表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/62

第二章 Ⅲ

 久音達が基地に帰還した時には、日はすっかり傾いていた。正面ゲートを通り広大な敷地を十分ほど走ると、片隅に大きな掩蔽壕バンカーがあった。その手前にはVTOL小型輸送機も駐機出来るスペースがあり、そこに一旦停車する。守備兵が敬礼の後コンソールを操作すると、重厚なシャッターが重々しく上がってゆく。上がりきり、トラック三台と軽装甲車が入ってゆくと、再び閉じられる。内部はガランとしている。先に帰還している筈だった他の中隊のトラックも見掛けない。それも当然で、やがて右端奥の床がスライドすると、そこにトラックが余裕で擦れ違えるスロープが出現した。トラックを先頭に、中隊は地下へとスロープを下っていった。

 地下はバンカーより遥かに広々としていた。地下一階には、機動歩兵大隊の車庫、武器弾薬庫、整備や訓練の為の施設、待機室などがある。詰め所と呼ばれる、大隊の為のスペースだった。輸送ドローンの格納庫は地下二階で、発進の際には地上へ伸びる長大なスロープを電磁カタパルトで射出される事になる。その発着口は、駐機スペースの向こうに普段は隠されている。帰還時には同じスロープを、三基の誘導用レーザーに従い滑り降りてくるのだ。一旦駐車スペースに入ったトラックは、『試着室』を降ろすため荷台の側壁を開いた。途中で二つに折れ、タイヤを隠す様に垂れ下がる。数台の小型フォークリフトが近付いて来ると、手早く『試着室』を掲げ整備ブロックへと続々と運んでゆく。P.A.W.W.及びその兵装の補修や調整、弾薬補充等を行なうのだった。全て降ろしたトラックは側壁を元に戻し、車庫へと向かった。

「第一中隊、総員集合!」

よく通る久音の号令一下、十二名の中隊員が駆け足で各小隊毎に彼女の前に整列する。

「点呼!」

各小隊長は回れ右をし、点呼を掛ける。間もなく一斉に向き直った。

「第一小隊、欠員なし!」

「第二小隊、欠員なし!」

「第三小隊、欠員なし!」

「了解、休め!」

中隊員達は休め、の姿勢を取った。久音は隊員達を静かに見回し。

「作戦の講評はデブリーフィングで行なう。デブリーフィングは三十分後に。解散!」

「了解」の声が重なり、中隊員達は一斉に敬礼をした。久音が答礼し、右手を下ろすと中隊員達も倣い、小声で私語をしつつ去っていった。

「ふぅ」

溜息と共に、肩の力を抜く。今回の作戦でも彼女の中隊は、否、大隊全体で一名の戦死者、重傷者も出さずに済んだ。彼女自身も含め未だ未熟な点、改善すべき点はあるだろうが、ここまではまずまず上手くやってきた、と言って良いだろう。ただ今回は大きな失点、タランチュラの地対地ミサイル発射を許してしまう、という事態が発生したが、それでも被害は最小限に抑えられたという自負はある。問題は、その最小限の被害の内容にあるのだが。

「お疲れ様。私はシャワーに行くけれど?」

一人残ったサラが、優しく久音の肩を撫で摩る。

「ありがとう。データを取りに行ってからね」

デブリーフィングの為に、P.A.W.W.から抽出した戦闘記録を整備班から直接、受け取らねばならないのだった。それには位置情報や全てのカメラ映像、コマンド、交信音声、兵装の残弾数等に関するまでの情報が含まれており、機密保持のため無線LANによる受け渡しも禁止されていた。

「判ったわ。お先に」

一つ肩を叩き、サラは去っていった。彼女を見送り、久音は憂いを含んだ表情を浮かべると、サラとは別の方向へと歩き始めたのだった。

 様々な情報を表示したブリーフィングルームの巨大スクリーンを前に、久音は一時間余りのデブリーフィングを締め括ろうとしていた。

「確かに、私達には多くの制約がありながら、課せられた期待、任務は過大なのかも知れない。しかし、各々が出来る事を完全にやりきったと言えるのだろうか?各人が、日々の訓練、業務、実戦を通じて、常にその事を問い続ける事を期待する、以上!」

その言葉を聞きながら、伏し目がちになる隊員もちらほらいた。デブリーフィングでは隊員同士が様々な指摘をしあうが、主に久音の鋭い指摘によって失態を晒される事になったのだ。マコもその一人だった。疲労が更に重くなり、力なく立ち上がり部屋を出て行く隊員達が多い中で、飯島マコは伏し目がちに立ち尽していた。

「どうしたの?」

スクリーンのスイッチをオフにすると、久音はその傍らに立った。

「…自分の撃破失敗したミサイルが、中隊長の弟さんの入院中だった病院に命中した、と聞きました」

「ああ…それなら、起爆しなかったそうよ。不幸中の幸いね」

もっともそれが原因で、一也はあんな事になったのだろうが、と胸の中で続ける。弟の豹変ぶり、否、人ならぬ者への転生、とも呼ぶべき現状の原因は他に思い付かない。あれが何者なのか、未だ彼女にもそれは判らない。弟の記憶があるらしいだけに、他人の空似では済まされない。あれが何者で、なぜ弟の肉体を乗っ取っているのか、それを知る事は出来るのか?不意に、マコは深々と頭を下げた。

「申し訳ありません!」

謝られても、どうにもならない。現実的にはそうだが、もちろんそう突き放しはしない。隊員のフォローは隊長の大切な務めだ。肩にそっと右手を添え、彼女の頭を上げさせる。

「色々と指摘はしたけれど、私達はまずまず上手くやっているわ。飯島三等軍曹!」

「はっ!」

ピシリ、マコは背筋を伸ばし直立した。

「明日より、貴官には空中制止及び精神修練、模擬射撃の各訓練加増を命じる!」

「飯島三等軍曹、命令を受領致しました!」

敬礼を交し、やがて解くと笑顔を交わし合う。肩を並べ、二人は部屋を出た。

 廊下では、スーザンが待っていた。飯島が会釈をすると、微笑みと共に小さく会釈を返す。宿舎の方へ歩み去る彼女を見送った。とたん、表情を引き締める。

「少佐、デブリーフィングはこちらでしたか?」

これから大隊単位でのデブリーフィングの予定だった。しかし他の中隊長の姿がない。

「基地司令がお呼びよ、貴女の弟さんの件で」

表情同様、口調も硬い。どうやら面倒な事になっていると、久音は理解した。

「了解。同行します」

一つ頷くと、スーザンは歩き始めた。久音はそれに続いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