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其の八



部屋に戻ると食事が用意されており、食べようとしたらドアがノックされ、返事をして開けると、先程の三人がニコニコと手を振り待っていた。


「ど、どうしたのでしょうか?」


「いや、この民宿な、客が少ないから直ぐにこの部屋に由貴ちゃん居る思て、遊びに来たんよ」


「えへへ、来ちゃった…」


「何で彼女面やねん!」


(ダメだ。ノリに着いていけない)


頭を抱えたい気持ちをグッと抑えて、せっかく来てくれたのだからと、部屋に案内する事に決めた。


「えっと、じゃあ入ります?」


「ええのん?親御さん居てはるんじゃないの?」


「いえ、私1人ですけど」


「嘘!?何でなん!?」


「えっと、どう言えば良いのかな…あ〜両親が死んじゃったので祖父の家に行こうかと思い、今そこに向かってる途中なんです」


千都世が由貴の背後で祖父もへし折れて死んでるけどねと呟くが、それを無視して、我ながら良い言い訳と思っていた。

三人を見るとバツの悪そうな顔をしている女性に横の2人が軽く頭を叩いていた。


「えっとゴメンな、悪い事聞いて」


「いえ、構いませんよ。それより入らないんですか?」


「あ、お邪魔します」


部屋に入ると手が付けられていないご飯が目に入り、女性が由貴に私達に遠慮しなくていいから先に食べてと言い、由貴は久し振りに精進料理以外の食べ物を食べた。

暫く黙々と食べ、箸を置いて最後に手を合わせる。すると三人の視線を感じ、どうかしたのかと思い、口を開いた。


「どうしました?」


「いや、見とったらメッチャ上品に食べるからな?」


「うん。由貴ちゃんって、もしかしてええトコのお嬢様とか?」


「いやいや。顔良くて、お嬢様とか、もう少女漫画でしか見たことないわ…ちゃうやんな?」


三人の視線が再度、由貴に向けられ、返事を待っている。


「いえ、お嬢様とかではありませんよ。普通の生活でしたし」


「ホンマに?まぁでも流石にそんな完璧超人は居らんわな」


「せやな」


「いや!まだウチの疑惑は晴れてへん!由貴ちゃん!オカンとかオトンの事何て呼んでんの?」


何故そんな質問をと思い、何の疑問も持たず由貴は質問に答えてしまった。


「お母様とお父様ですけど」


一瞬の静寂の後、三人はオーバーリアクションで後ろへと倒れ込んだ。

すると示し合わせたかの様に順に台詞を並べていった。


「お母様!」


「お父様!」


「やっぱ、ええトコの子やん!」


ギャアギャアと騒ぎ出す三人。由貴の頭の中に女三人集まれば姦しいと何処かで聞いた言葉を思い出した。

その後も色々と質問され、その度にひっくり返る三人を見て千都世は笑い、由貴も少しではあるが口元が緩んでいた。


「あ〜もう、お腹いっぱいやわ」


「それな」


「由貴さんハンパないって…」


由貴の答えを聞くたびに三人は疲れ果てて仲良く畳の上でゴロゴロと転がっていた。

すると由貴に最初に喋りかけた女性がガバッと起き上がり、他の2人を起こし深刻な顔で言った。


「ウチら、由貴ちゃんの名前知っとるけど…自己紹介してへんわ」


「「ホンマや!!」」


すると三人は息ピッタリに揃って由貴に向かって正座し、自己紹介を始めた。


「ん、んん。ほな最初はウチからで。ウチは【山本 茜】っていいます。茜って呼んでな。はい次!」


茜はショートカットで髪が明るいブラウン色。

行動力の高さは由貴が良く知っており、少し童顔だがコミュ力は高く、2人のリーダーポジションにいる。


「え〜っと、【藤本 奈美】です。アニメや漫画が好きです。奈美って呼んでな。ほい次」


茜と正反対なマイペースな性格。髪が背中まで伸びた黒髪。ゲームやアニメが好きたが、三人で揃って遊ぶのが好きみたいだ。


「はいは〜い。【吉田 沙織】で〜す。沙織って呼んでね〜」


沙織は髪を金髪に染めて、肩まで髪を伸ばしている。

成績は意外と良く、性格は2人を割ったような性格で2人の面倒を見ているとの事。

自己紹介が終わると茜は手を由貴に差し出して次を促した。


「ほな次は由貴ちゃんよろしく!」


その流れに由貴は染み付いた習慣よろしく。正座を正し、美しい所作で頭を下げ、自己紹介をした。


「御子神 由貴と言います。よろしくお願いします」


三人は由貴から感じる謎の高貴な貫禄に圧倒され言葉が出なかった。

由貴が顔を上げ、数秒後に漸く茜が声を出し、その次に奈美と沙織が続いた。


「何かもう、色々と負けてる気分やわ」


「ウチらの自己紹介がアホな子みたいやわ」


「もう名前まで神々しい」


そんなこんなで騒ぎつつ時間は過ぎていき、規則正しい生活をしていた由貴は欠伸を漏らす。

それを見た三人も今日は何か疲れたと言い、部屋に戻っていった。


「騒がしい人達だったね」


『でも楽しそうだったわよ?』


「そうね…人とこんなに長く楽しい時間を過ごしたのは千都世を除いて初めてよ」


そう言って寝間着に着替え布団に入り、眠りに就こうとすると、またしてもドアからノックの音が聞こえ、開くとそこには布団と枕を持った茜達がいた。


「どうしたんですか?」


「えへへ、由貴ちゃん一人で寂しないかなー思て」


「…来ちゃった…」


「せやから彼女か!?もうええねん、この天丼。てかそれ寝間着?暴れん坊大将でしか見た事ないわ」


別に寂しくはなかったが彼女達からは純粋な気持ちが伝わってくる。由貴は困ったような、嬉しいようなと初めての気持ちに心地良さを感じ、仕方ないなと茜達を部屋に迎え入れた。


