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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

姫と用心棒のお話 完全版

作者: 龍神静人

前回をお読みになっている方は、『★★三日目★★』から後編ですので

そこまで飛ばしてかまいません。


冒頭の五行を加筆してます。あとは、内容は変えずにちょこっと言い回しとか手直ししているぐらいです。


 あの日、お前に出会っていなかったら……。


 そう考えると、実に人生ってのは上手くできている。そう思うよ。


 少なくとも、俺はあの出会いがあったからこそ、再び生きる目的をもらえた。



 な? お前もそう思うだろ?







 あの日。


 俺は、山道の途中で盗賊達に襲撃されている馬車を目にして、助けるかどうか迷っていた。だが、俺がどう行動するか決めかねていると、まるで急かすように女の悲鳴が聞こえた。


 その女は馬車から引きずり下ろされて地面に倒された。綺麗なドレスを着ていて、頭から落ちたのは宝冠だった。それを見て王族の人間だとわかった。肌は白く、きれいな細い足をさらけ出していた。倒されただけで、骨折しそうなぐらい華奢な体つきだ。


 仕方が無いな、と思って俺は助ける事に決めた。


 その女は、なにやら盗賊達に大声で訴えていた。俺は、後方から悟られないように忍び足で、すばやくその場へ近づいていく。盗賊達が女をすぐに殺さないのは捕まえて慰みものにしてしまおうかと考えているのだろう。盗賊達には一生無縁な程の美人だからな。


 盗賊の一人が下品な言葉を女に投げかける。女はそれを聞いて、顔が青ざめる。いや、青ざめたのはその言葉を聞いたからではない。その男が何か言った直後、その男の首が地面に落ちたからだ。


 俺が背後から刀を一振りして、男の首を落とした。すると、当然周りの盗賊達が一斉に殺気立ち、剣を構えて俺に襲い掛かってくる。


 俺はそいつらを全員一振りで殺していく。首を、腕を、胴を、斬る。盗賊全員を斬り伏せるのに三分もかからなかった。弱い。弱すぎる。


 俺は刀を地面に向けて振り下ろし付着していた血を落としてから鞘に収めた。


 女は真青な顔をしたまま、俺を見て少し震えているようだった。


 俺は声を掛けて大丈夫かどうか聞いたが、女は答えずにじっと俺を見ていた。そのときの俺は盗賊達の返り血で体中が汚れていたのだろう。女には鬼人のように見えたかもしれない。


 俺は、女に背を向けて立ち去ろうとした。


 すると、女が声を掛けてきた。お礼かと思ったがそうではなかった。俺に自分を守れと命令してきたのだ。大した女だ。助けてやったのにお礼ではなく、俺に用心棒をやれと命令してくるとは。


 俺は無視してそのまま立ち去ろうとしたが、女は駆け足で追いかけてきて俺の服の裾を掴んで離さない。その手は、言葉とは裏腹に小刻みに震えていた。良く見ると女は、まだ成人前ではないかと言うような幼さが残った顔をしていた。


 俺は、女を睨んで離せと言ったが、女はその手を離そうとしない。それどころか、自分は隣国の王城に行かなくてはならない、でも先ほど盗賊に護衛の者が皆殺されてしまって、護衛がいない。だから俺に護衛をしろと言った。


 俺は、一人で行けと突き放すように言い放った。女は俺を睨んで反論する。


 私のような女一人ではこの先進んでも一日持たずに襲われて死んでしまう。これは命令だと強気を崩さない。私を助けた責任を果たしなさいと言ってきた。


「冗談じゃない。俺とあんたは、赤の他人だ。助けてもらっただけでも感謝しろ」


 すると、女はこう言った。


「私は一国の姫だぞ!! 無礼な口をきくな! ……わけあって、私が隣国へ行くことを阻止しようとしている勢力がいる。馬車も壊れてしまって歩いて行くほかないわ。だからお前が必要なの。褒美は望むままに与えるわ。だから護衛をしなさい」


 ペラペラと偉そうに言っているが、俺には全く関係のない事だ。


 しかし、勢力と言ったか。狙われていると言う事は俺が斬った奴等はその勢力の刺客として送り込まれた雇われの盗賊って事になるのか? 俺は面倒な事に首を突っ込んでしまったと少しばかり後悔した――が、金欠の俺にとって王族の報酬は非常に魅力的だった。


「隣国に着くまでの間でいいのです。私を護衛しなさい」


「ちゃんと報酬はもらうぞ」


「ええ、もちろんよ。望むだけの額を支払うわ」


 俺は隣国までという条件付きで護衛する事にした。それに王族に借りを作るのもいいだろうと思ったからだ。しかし、望むだけの額ねぇ~。こういう言い方をする奴は余り信用はしていないんだよな。まっ今更だけどな。


 


☆☆☆☆☆




 案の定、その日の内に三回程襲撃をうけた。そのたびに俺が刺客を片付けたが、俺が強いのか。それとも相手の刺客が弱すぎるのか。俺としてはまったく歯ごたえのない奴らが続いた。


 王族を暗殺しようと刺客を送るならそれなりの手練れを連れてこいってんだ。


 姫さんは、俺が相手を切り伏せるたびに震えて俺を怖れているようだった。まぁこんなに人が斬られる様を見るのは初めてだろう。だが、慣れてもらうしかない。


「おまえはとても強いのね。私の護衛達もわが国の誇る騎士団だったのだけれど、彼らはあの時の盗賊に簡単に倒されてしまったわ。まったく情けないわ」


 と姫さんは溜息をつく。俺はその言い方に少し腹が立った。


「自分の身も守れない奴が自分の国の騎士を蔑むような事を言うなよ。彼らは命を掛けてあんたを守ったんだからな」


 姫さんは、凄い顔で俺を睨んだ。まぁそうだろうな。俺のような身分の人間に姫さんは説教をされたんだ。そりゃいい気分ではないか。


 が、俺はそんなの関係ない。俺からみればお前もただの街娘と大差ないんだよ。


 その日はそのまま、小さな宿場町で宿をとる事にした。泊まる場所に関して姫さんはごちゃごちゃと文句を大量に吐いていたが、そんなのは無視した。泊まれるだけありがたいと思え。


「こんな汚い部屋で寝れるわけ無いじゃない!! せめてベッドのシーツは新しいものに替えなさいよ!」


 と言っていた。宿屋の主人は困り果てた表情をしていたが、俺が追加でチップを支払うとしぶしぶ元々あった新しいシーツから厳選したであろう真っ白な新しいシーツに交換してくれた。俺も大概甘いもんだな。



★★二日目★★



 今日も、送り込まれてくる刺客を切り伏せながら隣国に向かい歩みを進めた。しかしこうも頻繁に送り込めるとなると、結構大きな勢力なんじゃないか。弱い奴らばかりではあるが、数はかなり揃えていると見た。よほど姫さんを隣国に行かせたくないんだな。


