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第二章 Ⅵ

 さて、基地司令の執務室に残された一也達をよそに、高級将校達は声を潜め会話を始めた。もっとも一也には全て筒抜けだったが。

「本当に宜しいのですか。この少年を、我々の監視下に置かずに」

表情も読み取られない為か、師団長が一也の視線を遮る様に背中を向け前のめりになっている。

「我々がそれを行なうには法的な問題がある。下手をすれば人権擁護団体等が騒ぎ出しかねない。今は戦争中なのだ、万が一にも我々が日本国民からの信頼を失う様な事態があってはならない」

「しかし」

師団長が背後へチラリ、と視線を向ける。表情の読み取れない少年が、じっとこちらを見据えているのに気付き、内心冷汗をかいた。慌てて向き直る。

「君も理解している筈だ、国立高等職業訓練学校については。現状、彼の身柄を託すのに最適な場所は他にないと考えるが?」

こちらも、一也とはまた違う意味で恐い目で見上げられ、もはや師団長には抗弁の余地はないのだった。

「はぁ…自分も同意します」

遂に引き下がる。敬礼し、脇へ退く。それを見て取り、基地司令はソファへと顔を向けた。

「憲兵!」

「はっ!」

一也の傍らに立っていた憲兵が敬礼する。

「少年を城田中尉の宿舎へ、看護師を医療センターへ案内する様に!」

「はっ!」

医療センターには医療関係者の宿舎があった。敬礼を解いた憲兵に促され立ち上がった一也だったが。

「結局、貴様らは我をどうするつもりなのだ?」

じっと基地司令を見据え、問う。基地司令もそれを受けて立つ。

「ふむ。君には、学校に行って欲しい。そこには寮もあるから、そこに住んで貰う事になるな」

「学校とは何だ?何をさせたい?」

基地司令は右手で頭を撫でつけた。

「ふむ。異世界の魔王ならば、知らないのもむべなるかな、か。君は、これからこの国の国民として生きて行かなければならないのだ。その為には色々と必要な知識がある、という事だな。学校とは、それを教えてくれる場所の事だ」

この国での生活に必要な知識を学べる、という学校の機能は、彼にとっては願ってもないものだった。

「なるほど、それは好ましいな」

一也の返答に、基地司令は微笑んだ。勉強しなければならない環境に放り込まれる事を「好ましい」とは、やはり少々感覚が異なるのか。まして彼が入学しようとしているのは、入るも出るも高難易度な学校なのだ。

「その前に、君には入学する為の勉強をして貰う必要がある。その為に必要なものは、全てこちらで手配する。それと、これはお願いなのだが」

「何だ?」

「ここに居る間、君には少々我々に協力して貰いたいのだ。君について、我々が知る為にも。それは決して、君にとっても損ではないと思うが」

「ほぅ?協力、とは何だ?」

この世界が、少なくともこの周辺に関する限り自分にとってはさほど危険なものでないと判り始めていた彼には、基地司令の提案に乗ったところでさしたる不都合がないと感じた。

「なに、君にとって大した事ではないのかも知れないが。我々連合軍は、君の破壊したあのゴーレム、バグスを始めとする、火星が送り込んだ兵器と日々戦っている組織だ。まぁ、我々の仕事はそれだけではないがね。火星というのは、この地球より小さな惑星でね。そこにも人が住んでいる。ここまでは良いかな?」

火星、と聞いて、一也の脳裏に赤みがかった球体が浮かび上がる。地球もこの様な球体なのか。そしてそこにも人共が住んでいる。

「要するに、貴様らは火星の人共と戦っていると」

「ふむ…そういう事になるな」

人共、という表現に苦笑する。

「火星、というのはこの近くなのか?」

「いや、随分と離れている。戦争が始まって間もなく、そこから宇宙船が何隻も送り込まれて来たのだ。我々はファクベースと呼んでいるが、自身は地球上のどこかに潜み、地球の資源を掘削しながら兵器を製造している。我々はその壊滅に努力しているが、未だ道半ば、というところでね。今日の様な襲撃を受ける事もあるのだ」

「なるほど。努力する事だ」

そういえば、この横に立つ者もその様な事を言っていたな、と思い出す。

「ふっ、もちろんだとも。さて、そこで君に頼みたい協力なのだが」

基地司令は一旦そこで言葉を切り、改めて一也を見据えた。

「?何だ?」

「ふむ。我々は戦う為の組織だ。城田中尉等が使用していたP.A.W.W.も、その為の装備なのだ」

「あの空飛ぶ鎧の事か?」

「そうだな、あれに限らず我々は日々装備の改修、開発に力を傾けている。君には、それに参加して欲しいのだが」

「我が?あれを扱えるというのか?」

「その可能性も含めて、まずは君の事を調査させて欲しい。勉強と並行で済まないが」

「調査?何をするのだ?」

一也の視線が険しくなる。

「いや、大した事ではないのだ。彼女達と同様のB.E.適合検査を受けて欲しいだけでね」

しまったと思ったか、少々早口に基地司令は説明した。

「ふむ」

一也は考え込んだ。それが、自分にとってどれほど有用なのか?ここまで霊性外殻は使えているが、問題はその強度と、更には造物主とやらに課せられた制約だ。弱体化された現状で害意を向けてくる者、敵に対峙するには、やはり心配があった。また、他にも懸念すべき点が。外に出、彼は飛翔の魔術を試みたが、術式に魔力を注ごうとしたとたん術式が霧散してしまった。それに限らず恐らくは一切の魔術が使用不可の状況で、少なくとも飛翔可能な鎧は魅力的ではあった。

「…良かろう、あの鎧を使わせるのだな?」

「そうだな、場合によっては」

曖昧に言葉を濁すと憲兵に視線を送り、一也達を見送った。


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