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第二章 Ⅱ

 軽装甲車の中で、一也と紗智はまるで年齢が逆の様な有様だった。アサルトライフルを携え、不審げな視線を向けてくる兵士達に囲まれ、紗智が何とも落ち着かなげなのに対し、一也はむしろ興味深げに周囲を見回している。回収部隊のトレーラが到着すると紗智と、引かれる様にして一也が、隠れていた建物の陰から姿を現した。連絡を受けていた部隊長は、部下にアントの回収を指示すると共に二人から簡単な聴取を始めた。氏名や年齢、二人の身分にここにいた理由など、クレーンがアントを吊り上げている間に、ほぼ全てを紗智が答えた。一也については、病院にミサイルが飛来し、その時の怪我が元で一時的な記憶喪失状態になっているのだと説明した。そのせいで混乱状態にあった病院を抜け出し、それに気付いて追ってきたところにアントと遭遇したが、機動歩兵大隊の兵士が助けてくれた。それが、彼女自身納得できる説明だった。部隊長もそれで納得したのだろう、二人は今、こうして朝霞基地に向かう途中だった。

 基地に到着すると、待ち構えていた憲兵隊に引き渡された。基地の医療センターで二人は簡単な検診を受けた。結果、一也の体に特に異常のない事が確認されたが、より詳細な検査でなければ判らないのでは、と紗智は押し通した。看護師であり彼とも顔馴染みの彼女の言葉に、軍医も無下に否定する訳にもいかなかった。それが済むと、二人は作業服に着替えさせられた。一也は裸足だったが、ブーツを貸与された。彼にしてみればただ単に煩わしいだけだったが、基地の者達からすれば哀れな姿に思えたのだろう。それを履くに当たって、紗智の真似をしている一也が医師等から奇異な目で見られていたのは致し方なかった。それらが済み、二人は取調室に案内された。

「どうか緊張なさらずに。ただ状況を伺うだけなので」

落ち着かない紗智に、ノートパッドを手にした男性の憲兵が机の向こうから微笑みかけた。

「そうですか?あの、先程もお話ししたんですけれど…」

「概要は。もう少し詳細な状況をお願いします」

「はい」

俯きがちに、紗智は答えた。ノートパッドを操作しつつ、憲兵は再び口を開いた。

「ええと…まずは、城田一也さんは、入院していたのですね?」

「はい。区立高島平中央病院です。私はその看護師で、城田さんの担当だった時もありました」

「そうですか。それで、城田さんはなぜ病院の外に?」

「ですから」

「この世界について知る為だ」

紗智が、怪我によって一時的な記憶喪失になった、という説明をしようというその出鼻を挫き、一也は口を開いた。憲兵の笑顔が一時凍り付き、ぎこちないものとなる。

「それは、どういう意味かな?」

「我はこの世界に来たばかりなのだ。あの建物の外に出、この世界について知る必要があった」

「この世界に、来た?」

「そうだ。我がこれから人として生きてゆかねばならないこの世界について、知ろうとする事は当然の行動だ」

この発言に対し、憲兵は暫し黙考していたが、やがて納得した様に幾度か頷いた。これは、この年頃にありがちな妄想の類か。報告に頭部の負傷による一時的な記憶喪失とあるが、あるいは、それが原因で現実と混同でもしているのかも知れない、と。納得出来れば笑顔を取り戻す。