 相変わらず、戦いの後の姫さんは青い顔をして震えていたが俺を見る目は少し変わっているように感じた。何ていうのだろうな。まあ嫌な気分じゃない。


 歩いて隣国まで行くには、あと二日はかかるだろう。普段歩いてなさそうな姫さんには体力的にもつらいと思うがね。どうなんだ? と俺は確認する。


 姫さんは、ふんと鼻を鳴らして、そそくさと俺の先を歩いて行ってしまった。


 はぁ、どうにも扱いにくい姫さんだな。反抗期なのか。


 そして、もう何度目の襲撃か数えるのをやめた時、また襲撃である。


 俺は毎回のように一人一振りで斬り伏せていく。そして最後の一人これでおしまいと思った時だった。一人一振りで斬り伏せるはずであったが、相手は俺の刀を剣でしっかりと受け止めてきた。


 ほう、やっと手ごたえのありそうな奴の登場かな。


 俺は姫さんに少し後ろに行けとジャスチャーで指示を出す。その通りに姫さんは後ろへ下がっていく。その表情は不安そうであった。いつもみたいに一振りでは済まなかったからなのか。しかし、姫さんは、意外と表情にでて分かりやすい奴だな。


 俺は、最後の刺客と二、三歩といった間合いを維持したまま対峙する。


 すると、その刺客は姫さんが後ろに下がったのを確認すると同時に、その目線を俺の後方に移して目配りらしきものをした。


 すると、後方から姫さんの悲鳴が聞こえた。すぐ振り向くと姫さんの周りに計三人の黒装束の男が取り囲んで、剣を構えて今にも斬りかかろうとしていた。


 俺は姫さんのほうに全速力で走り、姫さんに剣を振り下ろそうとしていた一人の刺客を斬り伏せる。が、残りの二人が俺を無視して、姫さんに斬りかかる。


 くそ、二人同時っていうのは、良くないぜ。俺はもう一人の持つ剣を刀で撥ね上げて、そのまま男の胴を斬る。もう一人の刺客の剣は、左腕で受け止めたが、楔帷子を切り裂かれて腕の肉まで達してしまった。俺の左腕の下にいた姫さんは、俺の血で顔が汚れちまった。


 あとで、文句を言われそうだ。


 それにしても、なまくらな剣で助かったぜ。業物の刀なら腕を切り落とされていた。


 刺客の男は驚いていた。そりゃそうか、生身の腕で剣を受け止める奴なんてそうはいないだろうからな。が、そんな事で驚いているようじゃ刺客のあんたは実戦経験が足りないと言わざるを得ない。


 俺は驚いている刺客の首を刀で切り落とした。そして、最初の刺客に向き直る。


「なかなか(こす)い手を使うじゃねぇの」


 最後の刺客は、俺に向けて剣を構えた。俺はそれに応えるように刀を構える。俺の左腕からは今も血が滴り流れている。残りの片腕で倒せるといいけどな。


 と、男の周りから数人、数十人と黒装束の刺客たちが現れ始めた。おいおい、そんなに大勢何処に隠れていたんだよ。


 俺は身体の向きはそのままに姫さんのいる所まで後退していった。姫さんはさすがに絶望的な表情に変わっていた。そうだろうな。いったい何人いる? 二十人、三十人はいるんじゃないか。さすがに俺一人で同時に相手できるような数じゃない。


 隣国には着実に近づいているからな。向こうも焦り出したとみるべきかな。


 刺客たちの中から数人が前に出てきた。しかもそいつらは弓を手にしていた。勘弁してくれよ。それはないぜ。俺はそれを見るなり懐から、煙球を出して地面に叩きつける。そして、姫さんの手を握り、一目散に逃走を図る。


 弓は、煙を無視して放たれたようだ。後ろから矢が飛んでくる。俺は姫さんを庇うように真後ろに移り、全速力で走り続けろ! と姫さんに叫ぶ。姫さんは必死になって走るが格好が良くない。長いスカートをたくし上げているが、それでは、腕が振れない分遅い。


 俺は、背中と腕に二、三本の矢を受けたが、距離があったのか傷は深くはない。俺は姫さんを抱き抱えて、山道のわき道、いや道ではなく林の中に逃げ込んだ。


 ぐずぐずしていると刺客に追いつかれる。俺は姫さんを抱えたまま道なき道を草を掻き分けながら進んでいく。草や小枝やらが姫さんの体に当たるが仕方がない。


 姫さんは、痛い痛いと叫びながら俺を睨みつけている。が、緊急事態であることは理解しているようで大人しく抱えられていた。


 しばらく、林の中を走り続けて、大樹の根元の穴に逃げ込んだ。さすがに息が切れた。それに俺の左腕の血が止まらねぇ。もしかしたら毒の類かもしれない。


 穴に入ってから俺は姫さんを下ろして、辺りを窺って奴らの気配がない事を確認する。姫さんは、自分の服に付いている葉っぱやら小枝やらを手で払っていた。綺麗だった白い肌は無数の擦り傷がついてしまっていた。俺のせいじゃないぞ。


 左腕の傷を良く見てみると、案の定毒物の類だと分かった。傷口の周辺が紫色に変色して血が流れ続けている。こりゃちょっとまずいな。


 姫さんはそんな俺の後ろで大人しくしていると思っていたら、俺の背中を撫でてきた。さすがに驚いて俺は後ろを振り向いた。


 そこには、あの強気で偉そうな姫さんはいなかった。どこか不安げに俺を見ている。そうか、そういえば背中に数本矢を受けていたっけな。左腕の痛みで忘れていた。


「だ、だいじょうぶなのか?」


 姫さんが初めて俺を心配する言葉を投げかけた。なんか変な感じだったが俺は頷いて大丈夫だと伝えた。


「で、でも矢が沢山刺さっているわ……お、お前が死んだら誰が私を守るのだ?」


 ……俺ではなく自分の心配ね。まぁ良いさ。


 俺が死んだら姫さんを守る奴はいなくなる。だから当然、ここで暗殺されるな。俺は意地悪く姫さんに答える。


「し、死ぬなよ。生きてもらわねば困る!」


「俺は別にいつ死んでもいいんだがな。まぁ引き受けた仕事は全うするさ。隣国に辿り着くまでは姫さんを守りきってみせる。安心しな」


「う、うん」


 なんか、いきなりしおらしくなりやがった。


 俺は、背中に刺さった矢を姫さんに抜いてもらい、服を破った布の切れ端で包帯代わりに左腕を巻いた。血は止まらないがそのままにしておくよりはましだろう。が、解毒剤をもっていないからな。このままでは地味に出血多量で死ぬのは確定なのだがどうするかな。俺は姫さんに何か毒を喰らったみたいだから、解毒剤とか持っているかとダメ元で聞いてみた。


 ダメ元で聞いてみたが、意外な答えが返ってきた。


「このあたりには、いろんな薬草が自生しているようだから、解毒の作用のある薬草も自生しているかもしれないわ」

 

 何でも、逃げる道中にあたりを見ていて薬草も自生しているのを確認できたらしい。すげえな。姫さん。俺は初めて姫さんを褒めたい気持ちになった。

 

「……そ、そうか。それを探しながら逃げるか」


 姫さんの体力は期待できないが、もう一度ダメ元で聞いてみた。


「これから、また走りっぱなしになるが、どれくらい走れる?」


「もう走れないわよ。私は姫よ! 舐めないで」


 ……言っている事はよく分からないが、しょうがねぇ。抱きかかえて走るしかねぇな。


 すると、姫さんが何かを見つけたようで大声を上げた。俺はすぐ姫さんの口を手で塞いで静かにするように言う。見つかっちまうぞ! アホかこいつ。


 姫さんは塞いでいる手の平越しに唸って、ある箇所を指差す。そこには数本の草が生えていて、言わんとしていることがわかった。これが解毒作用のある薬草か。


 姫さんは頷く。ラッキーだな。こんな大樹の穴の中に自生しているとは。俺はすぐにその草を引っこ抜いて磨り潰して傷口に塗り、布を巻きなおした。


 そして、少し休んで、穴からでて再び姫さんを抱き抱えて林を走りぬける。とにかくどこかの村に逃げ込みたいな。どこかこの近くに村はあるのか?


