其の二二
遅くなってすみません!
待っていてくれた方ありがとうございます!
それでは楽しんで下さい!
夕方ごろ、玄関から呼び鈴が鳴り、テツの奥さんが玄関に出るとそこには薄汚れた少年が立っていた。
「僕どうしたの?迷子にでもなったの?」
「…由貴さんに会いに来ました」
「由貴さんに?聞いてないけどお客さんかしら…取り敢えず家に入りなさいな」
少年を家に上げ、客間で待っててねと言い由貴を呼びに行く。タイミング良く部屋から由貴が出て来たので要件を伝えようとしたが、何故か知っているらしく客間に向かう。
客間の戸を開けると、聞いた通りの少年が奈美の恍惚した表情でウヒヒと変な笑い声を上げながらジュースとお菓子で餌付けしていた。
「さあ、さっき教えた通りに上目遣いで奈美お姉ちゃんって言ってみ」
「…何やってるんですか?」
「うびゃあ!?ちゃ、ちゃうねん!邪な気持ちは無いねんで、ただ貴重な幸薄ショタっ子が居ったもんやから、つい」
「私はお菓子とジュースを持って行くように頼まれて。奈美さんは勝手について来ただけです」
瞳は止めるように奈美に言ったそうだが一回だけと言って聞かなかったそうだ。茜さんから奈美さんを雇う前に注意されていが、仕方ない。
「取り敢えずこの事は茜さんと沙織さんに報告します」
「そ、そんな〜」
「はいはい、もう直ぐ夕食ですから買物に行きますよ」
瞳に襟を掴まれて引きずられていく奈美。何時の間にか随分と仲良くなったみたいだ。
奈美と瞳が居なくなり、静かになったところで、少年の後ろにいる千都世に話しかける。
「それで、その子は?」
『拾ってきた』
てへっ!と舌を出す千都世。まったく何処から覚えてくるのやらと由貴は顳顬を押さえる。
「ちゃんと説明しなさい」
『つれないわね〜』
千都世と別れてから少年を連れ帰るまでの経緯を説明してもらう。話を聞く限りではネグレクトやDVが当てはまるだろう。だけども、いくら可哀想だからといって子供連れ帰ると、それはもう誘拐だ。
虐待ならば本来は公に任せるべき事なのだが、何故か千都世は少年から離れようとしない。
「その子の親は?まさか殺したの?」
『安心しなさいよ。殺してなんかいない。ちょっと脅しただけよ』
「なら良かった」
少年の両親がいくら酷い人だろうが私にも千都世にも、どうこうするつもりは無かった。
将来的に少年が両親と分かり合える機会を奪いたくなかった。
たとえ分かり合えなくて復讐するのは少年の権利なのだから。
「本当にお姉ちゃんも千都世お姉ちゃんが見えるんだ」
「…私も驚いたわ。本当に見えるのね」
千都世と話していると少年は不思議そうに由貴と千都世を交互に見て驚いていた。
喋っていて忘れていたが千都世が言うには薄ぼんやり見えているのでは無くハッキリと見えているらしい。
霊感が有る者でさえ千都世の事は黒い靄か、黒い人影にしか見えない。
だから千都世がハッキリと見え、更に触れる事さえ出来るのだから少年の霊感は凄まじものとみていい。
「うん。ずっと前からいっぱい見える」
『ね?凄い実力が有ると思わない?』
「…何が言いたいの?」
少年を抱きしめている千都世を見ると、何と無く察しはついてるが一様聞いておこう。
『由貴の弟子にしなさい』
訂正しよう。弟子にしろと言われるとは思ってなかった。
「…無理よ。人に教える程、私の腕は良くないわ」
『十二天将で、3席のクセによく言うわね〜。その地位を狙っている者が聞いたら怒るわよ〜』
この後も千都世と由貴の話し合いが続き、最終的に千都世は少年を使って情に攻撃を仕掛けた。
由貴も居場所が無い者の気持ちは痛い程よく分かっている為、結局、渋々ではあるが少年を置くことに決めた。
「ハァ、分かったわよ。後のことは田畑に連絡して何とかしてもらうわよ」
『流石、私の由貴だわ!』
「何時、千都世のモノになったのよ。それで、君の名前は?何て言うの?」
少年に聞くと、紙は無いかと聞かれ用意した。たどたどしいが自分の名前を漢字で書いて由貴と千都世に見せてくれた。【詩翠】。
虐待されてた割にはマトモな名前を付けて貰ったと思っていると名付け親は母親の祖母らしい。
母親はこの子の産んでから直ぐに居なくなって、そこから今まで祖母が育てていたそうだ。
その時に自分の名前の漢字や、簡単な勉強を教えてもらっていたらしい。
しかし、最近になって寿命で祖母が亡くなり、母親に引き取られたそうだ。
「そうだったの。なら、これからよろしくね。詩翠」
その後に面倒が無いように田畑に連絡をして、子供の虐待から少年を保護したと言う名目で屋敷に済ませる事になった。
「いやはや。了解です。後のことは任せて下さい。それでは」
田畑は連絡後、虐待をしていた両親の家には政府と繋がりがある警察官を向かわせ、両親は緊急逮捕。
翌日にはニュースで茶の間を賑わかせていた。
そして由貴は弁護士事務所に詩翠を連れて行き、義彦の部屋に入れた。
「そう言う訳だから義彦。今日からこの子の保護者になりなさい」
「どう言うことですかい!?お嬢!おじょっ、て足早!」
事務所から陸上選手顔負けのスピードで逃げ、面倒臭そうなのは義彦に丸投げしておいた。
田畑にも連絡はしているし、弁護士なら上手くやれるだろうと言う信頼があるから任せた。
その後、詩翠は田畑の提案により名字を御子神にした。由貴の元に居るなら、強い霊能力を持っていると他の十二天将や他の派閥から勧誘されて余計ないざこざを起こしたりする。
そうならないように名字を御子神にして、厄介ごとにしない為だとか。
現在では義彦が保護者となり、詩翠は屋敷から小学校に通っている。
時折、何処で情報を得たのか知らないが、虐待を受けていた少年をインタビューしようとしていたマスコミも居たがカメラやマイクが何故か故障し、それでも近づく者は何故か足を挫いたり、何も無い所で転んだりと少年に近寄れる者はいなかった。
「過保護過ぎじゃないかしら?」
『そうは言ってもね、拾った手前、はいさよなら、は冷たいでしょ?』
あれから千都世は事あるごとに詩翠に憑いて世話を焼いている。少し前に千都世に聞いた。
詩翠を守りたい気持ちは貴女の気持ち?それとも中の母親の気持ち?
