其の十一
昨日は初めて買い物に楽しいのは楽しかったのだが、何か買うたびに店員さんが喜び、後ろから付いてくる知らない人達から歓声が上がる。
大阪の人達は皆んなあんな感じなのだろうかと、更に由貴の中で大阪人の変なイメージが固定されてしまった。
それはさて置き、由貴と千都世はとうとう此処ら一体の売人の掃除が終わってしまい、次のプランに移す事にした。
メイドに頼んで、フロントに電話をかけてもらい、タクシーを呼んでもらった。
とある場所に行くつもりなのでメイドや執事は付けずにタクシーに乗り込む。
「何処に行きますか?」
「そうですね。〇〇組って分かりますか?」
「へっ?」
「分かりませんか?…そうですね、指定暴力団の〇〇組なんですけど分かりますか?」
「ほ、本当にそこでよろしいので?」
「はい」
タクシーの運転手はまさか少女の口から〇〇組の名前が出るとは思わず、一体何者なんだろうと思いながらも仕事なので車を走らせた。
「つ、着きました」
「ありがとうございます。お釣りは結構ですので」
由貴は料金を支払い看板にデカデカと〇〇組と書かれていた。余り知られていないがヤクザの事務所の名前はカモフラージュとかで名前を変えてると思われがちだが、事務所を構える時には既にヤクザと警察関係にはバレており、殆どは〇〇組と看板を出している。
稀に○○興業などの企業名にさせている組もあるが、商売上も都合良く利用しようという思惑がある為だ。
閑話休題。
階段を登り、扉を開けると如何にもな人達が視線を向けてくる。気の弱い人なら腰を抜かすような光景だが生憎と由貴には核弾頭より恐ろしい相棒がいるので、この程度では眉一つ動かさない。
「お嬢ちゃん。何しに来たんや?此処はお嬢ちゃんが来るとかやないで」
スキンヘッドで柄物の派手なシャツを着た厳しい顔の男が眉間に皺を寄せて向かってくる。
由貴は目線を一度も逸らさずに平然とした態度で男に質問した。
「いえ、合ってます。それより此処で1番偉い人は誰ですか?」
「あ?何やお前。兄貴の知り合いか?」
「違います。最近消えてる売人の事で話があるので来たのですが、居ないのですか?」
「どう言うこっちゃ?お前何か知っとんか?」
スキンヘッドとは別の髪をオールバックにした男が奥から出てきた。
「貴方が組長という人ですか?」
「おう。それで何を知っとんねん?」
「千都世」
男は由貴が何かをボソボソと呟いたいたので、眉をひそめて脅しの一言でも言ってやろうと思っていたら、事務所内が妙に静かになったのに気づいた。
周りを見るとスキンヘッドを含めて机や床に全員伏していた。
「…何じゃこれ?」
「では交渉の時間です。どうぞ座って下さい」
由貴を見るといつの間にか椅子に座り、男を椅子に座るようにと手で促していた。
流れる汗を拭い、椅子に座らず由貴側に立ち、胸ぐらを掴もうと手を伸ばすと
『先ずは座りなさい』
「うおお!?」
何処からか声が響き、同時に身体が浮くほどの衝撃が襲い、吹き飛ばされる。
椅子の上に落ち、不恰好な体制のまま何が起きたのか理解できず、行きだけが荒くなっていた。
「それでは私が出す条件は、薬の販売の禁止。善良な市民を騙して金を毟り取るのも禁止です。最後に私の仮の親になってもらいます」
男は無茶苦茶な条件にキレて殴りかかりたい気持ちはあるが、今までの経験と勘、そして今の状況で由貴に逆らうのは得策とは思わない。色々と言いたい事を飲み込んで、なるべく落ち着いた声色で話し始めた。
「な、何を言うとんねん。そもそも俺らの組はクスリはやっとらん。せやけど他を辞めたら俺ら食いっぱぐれてまうわ」
「では死にますか?」
モデルように可愛らしく美しい少女の口からは物騒な言葉が飛び出た。本来は子供の言う事と笑い飛ばせるのだが、この目を見ると、とても冗談には思えなかった。
「何て目ぇしやがる。お前何人か殺してるだろ?人殺してムショに行った本家の人間と同じ目ぇしとるわ」
「そうですね。10や20では効かないぐらいには殺してますね」
『まぁ実際は私が殺してるんだけどね〜』
「私も了承してるので同罪ですよ」
「この声…もう1人は何処に居んねん?」
意外な事に男には弱いが霊感があったようだ。
事務所に響く千都世の声に何とか震えないように身体を抑えているが、それでも震えは止まらない。
千都世は面白がって由貴の隣に姿を現した。
その光景に男は震えを隠すことが出来ず水をかけられたかのように大量の汗を流していた。
『はじめまして』
「彼女は俗に言う悪霊ですが気にしなくてもいいですよ」
男は喋れるなら巫山戯るな!と叫びたいのだが、震えて声を出せない。その上、目を固定されたみたいに瞬きも出来ず、1秒すら目をそらす事も出来なかった。
「どうやら話が出来そうにないですね。千都世、もう気が済んだでしょ?」
『しょうがないわね』