「このまま東に行けば、一つ村があると聞いているわ(・・・・・・)


 姫さんが答えたので、そこを目標に走り出す。刺客は追ってきているのだろうか? それとも見失っているだけか。どちらにしても人の多い場所に行けば容易に暗殺は出来まい。俺は姫さんを背中に背負いなおして、林の中をひたすら走りその村を目指した。



 林を抜けて平原の道に出たところで、刺客達に追いつかれた。いや、この場合は待ち伏せされていたと言った方が正しいだろうな、ざっとニ十人程度かな。さすがにここは、戦わないと切り抜けられないな。


 目の前には、村が小さく視認できる距離である。俺は姫さんに村まで一目散に逃げ込めという。俺が刺客を足止めすると。


「で、でも私はもう走れないわ。知っているでしょ」


「ああ、だが走れ! 走れないなら死ぬだけだ。いいな。とにかく村に向かって走り続けろ。村の近くに行ったら叫び続けて助けを求めろ。そこではあいつらも容易に手を出せない。いいな。後ろを振り返らずに走れよ」


 姫さんは、この期に及んで不服そうな表情をして頷いて、走りだした。


 刺客達は当然追いかけようとするが、俺はもう手加減なしで斬りかかる。容赦なく刺客達を斬る。それも残酷に首を刎ね、腕を切り落とし、足を切断する。この光景をみて少しでも怯んで退散してくれることを期待する。


 が、こいつらも暗殺を生業としている奴らだ、そうそう怯むような甘い奴はいなかった。


 さすがに人数が多いので、俺も斬られながらの戦いだ。しかしそう簡単に致命傷を付けられるわけにはいかない。俺は上手く捌きながら刺客の数を一人ずつ確実に減らしていく。


 俺の後ろへ誰一人通すわけには行かない。全員皆殺しだ!


 


 ☆☆☆




 さすがにこれだけの人数を斬り伏せる事は無理だった。俺は満身創痍で、息も切れ切れ。まぁこれだけ時間を稼げれば、姫さんは村に辿り着けるだろう。ここが俺の死に場所かな。


 ようやく、死ねる(・・・)……


 そう思った時、残存している十人余りの刺客達が急に踵を返すように退散していった。


 後ろを振り返ると、村の自警団だろうか。二十人以上の男達がこちらに向かってきた。どうやら姫さんは村に辿り着いたらしい。


 はは、死に損なったな。


 俺は、刀を鞘に納めてその場に座り込んだ。さすがに限界だった。



 その後は、村人達に肩を貸してもらい姫さんが保護された民家に連れて行ってもらった。なんでも、姫さんは泣きながら俺を助けるように頼み込んでいたらしい。


「な、泣いてないわよ。ただ、これからも隣国まで護衛させるんだから、死んでもらっては困るだけ! それだけだから」


 だそうだ。


 まぁいいさ。姫さんの安堵した表情を見るに、おそらくは内心、感謝してくれているのだろうと思う事にした。


 それにしても、この村の連中にも強い奴らはいるんだな。特に今俺に肩を貸してくれている男はおそらくなかなかの手練れだ。

 

「安心するのは、まだ早いがな。早く隣国に行きたいとは思うが今日はここの村に泊まる。さすがに俺がもたない」


 ということで、一泊させてくれと村人に話したら、親切な老夫婦が快く泊めてくれるそうで助かった。


 姫さんには文句を一言も言わせない。睨みを利かせて黙らせる。


 しかし、心外とばかりに姫さんは睨み返して言う。


「分かっているわ。文句なんて言わないわよ。今なら馬小屋にだって寝れるわ」


 よしよし、いい子だ。


 こうして、俺と姫さんは村で一泊することにした。


 



■□☆●■□☆●■□☆●

★★三日目★★ 





 翌朝、小鳥のさえずりが部屋の外から聞こえ、冷たい風が窓の隙間からスルりと部屋の中に入ってくる。さらにベッドの布団の隙間に潜り込んで俺の身体にそっと触れた。


 さっむ!!


 そこで俺は目を覚ます。いや、最初から眠ってはいない。十中八九、夜中に襲撃がくると思っていたのだがそれは杞憂に終わったようだ。


 まぁ杞憂に終わったお陰で、姫さんもぐっすり眠れた事だろうさ。はぁ、用心棒をやっているとまともに眠ることなんてできないし、もう二、三日眠らなくても平気な身体になっちまってる。職業病ってやつかな。


 体力も回復したし、疲労感も取れた気がする。それと重傷だった左腕の血は、止まったが傷口が完全に塞がっていない。まだ激しく動かすと傷口が開くだろうな。


 俺にとってこの長い休憩は大きい。


 俺はベッドから起き上がり、布団を畳む。


 そして、部屋のドアを開けて一階のじいさんとばあさんがいるリビングに向かう。なぜかといえば、さっきから旨そうな匂いが二階の俺のいる部屋まで匂ってくるからだ。


 姫さんも起こしてやろうかと、俺は姫さんのいる部屋に入る。


「っ! ひぐっ!」


 おっ。あぁ~そうか。まずったな。こりゃ。


「お、お、おおお、お前!! ノックもできないのか!!」


 あぁ、悪い。つい癖っていうか……なんて言うんだろうな。


 ごめん。


 俺は、静かにドアを閉める。

 

 姫さんは着替え中だった。っていうか裸だった。まぁ朝からいいもん拝ませてもらったわ。なんて事を思っていると、ドア越しにドカドカと床を踏み付けている様な音が鳴り響いた。そして、


