其の一九
ちょいシリアス。
由貴は悩んでいた。弁護士は田畑が派遣してくれるから良しとしていたが、家で雇う家政婦をどうしようと。普通に雇う事は出来るが、問題は家庭環境だ。
元ヤクザ、政府の役人、十二天将、元巫女、悪霊。
明らかに厄介事が多そうな面子。この事を黙って雇っても後で知られたら絶対辞められるし、仮に残っても口が固い人じゃないと色々とマズイ。
でも早く雇わないとテツの奥さんが病気でもしたら家は大打撃を受ける。
するとスマホが鳴り響き、出ると良く知る人物だった。
「もしもし、由貴ちゃん?元気ー?あんな、久しぶりに遊びに行ってええ?」
「良いですよ。何時ものメンバーですか?」
「そうそう。ほな直ぐ行くねー」
通話を切り、由貴は先程の雇用の条件を思い出す。
今から来る茜、奈美、沙織は適任ではないのかと。
由貴の事も知っているし、千都世の事も知っている。
後は元ヤクザと政府と十二天将をクリアすれば完璧ではないか!由貴は義彦と事前に相談していた雇用条件の書類を用意して、茜達が来るのを今か今かと待っていた。
「「「お邪魔しまーす!」」」
「待っていました。ささ、どうぞ座って下さい」
何時もより歓迎されているのに少し違和感を感じたが、由貴の有無を言わさない笑顔に三人は何故か座布団の上で正座をして待機した。
「来て早々に失礼なんですが、コレを見てもらえませんか?」
「ん?なになに…」
茜達は由貴から貰った書類を受け取り、書かれている内容を確認する。
家政婦のバイト。
時給3000円。1時間休憩。仕事内容。炊事洗濯、家事掃除。休日、自由指定。
仕事範囲。屋敷、弁護士事務所。屋敷及び弁護士事務所、由貴に関する情報の漏洩禁止。
この書類を見た奈美の瞳が光(かのように見えた)獣の如く俊敏さで由貴に近寄り肩を掴み、ガクガクと揺さぶり、息を荒くしていた。
「由貴ちゃん!ウチを雇て!」
「ひゃ、ひゃい」
奈美は茜達に取り押さえられたが、初めて人が怖いと思った由貴だった。茜や沙織にも家政婦のバイトはどうか聞くが2人は理由が有ってダメだった。
茜は家の飲食店の手伝い。沙織は今のバイトが気に入っているので辞めるつもりは無かった。
奈美はバイトはしているがゲーム、漫画、BL同人誌、グッズ集め、アニメ関連のBlu-rayと今のバイトでは余裕で足りない。そのおかげで何度か逃した物も多かった。そこで今回の家政婦のバイト件は奈美とって、まさに天啓だった。
「でしたら、今通っている学業の事も有りますので改めて後日相談しましょう」
「て言ーか、アンタ家事やら洗濯とか出来んの?」
「抜かりはない」
茜の疑問に奈美は不敵に笑っていた。鞄からスマホを取り出し、1枚の写メを皆んなに見せた。
そこに写っていたのはメイド服を着た奈美の姿だった。以外な事に奈美はメイド喫茶でバイトしており。指名でNo1を取るほど人気だった。
更には調理、接客まで完璧にこなした出来る子なのだ。その事に、茜、沙織はバイトをしている事は知っていたが、どんなバイトをしてるかまでは知らなかった。今では驚き、写メを食い入る様に見ていた。
「し、知らんかった」
「奈美にこんな隠された才能があったなんて」
「ふ。跪くがよい」
奈美は調子に乗っていたが、実力は確か。即採用となり、後で義彦に相談しに行く事が決まった。
バイトの話はこのぐらいして、この後もいつも通り、ただ楽しく喋って色んな話をして帰るのかと思っていたが、今日は違った。
「せや、由貴ちゃん。実は相談があってな、ウチの友達がもしかしたら憑かれとうかも知れんのよ。一回見たってくれへん?」
茜からの頼み事だったので、話を詳しく聞く事にした。問題となっている、彼女は同性から見ても可愛く、凄く人気者で、人柄も良く、何一つ問題無いように見えた。しかしおかしな事が一つ有る。
