NO:0 プロローグ
カチャカチャ……
パソコンの画面と向き合い必死にキーボードを叩く。
電気も点けていない、真っ暗な部屋。俺と部屋を照らす明りはパソコンの画面の光だけ―
目が悪くなろうが関係ない。ただ目の前の事を必死にやる。ただそれだけだ。
既に時刻は一日を過ぎた。虚ろな目でキーボードを叩きつけ、画面と戦う。
これで何回目だろう。“eraa”は。しかし俺は舌打ちを打つだけで粘り強く次の手を考える。
「お前は出来ない子。弱虫、泣き虫、へっぴり腰!」
「ッ―」
遂に襲い掛かってきた睡魔と共にいやな記憶が蘇る。
ギリッと歯を噛締め、何かを誤魔化すように俺は作業を進める。
しかし。それ程までにその睡魔は俺を睡眠へと進みさせたいのか、誘惑は続く。
「どうせ逃げてるだけでしょう?」
うるせぇッ……!
頭がぼんやりして来ると嫌な物も蘇ってしまうのか。
ならば、今すぐ寝れば―
そう考えたとき、不意に思考が止まった。そしてなにかを断ち切るように首を大きく横に振る。
落ち着け、落ち着け。
頭の中の悪魔がそう囁く。
―これさえ出来ればお前はなにも逃げなくていいじゃないか―
と。
そうだった。俺は逃げてばかりだった。なにに関しても。
そんな俺を周りは冷やかすように俺を馬鹿にしてきた。
だから、だから、だからッ―!
俺はここに“入る”
ここに入って皆を見返してやる。
インターネットの付き合いだ。失敗してもただ無視続ければいい。
俺はこの“世界”で一番になる―!
そう思ったときだった。
パソコンの画面に薄く写る俺の顔がいやらしく、悪魔のように微笑んでいたのが見えたのは―
自分でもそれは怖かった。怖かっただから……
俺は“Entar”を押した―
幸福か不幸か。天使か悪魔はこんな俺を哀れに思ったのか……
今まで失敗だけだった登録画面が登録完了画面となっていた―
この時の俺は嬉しかったのか?それは分からない。覚えていない。
だが―
その時の俺の顔は本当に悪魔のように笑っていたのだと思う―