「殺してやる、殺してやる、殺してやるぅぅぅぅ~~~~!!」

「はあ~~。絶対に殺す!」


 姫さんとは思えない物騒な台詞が聞こえたので、聞かなかった事にしてやった。


 荒れている姫さんは放っておいて、俺は先に一階のリビングへ下りると、じいさんはテーブルの椅子に腰を掛けていて、ばあさんは台所で朝食の用意をしていた。


「あの娘は何をしとるんだ? 天井から落ちてきた埃がワシのコーヒーカップの中に入っちまったぞい」


「あぁ、悪いな。あいつは寝起きが悪くて朝はいつもあんな感じなんだ」


 なんて、姫さんを適当にフォローしておいてやる。


「ほほほ、元気があってよいがのう。ワシのコーヒーは淹れ直そうかの」


 あ、ついでに俺にも一杯いただけるとうれしいんだが。と言うとじいさんはニコニコしながら俺の分のコーヒーを淹れてくれた。


 俺は爺さんとテーブルを挟んで向かい合う形で椅子に座る。


「昨日は助かったよ。ありがとう。それに寝床まで用意してくれて感謝している」


 長年旅をしている身なので、こういう感謝の気持ちはしっかり伝えないといけないと俺は学んだのだ。こうして出来た縁はきっとどこかで実を結ぶと信じることにしている。


 じいさんと他愛もない会話をしていると、俺は背後に只ならぬ殺気を感じて振り返る。すると


「ずいぶん、楽しそうに会話しているではないか。おい、お前! 私への謝罪と贖罪はどうした?」


 謝罪はしただろ。贖罪は……すでにお前を護衛してやっているだろうが。


「っ! なっ!? な、な、な~! さっきのあれが謝罪だと? ふざけているのかお前! こ、この私のは、は、ぁ は、だ……かを見た罪は死罪だ! 斬首に値するわ」


 はあ、年頃の女っていちいちめんどくさい。裸を一回見られたぐらいなんだってんだ。大人になれば、好きな相手に死ぬほど見せることになるんだぞ。


「うっきゅっ! な、な、何を言っている! そんな訳あるか。バカなのかお前は!」


 姫さんの顔が一気に真っ赤になった。頭から白い煙が出そうなくらいに赤かった。はは、可愛い奴。見た目も幼い顔立ちだし、こいつひょっとしてまだなのか。


「隣国についたら、お前を殺してやる。打ち首だ!」


 おいおい、隣国についたら好きなだけ褒美を貰える約束だったと思うが?


「はい、はい。ケンカはその辺にしなさいな。朝食ができたわよ」


 姫さんが一人地団太を踏んでいると、ばあさんが台所から朝食を運んできた。う~~ん、実に旨そうじゃないか。ほら、姫さんもいい加減に機嫌直して飯にしようぜ。


「くぅ~~、お前のその反省のない態度が気に食わん!!」


「いいから、飯は食わせてもらえ」


 俺は姫さんを適当になだめると、朝食を取り始める。姫さんもブツクサ言いながらもテーブルの椅子に腰を掛けて、「おばあさま、おじいさま感謝致します」と、ころっと別人に変身して朝食を食べ始めた。


 何が「おばあさま、おじいさま」だ。


 なんて、思っていると心を読まれたのか、俺が口に出してしまったのか、姫さんは鋭い目つきで俺を睨んだ。


 はぁ、これから隣国に向かうって言うのに気が参るね。



 朝食後、俺と姫さんはそれぞれ出発の準備を進めていた。なんせ俺たちは追われる身だ。ーーいや、俺は別に追われてはいないのか。しかし、すでに刺客をたくさん殺してんだ。同じようなもんか。


「ねぇ? ちょっといい?」


 いきなり、姫さんが俺の部屋のドアをノックしてきた。なんのようだ? もうちゃんと反省の意味をたっぷりと込めて土下座したし、文句いわれる事はないぞ。


「入るわよ」


 と言いながらドアを開けて部屋に入ってきた姫さんの表情はなんか暗かった。


 もう~、今度はなんだよ。なんでそんな暗い顔してんだ? と思っていたら姫さんが深刻な表情で問いかけてきた。


「ね、ねぇ。あの時、その……ど、どこをみたの?」


 は? なんだよ。また蒸し返そうとしているのか。俺の回答次第ではまた荒れるのか?


「ち、ちがう! 単純に身体のどこを見たのかって聞いているのよ」


「ケツだな」


「ひっぐぅ! け、ケツってどこ見てんのよ!」


 お前がどこを見たかって聞いてきたからケツだって答えただけだ。ケツを見たからなんなんだ? また土下座しろってか? たかだか青臭いケツ見たから土下座か? ケツより恥ずかしい部分はあるだろうが! ケツぐらいでごちゃごちゃ言ってんじゃねっての!


 俺はしつこい女は嫌いなんだよ。っとまでは言わないでおいてやる。


「け、けけ、ケツケツ連呼をするな! 死ねクソ野郎!」


 お、おいおい。姫さん。言葉遣いには気をつけろよ。さすがに姫さんがその言葉を使ってはいけねぇ~な。


「うるさい! 本当にそこだけなのね?」


 こだわるな。何か見られたくないものでも付いているのか? はは、実は男の子でしたとかだったら俺もさすがに見て見ぬ振りはできないがな。


「ふざけないで! っ!」


 姫さんの拳が俺の顔に向かって放たれたが、それをなんなく右手で掴んだ。投げられたボールを掴むが如くだ。筋のいい右ストレートではある。威力は皆無だけどな。


「な、なによ。こういうときは大人しく殴られなさいよ」


 そうもいかないな。俺は殴られても痛くもかゆくもないが、たぶんあんたの拳が悲鳴を上げるぞ。そんな柔らかくてちっこい手じゃあ、俺を殴るなんて100万年早い。


「もういいわ! もしアレを見たのならお前も――」


 姫さんは、どうやら信じてくれたようだった。最後何かごにょごにょ言っていたようだったが声が小さくて聞き取れなかった。




★★

 



 俺と姫さんは、まだ朝靄が残っている時間帯に出発した。じいさんが親切に使い古した荷馬車をくれたので、それに乗って移動している。歩いていくには遠い隣国である。馬車を手に入れられたのは大きい。


 勿論、俺が馬の手綱を握っている。姫さんは荷車に乗っているが乗り心地が良いとは決して言えないだろうな。まず表情が不機嫌の極致を表していた。荷車が少し道の段差で上下に跳ね上がるたびに「痛い! 痛い!」とうるさかった。

 

 付け加えるなら、荷車が揺れるたびに姫さんの胸が上下に揺れている。意外と大きいのか。――い、いや、まずいな。朝からケツなんて拝んだせいか、頭がピンク色に少し染まっているかもしれん。俺は自分の頬を叩いて頭を覚醒させる。


「ねえ、何? 今の音」


 なんでもねぇよ。


「そう――ねぇ? なにかクッションになるような物はないの? お尻が痛くてたまらないわ」


 ねぇよ。


「うぅ」


 姫さんが唸っている。はぁ、姫さんの機嫌が悪いと俺の居心地も悪いので、途中で馬車を止めて道端にある草やら枯れ葉などを大量に拾い集めて、姫さんの座る場所に敷き詰めてやった。まるで子供のお守りじゃねぇか。くそ。



 しかし、この状況は気に食わないな。襲撃が一度もない。昨日までは「コレでもか!」ってぐらい刺客が送り込まれていたが今日は一回も襲撃がない。この調子だと夜には隣国に着いちまう。いや、無事着けることに越したことはないのだが。何か嫌な感じだった。





「うわ~! すごい。ねぇ~みてみてあの鳥達、少しも乱れないで固まって飛んでるわ!」


「あっ! そこの木の実を採ってお昼にしましょうよ」


「おいしいわ!」


「いいから、そこで待っていて。絶対こっちにくるんじゃないわよ!」


「ねぇねぇ。あの間抜けな顔をした動物は何ていう名前?」


「ねぇ。あの滝は何て呼ばれているの? 大きいわね」


「ふふふ。――あはははは」



 いい加減にしろよ。ふふふじゃねぇ~っての。どこのお姫様だよ。まるでピクニック気分かよ。行く道、行く道、感動しやがって。お前外に出たことないのか? 忘れているようなら教えてやるが、お前は今現在、命を狙われて逃亡している身だ。無邪気な満面の笑顔を見せやがって。こっちまで調子が狂っちまう。