彼女の周りの人はいつも何かしらの不幸が有る。
小さな出来事では、物を無くしたり、健康な人が急に熱が出たり。大きなものでは事故に遭ったりと彼女の周りでは良くある。だけど誰1人として、その事を不気味に思ったり、彼女から離れたりしようとしない。
茜もその1人なのだが、最近になって急に違和感を感じる様になって、由貴に相談する事を決めたそうだ。
「話を聞く限りでは只の偶然にも思えますが…写真とか有りますか?」
「有るよ」
茜はスマホの写メを由貴に見せた。一般的に見ても、写っているのは、何処にでも有る様なものだった。
茜も只、違和感を感じただけで何か見た訳でも無かった。要は話のタネとして、そしてこの違和感を由貴に発色してもらいたいだけだったのだが、その期待は裏切られた。写メを見ていた由貴の眉間に皺が寄る。
「神憑ですか…また厄介なのに目を付けられましたね、この人」
「カミツキ?え?マジで何か憑いとるん?」
「ええ。後1週間もすれば、この人死にますよ」
由貴から告げられた宣告に茜達は言葉を失う。
茜は昨日も彼女と学校で会い、たわいも無い話をしていたのを覚えている。何処か体調が悪そうにも見えなかったし、元気そうだった。だけども目の前にいる少女はこの手の冗談を言うタイプでは無い。
額に流れる汗を拭い、茜は息を飲んで口を開いた。
「ほ、ホンマなん?」
「はい。この手の奴は気に入った者は自分の物にしたいのです。ですから邪魔な肉体から魂を取り出し、大事に連れ去るのですよ」
「そんな訳ないやろ!クソ女!嘘ばっか言いやがって何様のつもりや!」
「ちょ!?茜!?」
「あんた急にどないしたん!?」
突然の茜の激昂に黙って話を聞いていた奈美と沙織は驚き、間に入り落ち着けと抑え、宥めようとするも一向に止まる気配が無い。それどころか由貴を親の仇を見るような目で今にも襲い掛かろうとしていた。
由貴は正座の状態を崩さず、ただジッと茜を見ていただけだった。
「何見とんじゃ!?いけ好かん餓鬼が、喰い殺すぞ!」
「ちょっと茜!ホンマにどないしたんよ!」
「ちょい落ち着いてぇや!」
3人が叫んでいる中。部屋にパンッ!と響く音に喚きあっていた3人が急に黙り、音の方へと振り返る。
そこには由貴が両手を合わせてジッと茜達を見ていた。
「もう心配ありませんよ」
奈美と沙織は兎も角。騒いでいた茜さえも静かになり、ボーッとしている。
奈美にポンポンと肩を叩かれて漸く自分がさっきまでしていた事思い出し、何故自分があんな事をしたのか、訳が分からなくなっていたが、由貴から座って下さいと言われ、3人は座布団に座る。
「えっと、由貴ちゃんゴメン。何か急にイライラして、自分でも抑えられへんようになってもて」
「茜さんのせいでは有りませんよ。これが神憑の厄介なところでしてね。その前にお茶でも入れましょうか。千都世、見ててね」
『任せなさい』
それから由貴が盆に湯呑み茶碗を乗せ、お茶を茜達に配り、先程事なんてなかったかのように由貴はお茶飲む。釣られて3人もお茶を飲み、昂ぶっていた神経が落ち着いていくのが実感できた。
「さて、それでは説明しましょうか」
落ち着いた3人を見計らい。由貴は物語を読み聞かせる様に語り始めた。
今回、彼女に憑いているのは俗に言う神様で、彼女は何らかの理由で気に入られあの世に連れて行かれそうになっている。
彼女の周りに人が絶えないのは、神が彼女に対して貢物を渡しているだけ。しかし生贄にしてる訳では無く、その人が持つ運を剥ぎ取り、彼女に渡している。
だから運悪く怪我をしたり不幸が続く。
他の人が気がつかなかったのに茜だけが違和感を覚えたのは、たぶん私と千都世のせい。
茜さんもターゲットにしていたが、私と千都世の気と霊気で跳ね除けられたんだと思う、との事。