少し意地悪なら質問だったが、千都世は怒らず答えた。
『私の心の中の気持ちよ』
千都世は胸を慈しむように押さえて、答えてくれた
「なら…仕方ないわね」
千都世は自分の中にいる人達も含めて自分の心とハッキリと言える。蘆屋道満によって呪いを振りまく為に生み出された筈なのに、1人の少年を思える心がある。今回も虐待をしていた少年の親を殺さずに帰ってきている。洞窟の奥に封印されている頃からは、ほんの少しだけど良い方向に変わってきているのかも知れない。だけど、それは未練が薄れてきている事になる。もしソレが無くなったら。
『どうしたの?難しい顔して?』
「…千都世は私の側から…何でもない。取り敢えず、次の休みの日に一度、詩翠の訓練をしてみせましょうか」
私は聞けなかった。聞けばそれがまた千都世にとって未練になる。死ねば天に帰る。これはこの世の理で、それを曲げて現世に居座る事は本来ならいけない事。
その時がきたら私が手を貸そう。笑って送ろう。
『…やっぱり難しい顔してるわよ』
「産まれつきよ。それじゃ次の休みの日にね」
『分かった。伝えておくわ』
♢
土曜日。小学校の休みの日に、屋敷の裏庭に詩翠を呼び出し、先ずはどの程度、霊能力があるかの確認を始める事にした。
といっても最初から式神や除霊なんて出来る筈も無く、今は縁側に座禅させながら除霊に関する事教えている。
「先ずは除霊の際に使う経の言葉を覚えなさい。経文は仏や神の言葉で、その威信を借りて霊を払うの。その為には経文を間違えないように、霊を前にしても心を強く持ち、噛まずに読み切る練習からよ」
「はい!」
最初に言っておくと千都世の言う通り、才能は確かなものだった。霊能力が強い為、経文を読むと仏や神の威信を借りやすくなる。心の強さは千都世に手伝ってもらっているので、そんじょそこらの悪霊程度なら問題ない。問題は、経文を噛まずに読めない事だ。
「まぁ確かに私は小さい頃から読んでいるから慣れているけどね。先ずはゆっくり読む事から始めなさい」
「まか、はにゃ、みた」
般若心経から始めて読んでいるが、やっぱりたどたどしい。力はあるが最初のコレをクリアしてもらわないと派生を教えられない。千都世も詩翠の経の言葉には苦笑いをしている。
『まぁ気長にいきましょうね』
「…うん」
「甘やかさないで」
そこからは休みの日以外も暇さえあれば経文を読んだり、写経させたりと大分マシにはなってきた。
もう少ししたら実践をさせてみるのも良い経験かも知れない。
そうなると手頃な地縛霊か悪霊を探さないと。
しかし、この辺りに都合良く霊が居る訳もなく困っていたところ、タイミング良く田畑から連絡が届いた。
「お久しぶりです。その後はいかがですか?」
「お陰様で元気にやっています。詩翠も才能があるので、もう少ししたら払いをさせてみようかと思っているところです」
「おお!そうですか。でしたら1つ依頼を受けてみませんか?」
「依頼ですか?」
「ええ、政府が所有する土地や物件に憑いてるヤツや、不動産から秘密裏に頼まれている依頼も有りましてね。どうですか?依頼料も勿論支払いますので」
渡りに船とはこの事だ。二つ返事で了承して、依頼を受けた。幸いにも大阪市内に何件かあった。
報酬金も悪くない。詩翠のお小遣い稼ぎにも丁度良い。働いて稼いだお金は詩翠にとっても良い経験なるだろう。そうと決まれば日もまだ高いし、千都世と詩翠を連れて、実践経験を積ませる為に義彦に頼んで車を出してもらい、一行は目的の地に向かった。