「いいじゃない。こんなにいろんな場所を巡ったのは初めてだもの」


「わたしは、ずっと暗いば…しょ……」


 姫さんが言いかけて黙り込んだ。何か訳ありなのか。どうでもいいが突然沈み込むのはやめろ。


「おい、見えてきたぜ。隣国の町だ」


 それを聞いた姫さんは荷車から俺の肩越しまで身を乗り出して隣国の町を眺めた。おいおい、あんまり身を乗り出すなよ。落ちるぞ。


「ふふ、だいじょうぶよ。――やっと着くのね」


こうして、一度も襲撃をうけることなく、日が沈む頃に漸く俺達は隣国に到着したのだった。



□□



 俺たちは城下町の宿屋に部屋を借りて一晩明かすことした。追っ手もさすがに他国に侵入して悪さをするような事はしてこないだろうと思ったが、ココまでの道中一度も襲撃がなかった事がどうも気持ち悪く、姫さんは断固反対していたが同じ部屋に泊まることを強要した。


「ふ、ふざけないで! なんで同部屋なのよ。あ、あんた下心丸出しじゃない!!」


 違う。落ち着けって。ここまで上手く行き過ぎているのに俺は何か嫌な感じがしてならない。だからあくまでも護衛だ。護衛。


「信用できるわけないじゃない。今朝だって私のは……だかを見たのだし」


 そこで顔を赤くするな。何を思い出しているんだ。


「お、思い出してないわよ。とにかく反対よ。冗談じゃないわ」


 結局俺の提案は却下された。まぁ仕方が無いか。俺としては同部屋の方が確実に守ってやれるんだがな。お年頃の女って言うのはそうだろうよ。しかし、俺は姫さんにどうしても聞いておきたいことがあり、就寝前に俺の部屋に呼び出した。



「な、なによ。こんな遅くに呼び出して」


 悪いな、どうしても確認しておきたい事があってな。どうして国を追われるような事になったのか? どうして隣国に助けを求める事にしたのか? など幾つか知りたい事を聞いた。しばらく姫さんは黙っていたが、ようやく口を開いた。


「突然夜中に起こされたの。起こしてきたのは昔から私を慕ってくれていた近衛兵の一人よ。そして、今すぐ国外へ逃げなさいと言われたわ。意味が分からずに混乱していた私に一言だけ、『王妃が殺されました。次はあなたの番でしょう。だからお逃げなさい』そう言われたの。だから手配してくれた兵と共に逃げたのよ」


 王妃が殺された? そんな大事件が起きていたのか。で、なぜ隣国へ向かった? ここなら助けてくれると思った根拠はなんだ? ――はぁ今考えれば俺も大概だな。そんな大事が起きていたのなら隣国に着く前にこの質問をしておくべきだった。


「そ、その、ここにはフィ…フィアンセがいるのよ。ここの第一王子が私の婚約者なの。だからここに来れば第一王子がなんとかしてくれると思って」


 ……王妃が殺された理由に心当たりはあるのか?


「……」


 姫さんは俯いて黙りこんだ。『心当たりはあります』って言っているようなものだな。


「ないわ」


 そう思った矢先に姫さんは顔を上げてそう答えた。いや、あるだろ。なぁ姫さんよ。俺は長いこといろいろな人間を守ってきた。用心棒ってのは命をかけて依頼主を守る仕事だ。そのために情報っていうのは大事なんだよ。だから最初に出会った時から何も情報を得ようとしなかった俺は用心棒失格だな。そこは大いに反省しているところだ。


 だが、今は違う。王妃が殺されたとなると相手は本気も本気よ。何がなんでも姫さんを始末したいはずだ。理由は姫さんが知っているんだろうが今はあえて追及はしねぇ。理由を知ったところで俺がやることは変わらない。


 よく聞けよ。俺の経験から考えを言うと姫さん、お前はここにいたら殺される。ここまでの道のりで相手が手を出してこない。で隣国に着いちまった。俺の推測では相手はすでにこの国の人間にも手を回しているはずだ。


 でなきゃ、やすやすと国境を越えさせるようなマネは絶対にしない。


「そ、そんなことはない! 王子は優しいお方だし昔から何度もここには訪れては、いろんな話をして、いろんな遊びを教えてくれた。他にも執事だってメイドだって私の事をよく知ってくれているし、親切にしてくれる。王様だっていつも笑ってくれていた」


 姫さんは、俺の推測を聞いて表情に不安が見え始めていた。それを払拭するように助けてくれる根拠を並べる。が、それは根拠になりえない。人はいつ裏切るかなんて分からないからだ。それに仲良くなったってそれは演技かもしれない。王子との婚約だって、国同士の同盟とかそういうのがきっかけなんじゃないのか。だとすればそういうのは政略結婚って言うんだ。たとえ本人同士が愛し合っていたとしてもな。


 姫さん。人を信用するっていうのはそんな単純な事じゃないんだよ。


「黙れ! 無礼だぞ。私達は出会ったきっかけはそうだとしても、今はお互い愛し合っている」


 愛し合っているか。――姫さんの目にはうっすらと涙が見えていた。俺としたことが言い過ぎたな。おそらくまだ愛なんて語れる年齢じゃないはずだ。俺だって未だに愛なんてしらねえ。


「すまなかったな。ちょっと言い過ぎた。――明日は俺も一緒に行く。最後まで守りきってやる。いいな。俺が安全だと判断するまでは仕事は続行する」


 姫さんは滲み出ていた涙を拭うと頷いて、俺の目の前まで近づいてきた。そして、胸に手を当てること数秒、何かを握ったその手を俺の前に差し出してきた。


「……ここまでの護衛ご苦労であった。これは私からの褒美よ。今渡しておくわ」


 そう言われて俺が手の平を出すと、姫さんはその上に宝石を乗せた。これは宝石なのか?


「これはめったに市場には出回らない貴重な宝石だと聞く。売れば一生遊んで暮らせるお金が手に入るぞ」


 俺はまじまじとその宝石をみる。透明色でまるで真珠のようにまん丸なそれは七色に輝いていた。こんなもの見たことないな。


「私はもう寝る――あ、あの、ここまで護衛してくれてありがとう」


「お、おう。もう寝ろ。また明日だ」


 姫さんはどこか寂しそうな背中を見せて俺の部屋から出て行った。




★★四日目 別れの日★★




 くそ!!