「ほな先ずは恋バナやな!」


「いや、先ずは由貴ちゃんにBLの素養が有るか確認してから…」


「やめとけ!由貴ちゃんが汚れてまう!」


「びーえる、とは何ですか?」


「ほら!由貴ちゃんがいらん事覚えてもた!」


「ふひひ、BLとはね…」


「「あかーん!」」


三人の乱闘を見たり、恋バナをしたりと、生まれて初めてこの日、夜更かしをして、日付が変わる前ぐらいに喋り疲れ、皆んな眠りに就いた。


しかし、そこから約二時間後。スッと由貴の目が覚め、千都世と目が合う。


『あら、起きちゃったの?』


「何か来る」


『ああ、気にせず寝てればいいのに。ただの地縛霊よ』


千都世が言い終わると同時にガタガタと机に置かれた湯呑み茶碗が揺れ、壁などから叩く音が不規則に鳴り響く。その音に寝ていた三人が地震と勘違いして起きてきた。


「ん〜。何や?地震か?」


「いや、その割には揺れてへんやん」


不自然に揺れる湯呑み茶碗に壁を叩く音。三人は直ぐにこの民宿に伝わる都市伝説を思い出した。

沙織がそっと手を挙げて由貴と茜、奈美を見て言った。


「なぁ、怖い事言うてええ?これ絶対ーー」


「言うな!認めたないねん!」


「…あんな噂嘘やろって思とったのに…」


三人は怖がりながらも由貴の近くに来て、守るように抱きしめた。本当に怖いのだろう。

涙目で密着していから三人の心臓は早鐘のように鼓動している。

民宿に泊まる時から何か居るのは分かっていた。

何もしなければと放っておいたのだが、流石にコレはやり過ぎだと思い、由貴が立ち上がる。


「全くいい迷惑だわ。ちょっと祓ってくる」


「「「え?」」」


呆けてる三人を残し、部屋の中心に立ち、パンッ!と部屋に響くように強く、一回手を叩くと全ての怪奇音が止まり、揺れも無くなった。


「千都世」


『ええ』


由貴が自分達に向かって誰かの名前?を呼ぶと後ろから声がハッキリと聞こえ、聞くだけで全身から寒気を感じた。


「な、何がーーー」


『うがあああ!!!』


「きゃあ!」


何が起こったいるのか分からないまま、今度は男の叫び声が部屋に響く。

その声に三人は小さく悲鳴をあげ、1人冷静な由貴を見て言葉を失った。

三人が見たのは由貴と同じくらい綺麗な着物を着た女の人が半透明な男を足蹴にして、由貴の前に突き出していた。

由貴は男を見下ろし、人差し指を男の額に当てて、三人が見ていた由貴と違うと思えるような殺気を含んだ声で男に喋りかけている。


「どういう理由で地縛霊になったのかは知らないけど、私達に迷惑をかけるなら滅するわよ」


『黙れ!ここに居る女は俺をフッて他の男と結婚しやがった!許せるか!ここを潰して不幸にしてやる!』


男が叫ぶとまたしても部屋に怪奇音が鳴る。


「そう、まぁ無理だと思うけどね」


そう言って左手で男の首を掴んで持ち上げ、右手の人差し指と中指を立てて、空中に五芒星を書き、口元に立てた指を当て、一言だけ呟いた。


「滅」


『ああああアアアァァ……」


半透明な男は断末魔と共に光る粒子になって消えていった。

完全に消えたのを確認すると、何事も無かったかの様に三人を置いて布団に入り、おやすみと寝始めた。


「「「いやいやいや!!」」」


「待って!色々と待ってぇ!」


三人が声を揃えて寝ようとする由貴を起こす。


「…何ですか?夜中の2時過ぎですよ?早く寝ましょうよ」


「いや無理やから!寝れんから!」


「…由貴ちゃんもしかして異世界から戻って来たりする?」


「何言うてんねん!そんな事よりもっと色々有るやろ!?」


結局三人は寝ようとした由貴を何とか起こし事情を聞いた。由貴も話さないと寝させてくれないと思い、観念したのか自分は元巫女で除霊なんかもやっていたと言い、千都世については守護霊だと、強ち間違いでもない言い訳をした。


「可愛くて、お肌綺麗で…」


「元巫女に最強守護霊…」


「お金持ちのお嬢様…」


三人の中で奈美が立ち上がり、一筋の涙を流しながら吐き出す様に由貴に言った。


「属性過多リア充め…」


「な、何かごめなさい」


後で茜達に聞くと、ココは地元でも有名な民宿で、値段は凄く安いのだが、幽霊が出ると言われ、テレビでも夏の心霊番組で取り上げられていた。


普段はこの民宿を知らない客が夜中に幽霊を見て叫び、腰を抜かして逃げるまでが流れだったのだが、三人は所詮は噂と思い、民宿に泊まったのだが、まさか本当に霊が出て、さらには今まで人を脅かしていた幽霊は今日出会った美人霊能者の由貴ちゃんに退治されりと、1日に色々起こり過ぎて何が何だかもう分からなくなっていた。


後日。新しく出来た噂には、夜中に幽霊の悲鳴が民宿に響き渡り、それ以降は幽霊を目撃する人は居なくなったとか。







民宿地縛霊「今日も客驚かせまっくて民宿の人気下げたろ!お?女4人…カモやんけ!」


由貴「FIRST COMES ROCK」


民宿地縛霊「ひえ…」

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