茜が急に変貌したのは呪いの一種で、自分を探る者と仲違いさせて絶対辿り着かないようにしている。
「長くなりましたが、こんなとこですかね」
由貴の説明が終わり、茜達は絶句していた。
正直言って霊の事を舐めていた。それは由貴が民宿で簡単そうに霊を退治し、千都世という霊の声が聞こえ、心の何処かで何とかなると思っていた。
「一度、その方に連絡を取って下さい。取れるといいのだけど」
由貴に言われるがまま電話をかけるも、一向に繋がらない。それでも何度もしつこく電話をすると、漸く繋がった。
「あ!もしもし!?瞳、今どーーー」
【邪魔をするな。殺すぞ】
電話に出たのはノイズが入った男性の声だった。
茜は突然の事でビックリしてスマホを落とした。
そのままスマホはスピーカーの状態になり、男の声が部屋に響く。
【何処の誰かは知らぬが、儂に構うな。この女は儂が貰う。神事として、諦めよ】
その言葉が最後にスマホの画面は真っ暗になった後、爆ぜるように壊れた。
部屋は静寂に包まれ、茜達の顔色は悪かった。
由貴は立ち上がり、茜に彼女の家に案内するように言った。
「分かった。直ぐに案内するわ」
「お願いします。それと奈美さんと沙織さんは今日は帰って下さい。何が起こるか分からないので」
「せやな。ウチら居っても何も出来んし」
「うん。また終わったら連絡頂戴な?」
奈美や沙織には悪いが帰ってもらった。その後に義彦に断りを入れてからテツに車を出してもらい、茜の案内で例の彼女の家に向かう。
車内で茜から彼女に関する事を再度詳しく聞き、神憑に合うような人では無いと思った。
神木を切り倒したりでもしないと、アレ程の神は憑か無い筈だが、と考えていると家に到着した。
「…逃げたわね」
「え?」
「この家にはもう居ません。ですが、彼女ご両親から彼女が身に付けている物を貰いに行きましょうか」
インターホンを鳴らし、茜とは面識があったので直ぐに母親が出てくる。母親を見ると所々に小さな傷や痣が見える。明らかな影響を受けている。
茜から母親に大事な話があると言って中に入れてもらった。
「ゴメンね茜ちゃん。瞳ったら急に出かけて今は居ないのよ。それで隣の子は初めてね」
「はい。御子神 由貴と言います」
「瞳の母です、よろしくね。それにしても綺麗な子ね。お人形さんみたいだわ」
「ほんで瞳ママ、大事な話やねんけど…」
「あら、ごめんなさい。話逸らしちゃったわね」
「実はーーー」
母親には有りの侭、事実を伝えた。だが、当然というか、やはりというか。母親はこの話を信じていなかった。千都世を見せる手もあるが、今は見せるべきでは無い。姿を現せば邪気が漏れ出て、今影響を受けて弱っている母親にどんな影響が有るか分からない。
それならばと、瞳が普段から身に付けている物を貸してくれと頼み、髪留めを借りて家を後にした。
「今日は無理言ってすみません。近いうちまたお伺いさせていただきたいのですが、よろしいですか?」
「ええ。遊びに来るのは歓迎するわ。ただ、やっぱり幽霊だとかは見た事ないから…」
「いえ、いいんです。それが当たり前なんですから。それでは」
車に乗り、屋敷へと帰る。今回は神憑。それなりの準備をしてから、向かいますか、と髪留めを握りしめ、千里眼で位置を探していた。すると意外な所から反応が有った。
「どうやった?瞳の居場所分かった?」
俯瞰から瞳を見ていると彼女と目が合い、直ぐ様千里眼を解くと、持っていた髪留めが弾けた。
千里眼越しに目を潰そうとしたのを感じ取り、明らかな殺意を持っていた。
「ええ、分かりましたよ。神とは言え、随分と舐めた事してくれてますね」
由貴の目には少女らしからぬ鋭い目付きで今向かっている屋敷を遠く睨んでいた。
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