 

 くそ! あいつ。俺も同行すると言っただろうが! なぜ一人で行った。俺にしては久々に焦燥感に駆られていた。宿屋の主人に寄れば今朝早く部屋を出て行ったらしい。二時間前ってところか。


 くそ! くそ! 俺としたことが眠りこくっちまった。睡眠とらずに三日目か。限界だったか。くそ! 思わず大きな声を張り上げてしまった。路地にいる周りの人から奇異な目を向けられた。姫さんの向かう場所は分かりきっている。焦るな。落ち着け。とにかく城に向かうんだ。


 結局、城に向かったところで門前払いをされた。当然だ。たぶん姫さんはここの王様か王子とかと面会して事のいきさつを説明したのだろうな。くそ! 無事なんだろうか。俺の考えすぎだと良いが。



 西日が眩しくて手で日差しを遮りながら夕暮れの街道を歩いていた。考えてみれば、今日はまだ一回も食事を取っていないことに気がつき、近くにあった酒場に立ち寄って少しお腹を満たすことにした。姫さんとはもう会えないのだろうな。だが、万が一っていう事も有り得るしな、何か動きがあるまではこの町に滞在するか。


 適当に注文を済ましてから、テーブルの上に両膝をついて姫さんからもらった宝石を眺める。良く見ると丸い宝石の中になにか一際輝く光を見つけた。なんだこれ? 俺は酒場の照明にその宝石をかざしてまじまじと眺める。見れば見るほど不思議な宝石だ。


『市場には滅多に出回らない貴重な宝石だそうよ』


 そんな事を言っていたが姫さんが狙われていた理由ってコレを持っていたからではないのかと思う程、見蕩れてしまう宝石だ。


 そんなときだった。酒場のドアが勢い良く開かれると一人の男が店内に入ってきて開口一番に言った内容に心臓が大きく跳ねた。


「おい! これから国への反逆罪で捕まった女の公開処刑を行うみたいだぞ!!」


 っ! すぐに椅子から立ち上がり、その男の所へ行き胸ぐらを掴んだ。


「おい!! それはどこでやるんだ!」


「お、王城の中央広場。式典を行う場所だ」


 男は俺のものすごい剣幕に腰を抜かしてしまったようだ。床にへたり込んじまった。中央広場って城門の前にあったかなり広いあのスペースか。店の外にでると、周辺はざわついている民衆でいっぱいだった。


 ちっ! 邪魔だな。俺は民衆を荒っぽく掻き分けながら中央広場へと急いだ。


 


■■■




 中央広場の入り口。アーチ型で二十メートル程続いているその通路を抜けると、遠方正面に聳え立つのは王城。その目の前にはかなりの面積を有する円形状の広場。広場内には視界を遮るものは何一つなく、周辺を一望できる。そして、その中央に見える光景を見た。


 その光景が目に入った瞬間、全身の血液が沸騰するほどの怒りを覚えた。なんだ? なんなんだ! ふざけるなよ!! 人間!! これが人間のやることか。


 そこには両手に鎖の手枷、両足首には鉄球付きの足枷をつけられた姫さんがいた。全裸だった。白くて綺麗だった肌には無数のすり傷と切り傷が見え、身体は血で赤く染まりかけていた。姫さんは羞恥心に耐えきれず今にも泣き崩れそうな様子だった。ふざけるなよ。一国の姫をそこまで辱める必要があるのか!! 


 俺の中の何かが弾けそうになる。


 襲いかかれと掻き立てる。皆殺しにしろと囁いてくる。

 

 抑えろ! まだだ。チャンスを窺え。頭は冷静に――大きく深呼吸をして衝動を押さえ込む。


 

 傷つき弱々しく立たされている姫さんの周りには三人の男。そして一人の正装した男がすぐ隣に立っている。そして、その後方には数多の兵隊が待機していた。くそ、数えるのも面倒くさいほどいやがる。


 その光景は城を背景に多数の兵隊が傷ついた女一人を取り囲んでいるようにも見える。見るに耐えない酷い光景だった。すると姫さんのすぐ隣に立っていた男が口を開く。


「諸君! この者は同盟国である隣国で王妃を殺し、王までをも殺した罪人。そして、さらに今日わが国の第一王子にも手をかけようとした不届き者よ」


 そう言い終わると、その男は握っていた鎖を自分の方に引き上げた。それに引っ張られるように姫さんがよろめいてその場に倒れる。良く見ると姫さんの足元には引きづられて来たような血の跡が付いていた。その長さ10メートル程か。


 すると、俺の隣で見物していた民が強張った表情で声を掛けてきた。


「お、おい。兄さん。すげぇ~表情しているけど大丈夫かよ」


「うるせぇ!」


 表情に出ていたようだ。その男は外套を身にまとっておりこの町の住民と言うよりは旅人といった感じだった。俺は半ば強引に男にその外套を寄こせと言い、それを奪った。そして男には金を渡して「これだけあれば新しい奴が買えるだろ」と言って足早にその場から去った。


 ここは場所が悪い。どこかいい場所を見つけないと。俺はそのまま民衆が集まってできた群集の中を掻き分けて移動した。



「しかも、民衆諸君。この者は姿形を偽りこの人間社会に紛れ込んでいた悪魔であった。諸君らも良く知るあの忌まわしき反乱分子だったのだ。処刑する前にその正体を諸君にも披露してやろう!」


 俺は移動しながら、その様子を注視していた。悪魔? あいつは何を言っているんだ。


 すると、その男は姫さんの身体に剣を向けて、白く細い太ももに突き刺した。そして剣を回し傷口を抉る。


 姫さんの悲痛な叫びが響き渡った。


 あのやろう!!


 俺が衝動的に飛び出そうと全身に力を入れた瞬間だった。姫さんの身体はまるでモザイクがかかった様にブレた。ぶれて、その姿が、いや顔が変わる。目の色が、頭髪の色が……姿形は人と同じ、だが目の色と髪の色が人のそれとは異なる。


 民衆が驚きの声を上げる。そしてそれは怒号に変わっていく。


「うそ!? なんなんだ。こいつは」「まだこの世に存在していたのかよ」

「まだ生き残っていたのか、この悪魔め!!」

「祖父の仇だ!! 殺せ!! 今すぐに処刑しろ!!」


 俺はその姿を知っていた。長く生きてきたからこそ知っていた。深紅の瞳に薄緑色の髪毛。特徴は一致していた。――あれは……人造人間――クリスタリア。


 ある目的のためだけに遺伝子操作で創り出された人造人間。古代人の遺伝子を使っているともされている。全滅してなかった? 生き残っていたのか……。


 ……だとすると俺がもらったあの宝石も理解できた。


 しかし、あの顔はどうやって変えていた。そんな能力はないはずだ。


 まさかクリスタリアの生き残りに再会できるなんて。長く生きていると本当にいろいろと起きる。俺は一瞬だが昔の事を懐かしく思い出していた。


 もしかしたら、■■■■、お前が巡り会わせてくれたのか?


 これが運命なのだとしたら、俺がやるべき事は分かりきっている。



 俺は周りを見渡す。


 近衛兵など敵となりうる人間の配置、数、そしておよその実力を測る。


「さぁ、この忌まわしき過去の遺物。一度は人間を破滅に追いやったこの悪魔を生かしておく理由はない」


 そして男は姫さんの耳元で囁いた。


 すると、何を言われたのか、姫さんの目から涙が溢れた。その涙は顔を伝って身体を撫でるように流れていく。そして雫が地面に落ちる頃には赤い雫に変わっていた。そして、姫さんと目が合ったような気がした。そんな悲しい目で俺の方を見るなよ……。


 昨日の姫さんの満面の笑顔を思い出しちまった。


 姫さんのその涙が俺を自然に動かす。



 俺の中の撃鉄が起こされる。




 そして、ゆっくりと引き金が引かれた。 




「さぁ。この世から消えろ! 悪魔め!」




 そして、男が右腕を振り上げて処刑の合図を送ろうとした時、俺はすでに姫さんを目指して疾走していた。



 


