第三章 Ⅲ
連合軍朝霞基地。半世紀近く前までは日本国固有の軍事力である自衛軍が駐屯地としていた。世界中がパニック状態となる中、強引な憲法改正、法改正が行なわれ、自衛軍は戦力こそほぼそのままに大幅な組織改編と共に、指揮権、統制権を国際調停会議隷下に新設された連合軍に譲渡する事となった。それでも日本はまだマシだったが、指揮権、統制権譲渡を早々に決めたアメリカなどは大混乱に陥った。そもそもが戦争によって生まれ、大きな内戦も体験した国家ならば、国として軍事力を持たない事など想定外なのだ。そしてそれは、合衆国憲法の条項にもある通り、国民の武装する権利にも直結する問題だった(結果的に、連邦最高裁判所は、これが保証される判決を下したが)。国内外を問わずデモや暴動、テロ等が相次ぎ、果ては第二次南北戦争(十九世紀のそれとは、図式はかなり異なるが)の可能性すらあった。そしてそれが半世紀余りで鎮静化したかといえば、必ずしもそうではないのが実情なのだ。こういった状況は何もアメリカに限った事ではなく、特に軍事力にその維持を大きく依存する政体を持つ国家等では、為政者達のサバイバルを賭けた抵抗や、抗し難い流れと見ての亡命など、国家の存亡を巡る悲喜劇が各地で見られた。前者の多くが、独立国家としては地図上から削除された。となれば、日本国の判断は誤りとは言えなかったのだろう。しかし、半世紀余りを経てなお現状に不満、不安を覚える市民達は、そこここに少なからず存在した。
基地司令の執務室で、晴美は着席したまま夕闇迫る窓外を眺めていた。
「…ふむ、会ったか、第一印象はどうかな?…ふむ……まぁ、いずれ判る時が来るだろう。彼が何を隠していようと……いや、私は流れに乗っただけだ。提案をしたのは大隊長でね。私より前に…ははは、示し合わせてなどいないさ!とにかく、彼は君に預ける。我々の為にも、何かと心を砕いて欲しい。彼は、もしかすれば我々の切り札になるかも知れないからな」
それで話は終わった。窓外へと向けていた顔を向き直った。電話の相手は、もちろん諒平だった。彼は連合軍の元将校であり、晴美の部下だった。軍人としては優秀だったが、その言動を問題視された事もあった。しかしそれは晴美にとって内心共感を抱かせるものであり、何くれとなく目を掛けていたのだが。彼が退役を余儀なくされた時、晴美が手を尽くして学校長のポストを用意したのだった。
「ふぅ。さて、何かが変わるか?」
顔の前で両手を組み合わせ、晴美は低く呟いたのだった。




