ぶクラスメイト達に、はっきりと実力を示しておくのは悪い事ではない、と思うけれど?」

「そうよ、それとも自信がないの?」

生田の挑発はともかく、裕の困った様な表情を浮かべながらの取り成しには応じる事にした。久音からは先生の言う事は聞く様に、とは言われていたのだった。

「…判った、受ける」

「ふふ、放課後が楽しみだわ!」

「三多さんには、私から言っておくからね。それじゃあ、城田君の席は」

そこで、HR終了を告げるチャイムが鳴り響いたのだった。


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