 それは烈火のごとく凄まじい形相だったに違いない。俺自身いったいいつ飛び出したか良く憶えていなかった。


 ほんの数秒の間、兵士達も民衆も誰もが見上げていた。皆が目で追っているのは宙を舞っている人の腕。俺が斬った男の腕だ。


 そのほんの数秒の間に、まだ自分の腕が宙を舞っている事実に気がついていない男の首を刎ねる。そして、俺が羽織っていた外套を姫さんの身体を包むように被せる。


 そこまでで二秒足らずか。続けておそらく執行人だろう男三人を斬り伏せる。横一閃胴体を斬り、そのままの流れで身体の向きを替えて二人目の男を下から上へ一刀両断。返り血が盛大に俺に降りかかる。そのまま三人目の男へ向けて今度は上から下へ刀を振り下ろす。


 三人の男が絶命してその場に倒れる。そして、民衆の中の一人の女性が驚きとも恐怖ともとれる悲鳴を大きく上げた。


「きゃあああああああああ!!」


 それが戦闘の合図となった。


 周りにいた兵士達が事態を理解し、俺に襲い掛かってきた。しかし、俺は姫さんから半径四メートル以上は離れるつもりはない。常に姫さんは自分の間合いに入れておく。今回の戦闘の唯一の縛りだ。


 とは言ってもこいつらが攻めてくるのを待っていたらさすがにこの数ではあっという間に押し潰されちまう。だから俺は一回気合いを込めた声を張り上げた。


 その瞬間俺のすぐ側まで攻めてきていた数人の兵士が怯んで立ち止まった。そして俺の間合いの中で愚かにも立ちすくんだ兵士を斬る。斬る。斬る。こうして出来た血溜りは丁度俺の必殺領域の間合いを示す形になった。


「さぁこれからは覚悟してかかって来いよ。この血溜りに足を踏み入れた奴から殺していく」


 兵士と言ってもやはり今の一言で斬りかかる事を躊躇するようじゃ相手にならない。しかしこの状況に今は助けられていると言っても良い。これで怯まずガンガン攻められていたらさすがの俺も姫さんを守りきることはできない。


 外套に包まれた姫さんはその隙間から俺を見上げている。なんていう面してるんだよ。そんな顔するな。大丈夫。俺がなんとかするさ。


 そう心で言いながら姫さんを一瞬見る。


 っ! 来た。今の俺の視線をずらした瞬間を見逃さなかったお前はこの中じゃあ優秀だよ。今俺が見せた一瞬の隙を捉えた一人の兵士が斬りかかる。が、俺は振り下ろされた剣を刀で横に払ってそのまま男を一刀のもとに斬り伏せた。


 その男の行動がきっかけとなり数人が襲い掛かる。それを斬る。俺の背後から斬りかかり、振り向いてそいつを斬ると同時に背中を見せた俺に向かってまた別の兵士が斬りかかる。その繰り返し。そして徐々に襲い掛かる人数がだんだん増えてくる。


 さすがにもうこの場に留まるのは賢明じゃない。俺は姫さんを抱きかかえて場所を少し変える。もちろん移動しながら、兵士達を斬り伏せていく。


 あのままではさすがに地面に広がった血に足を取られるからな。


 民衆達は戦闘が始まるや否や、一斉に逃げていった。今この広場には兵士達と俺と姫さんしかいないと思っていいだろう。遠くで戦況を見物している野次馬はいるが無視して構わない。


 抱きかかえていた姫さんを下ろす。選んだ場所は広場入り口を潜った地点。要は敵の進行箇所を一箇所に絞ったわけだ。ここでは真っ直ぐ俺に向かって来ない限り姫さんに危害を加えることはほぼ不可能だ。


 後ろから心配そうに見つめる姫さんの視線を感じる。さすがに俺だってあれだけの数の敵を360度全方位で対処するなんて芸当は出来るわけがない。


 身体には裂傷等が無数に付けられていた。姫さんは俺の背中に触ろうと近づいてきたが俺はそれを『来るな!』と制止させる。


 さぁこれからが正念場だ。突破されれば姫さんはその瞬間終わり。だが丁度いい塩梅だ。俺の中のこの怒りを全てお前らにぶつけてやる。


 姫さんを入り口、広場と街路の境付近に待機させて、俺は二十メートル先で敵を迎え撃つ。敵が同時に襲いかかれるのは通路の幅からして精々四人程度だ。俺はただ向かってくる敵を斬り払う。斬って斬って斬りまくる。


 俺にとっては単純な繰り返し作業になりだした頃だった。残り数十人と言った所で兵士達が後ろに後退し始めた。やっと一時撤退かな。かなりの兵士を倒したしな。体力的に考えてもこのままだったらジリ貧だった。と思ったがそうではなかった。


「くっそ!! 地面に伏せろ!!」


 姫さんのいる方へ振り向いて、全速力で疾走し、ありったけの大声で叫んだ。


 俺の背中越しから幾つもの銃声が響く。姫さんとの射線上に身体を割り込ませているから、弾丸が曲がらない限り姫さんには当たらない。


「んぐっ!!」


 背後から銃弾を浴びながらも姫さんを抱き上げて射線上から右に抜ける。そのまま路地を進んでいく。何発くらった? く……体中が熱い……。


 中短距離用のライフルか。あれを配備するまでの時間稼ぎを俺はしてたってことか。くそ、足に数発くらっちまったか。走力が落ちていた。


 姫さんが何か言いたそうに口をパクパク開けている。黙っていろ! 舌を噛むぞ! 俺は息を切らせながら怒鳴っていた。


 路地を進む。入り組んでいる方を選択しつつ進む。血を地面に落としながら、いや流しながらと言った方が表現は近いかもしれない。血が流れる。どこから流れている。確認するのも惜しい。今はとにかく敵から逃げなくては。


 はぁはぁはぁ、くっそ。血を流し過ぎたかな。クラクラし始めてきやがった。もう向かうべき場所はあそこしかない。あそこにさえ着けばなんとかなる。


 すると、抱いている姫さんから小さな声が聞こえた。


「もう……いいの――私なんか捨てて……あなただけでも逃げて」


 何を言っている。姫さんの言葉を無視してひたすら走る。もうすぐ着く。待ってろ。もうすぐだ。お前を逃がすまでは意識を手放さない。絶対に。





 着いた場所はここに来るときに乗っていた馬車を預けた場所だ。この城下町の唯一の入り口でもある。守衛が四人いるが問題ねぇ。


 姫さんを物陰に下ろす。剣で抉られた足に包帯代わりの布を巻いてやる。


 ちょっと待ってな。

 

 そして、守衛四人を暗闇から襲撃する。今は体力を少しでも温存したい。刀で首を刎ねる。少ない手数で確実に殺す。


 荷車から馬を離し、姫さんのところへ引っ張ってくる。


「この馬に乗ってこの国から出ろ! 来た道は一本道だ。ひたすら進めばあのじいさんとばあさんがいる村に着くはずだ」


 姫さんは何を言っているの? っていう表情を見せて首を大きく振った。


「いや!」


「早く乗れ!」


 俺は姫さんを抱きかかえて馬の背に乗せようとする。しかし姫さんは俺の服を強く掴んで離れようとしない。


「いや!!」


「でかい声をだすな!!」


「いや、いやよ! ……一人にしないで」


 まるで駄々っ子じゃねぇかよ。今の状況は分かっているだろ。早くしないと追っ手がこっちにくる。行け。大丈夫だ。あの村のじいさんとばあさんならお前を見ても匿ってくれる。俺は人を見る目はあるんだ。