「なるほど、君は生まれたばかりだ、と言いたいのだね?」

「多少違うが、そう考えても良いだろう」

「あの、済みません!」

話がおかしな方向へと転がり始めたのを、紗智は軌道修正すべく一也の前に乗り出し注意を惹こうとした。

「あの…城田さんはミサイルの為に怪我をして、一時的な記憶喪失、というか、記憶の混乱がある様なんです!」

そうでしょうね、と憲兵は内心頷いた。それでも確認すべき点があった。

「検診の結果は、特に問題なし、とありますが?」

ノートパッドを操作しながらの憲兵に。

「ですから、脳の断面図だけでは読み取れない症状もあります。精密な検査をしてみないと」

「そうですか」

内心納得する。現役の看護師の言葉に敢えて異議を挟むつもりもなかった。

「ですから、少々突飛な事を口にするかも知れません。気にしなくて良いと思います」

彼女からすれば一也を守るべく行動したのだが、一也としては意味不明な言動だった。だから無視する事にした。

「一つ、知りたい事がある」

「何だい、城田君?」

紗智に押され気味だった憲兵が、一也へと向き直った。一拍の間を置き、紗智はおずおずと身を引いた。

「ここは何なのだ?連合軍とやらか?」

「?そうだね。ここは連合陸軍駐留朝霞基地だよ」

いかに記憶の混乱があろうと、まさか連合軍を忘れた筈はあるまい、と思いつつ答えるが。

「連合軍とは何だ?あのゴーレム、バグスか?あれと戦うのか?」

「そうだけれど…え?連合軍を、知らないのかい?」

「だから訊いている」

これは忘れている、というレベルではないぞ、と、憲兵は思った。まるで最初から知らないかの様だ、と。一也としては、連合軍という言葉を聞いても久音の姿が浮かぶばかりで、どういう意味なのか要領を得ないのだった。元の肉体が、この言葉に他のイメージを持っていなかったのだろう。

「そうだねぇ…私達連合軍は国際調停会議配下で、世界の安定の為に活躍する軍隊だね。世界中の国や地域の要請を受けてこの日本の様に部隊を駐留させ、国際間の衝突や違法武装集団等の監視や解体、また大量破壊兵器その他、軍事力保有に関する査察や摘発など、また今は地球全体の安全の為に戦っているんだ」

くだけた口調で説明した。

「地球全体の?あの火星の兵器とやらは、この地球上の物ではないのか?」

「うーん、半分その通り、かな?火星からM.D.F.の送り込んだファクベースで製造された物だよ、この地球の資源を使ってね!七基着地したうちまだ一基しか破壊出来ていなくて、残りはあんな物をこの地球中にばら撒いては不安定にしようとしている、というところかな」

憲兵の説明には不明な点が多々あったが、それよりも興味ある点が彼にはあった。

「姉さんとやらが、我の破壊したバグスより大きく強力な物があると言ったが、本当なのか?」

我の破壊した、という言葉を聞き流しそうになり、憲兵と紗智は少し遅れて固まった。実のところ一番近くにいた紗智も、装甲車の陰に隠れておりその現場を直接目にしてはいないのだから。

「…うん、どういう意味かな?」

「…ええと、冗談よね?」

子供の言う事(十六才ではあるが)と、二人はぎこちない笑顔で訊ねるが。

「?訊いているのは我の方だが?あのバグスより大きな物が存在するのか?」

「ええと…だから、あのバグスは、君が破壊した、と言った様だけれど?」

「それがどうかしたか?あの程度のゴーレム如きに、我が後れを取ると?いや、最初は判らなかったが、結局は他愛もなかった」

この発言をもはや妄想の産物と判断するには、憲兵は大きな違和感に囚われていた。この少年は、あの程度出来て当然と、本気で考えているとしか思えないのだ。機動歩兵でさえそれを為すのに相応の労力を払わねばならないAI兵器を。

「そう、なんだね?なら、一つその方法を教えてくれないかな?」

「どうという事もない。右手を『分解』状態にし切断しただけだが?」

新しいキーワードが提示された。その『分解』という言葉を一也がどういう意味で使用しているのか、憲兵に確かめる方法は一つしかなかった。

「なるほど…では、再現しては貰えないかな?」

憲兵は立ち上がると身辺を探り、伸縮自在の警棒を取り出した。右手で一振り、警棒を伸ばすと七十センチ程になる。机を回り込み彼の傍らに来た。

「君の言う『分解』とやらで、この警棒を切断出来るかな?」

警棒はかなり頑丈で、手では曲げる事すらまず不可能な筈だった。両端を持ち、突き出す。たとえ手を痛める事になろうと、妄想から覚醒する良い機会だろう。

「良かろう」

一つ頷き、胸中で『分解、右手』と呟く。左目の捉えた光景が青みがかる。憲兵が不審げな表情をした。右手を少し振り上げると、警棒のほぼ中央目掛け振り下ろした。憲兵は何らの外力も感じなかったが、一本の警棒を握っていた事で感じていた左右互いの手の力が突然、消失した様に感じた。警棒は、真っ二つに切断されていた。『通常、右手』と、胸中で呟く。

「…あ」

両手の警棒を、憲兵は呆然と見較べていた。


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