 これは嘘じゃない。クリスタリアと分かれば、この島ではアノ村以外味方はいない。やけに強そうな村人がいたかと思ったが繋がった。本当に出会いってのは大切だな。


「あなたはどうするの?」


 誰かが囮になって追っ手を引き付けなきゃ馬でも追いつかれるだろ。俺が囮になる。この死体を外套で巻いて逃げ回ればお前を抱えて逃げていると誤魔化せるさ。


「いやっ! 私も残る」


 バカか。お前を助けるためにしていることだ。二人一緒に死んじまったら意味がねぇ。いいか、よく聞けよ。俺一人ならどうとでも逃げられるんだ。お前を庇っていたら二人とも捕まって殺されるのが落ちだ。


 だからお前は先に行け。いいな。


 姫さんはそれでも首を縦には振らない。目に涙を浮かべて俺を睨んで訴えてくる。


「一人はいや! あなたと一緒にいたい! ねぇ…お願い。そばにいて」


 それはできねぇんだよ。分かってくれ。俺はお前をこのまま死なせたくないんだ。頼むから俺の言うことを聞いてくれ。


 安心しろ、あの村の人間達はクリスタリアと分かってもお前の味方をしてくれる。俺には分かっているんだ。大丈夫。俺を信じろ。



 これはお前に預けておく。


 そう言って報酬で貰った宝石を姫さんに手渡す。


 後でまたそれを貰いに行く。分かったな。大事に持っていろよ。俺の報酬なんだから。


 姫さんはそれを握り締め、唸りながら首を横に振っている。聞き分けがないな。お互い生きてりゃまた会える。そうだろ。


 そうこうしているうちに、後ろから追っての近づいてくる音が聞こえ出した。


「時間がねぇ。馬に乗れ!!」


 姫さんは顔をブンブンと横に振る。そんな顔を両手で掴んで、俺は顔を近づける。じっと姫さんの目を見つめて優しく伝える。


「村で待っていてくれ。必ず迎えに行く。そしたら、お前を外の世界に連れていってやる」


「外の世界?」


「ああ、そうだ。クリスタリアのお前でも居場所はある。生きていける場所はあるんだ。この島だけが世界の全てじゃない。外の世界ならお前が生きていける場所はたくさんあるんだ」


 姫さんは俺の目をじっと見つめている。


「連れて行ってくれるの?」


「ああ、約束だ」


 そう言って姫さんのおでこに軽く口づけをした。


 姫さんが目を見開く、驚いている隙に姫さんの身体を勢い良く持ち上げて馬に乗せる。そして、手綱を握らせて、馬のケツを思いっきり蹴った。


 馬は鳴き声を上げると姫さんを乗せて走り出した。


 姫さんは終始後ろを振り向いては何かを叫んでいたが、最後には馬にしがみつく様な姿勢をとった。


 そうそう、馬から振り落とされるんじゃねぇぞ。


 俺は姫さんの後ろ姿が見えなくなるまで見つめていた。


 そして、追っての足音が大きくなる。


 俺は守衛の死体を外套で包むことはしなかった。こんなので誤魔化せるほど相手はバカじゃない。ここで足止めしてした方がよっぽど時間を稼げるってもんだ。


 兵士達が目視できる距離まで迫ってきた。なんだよ。さっきよりも数が増えているじゃねぇか。先ほどの銃をもった部隊もいる。


 俺は一度深呼吸して覚悟を決める。長年連れ添った刀を抜く。月光に照らされて抜き身になった刃が光る。その刃は、一分の隙も無く、近寄る者は全て斬り捨てる。そんな雰囲気をあたりに撒き散らす。


 体中に神経が張り巡らされていく。


 考えるのはもはや姫さんのことじゃない。


 相手をどう斬るか。どう殺るかだ。


 

 夜空にうっすら輝く月が雲に隠れて辺りを薄暗くしたその時。



 俺は刀を振るう。


 そして、その場に激しい剣戟の音と銃声が鳴り響き、怒号と悲鳴が飛び交った。




 俺は用心棒だ。依頼主を守り抜くのが仕事。



 まだ報酬を貰ってねぇんだ。


 

 必ずお前を迎えに行く。



 生きることに飽きていた俺がまた生きたいと思っちまった。

 



 お前と出会っちまったから。



 

 だから生き抜いて見せる。


 


 ……必ず。


 

 









★★ 一ヵ月後 旅立ちの日 ★★





 あの日、お前に出会っていなかったら……。


 そう考えると、実に人生っての上手くできている。そう思うよ。


 少なくとも、俺はあの出会いがあったからこそ、再び生きる目的をもらえた。



 な? お前もそう思うだろ?



「そうね。私もあなたから生きる希望をもらったわ」



 ここは港。今日はこの島から旅立つ日だ。



「もうすぐ出航で~す! 乗客の皆さんは乗船してくださ~~い!」


 船員の声が港に響き渡る。家族で見送りに来ている者、しばしの別れを悲しんでいる男女二人。一人名残惜しそうに町並みを見つめる年配の男。


 様々な人間模様が広がるこの港に俺達二人もいた。


 さて、行くか。


 俺たちには見送りはいない。あの村の人達は理由があってきていない。だが、選別だと言われて沢山の品々をもらった。


 その荷物を右肩で背負って、乗船口へと歩き出す。


「なぁ、なんで毎回俺の左側にぴったりくっついて歩いてるんだよ。ちょっとは離れろ」


「ふふ、嫌よ。私のために失ってしまった左腕がないと不便でしょ?」


「別に」


「だから、私がこれから先ずっとあなたの左腕になってあげるわ」


 そう言って姫さんは俺の腰に両手を回して抱きついてきた。


「だから、歩きにくいんだよ! 離れろ」


「嫌よ!」


 姫さんは俺を見上げて笑う。


「お前が俺の左腕になるなんて100万年遅いんだよ」


「? どういう意味よ」


 わからないならそれでいいさ。


「なにその態度!」





 俺は姫さんを外の世界へ連れて行く。


 この島の閉じられた世界から出してやる。



「見つけてやるよ。お前が生きていける場所を。これからする旅はそういう旅さ」



「私はもう居場所を見つけたけどね」


「ほう。いつの間に、それはいったどこなんだよ」


「それを知るにはまだ100万年早い! あはは!!」



 俺から離れて先を走っていく姫さんのフードがそよ風によって脱がされる。


 そして、その素顔があらわになる。



 薄緑色の髪をなびかせ



 真紅の瞳を輝かせて



 とても綺麗で



 なんだか幸せそうに笑っていた。






最後までお読みになってくださった方々へ感謝いたします。

当初はここまで長くはならない予定でしたが、二万字を少し超えてしまいました。


これを元に何か書ければいいかな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ・最初から終わりまでの疾走感。 ・状況説明(戦闘中やそれ以外の場面も)を書くのが相変わらずお上手でした。 ・最初はツンケンしていた姫が、主人公に懐いていく流れが自然でした。 ・姫が可…
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