千都世はそう言うと姿を消した。その瞬間、男は全力疾走した人のように慌てて深呼吸を繰り返していた。
男の呼吸が落ち着くのを待って、漸く落ち着きを取り戻した男が化物を見るかのように由貴を見ていた。
「それで、どうします?」
「分かった。条件を飲む。せやけど俺らはこれからどないしたらええねん?組ちゅうもんわ簡単に抜かれるもんとちゃうねんぞ?しかも今回は俺らのシマで、売人の件で下手うっとる。せやから間違いなく此処に居る者は指つめるだけでは済まんぞ」
「それに関しては安心して下さい。時期に〇〇組は終わりますので」
男は息を吐き、椅子に深く腰掛けた。この女なら…いや、あの化物なら出来る。そう思い〇〇組の終わりを感じ、覚悟を決めた。男は椅子から立ち上がり、由貴の前で土下座をした。
「そうか…なぁ?アンタ、ワシらを雇わんか?此処に居る者全員が今更社会に出て行けん者ばっかりや。アンタの言うことなら何でもしたる。せやからワシらの面倒みたってくれ」
「…どうする?」
『そんな事言って、どうせ決まってる癖に』
千都世は由貴の上で逆さになりながらクスクスと笑っている。
相手が悪のままなら話は簡単なのだが、仲間を思い頭を下げている男を見て、邪悪な心の気を感じなかった。更生の余地があるならばと思い、とある提案を出した。
「分かりました。ではコレを使って人の為になるような仕事をしてみなさい」
由貴はそう言って鞄から今まで売人から集めた総額1000万の内、半分を男に渡した。
目の前に出された500万に驚いたがコレだけ有れば苦しいがツテをフルに使って何とか立て直せると確信した。
「ええんか?もしこの金持って逃げたらどないすんねん?」
『試してみる?』
「…辞めとくわ。命がなんぼ有っても足らんわ」
『残念』
男は金を机の上に置くと再び頭を下げて名乗りを上げた。
「これからお世話になります!東城 義彦と言います。この命、お嬢に預けます!」
さっきと打って変わり、由貴から見ても綺麗な所作に目を開いた。
コレはもしかしたら良い拾い物をしたのかも口角が少し上がり、由貴も男に習って名を名乗った。
「よろしく義彦。私の名前は御子神 由貴。私に着き正しい心を持つ限り私は貴方達を守ります」
『千都世よ。私の事はもう言わなくてもいいわね?』
「はい!誠心誠意、頑張らせていただきます!」
「では私は〇〇ホテルに居ますので、他の人達はどうするか決まったら此処に来てください」
「分かりました」
こうして由貴は元暴力団の組を後にした。由貴が出て行った後、他の組員達は目を覚まし、床に大の字で寝転がっている義彦を見て駆け寄る。
「どないしたんですか兄貴!?」
「あんなぁ…俺組から足洗うわ。ある人に付いていく事に決めたからよぉ。お前らは俺と来るなり他の組に行くなり好きせえ。そん時は他の組に口きいたるさかい」
本家の〇〇組の中でも下っ端の小さな組。組員の数は僅か5人。組員達は急に組を辞めると言った義彦の言葉に戸惑ったが皆が口を揃えて義彦に言った。
「そんな事言わんで下さい。俺ら兄貴に憧れて組入ったんです。兄貴が他所行くなら俺らも付いて行きますさかい」
「ほうか…アホやの〜」
組を、抜けると言う事は、そんなに甘くない。それを知らない奴らでは無いと知っているが、それでも自分に付いて来てくれると言うのだから、義彦は目頭が熱くなり誤魔化すように大声を出して移動の準備を急がす。
「それで兄貴。今度は何処に行くんですか?」
「あ〜、それな。…滅茶苦茶怖い女の子ん所や」
「「「何ですか?それ」」」
「ええから早よせい!そんなもん会ったら嫌でも分かるわい!」
数日後。本部に連絡一つ寄越さないので、痺れを切らした本部の組員が事務所に行くと、そこには組から机一つ残らず、部屋の中心に置き手紙が有り、その内容は僅か一行で【辞めます】と書かれており、本部への上納金までもが無くなっていた。
「な、舐めくさりやがって〜」
この事は直ぐに本部に報告され、各組に義彦らの破門通告をしたのち、義彦らを草の根分けてでも探し出すように命令が下ったのだが、義彦らまで後一歩という所で不思議な事に事故や怪我をする組員が続出し、いつまで経っても義彦らに辿り着く組員は誰一人としていなかった。
「う〜ん。なかなか忙しいですね」
『上に立つ者の使命よ。もう少ししたら連中も諦めるわ』
一方で義彦達は新しい仕事として弁護士事務所を開業した。意外な事に義彦は所謂インテリヤクザと言われ、ヤクザの時に弁護士の資格を取っていた。
「意外でした」
『人は見かけによらないわね〜』
「お嬢のおかげで真っ当な仕事に就けるからには、コレしか無いと思いまして。これからも宜しくお願いします」
「「「お願いします!」」」
それから他の組員達は慣れない事務仕事や電話対応して義彦に怒られながらも日々、忙しそうに働いているが、皆楽しそうに笑みを浮かべいた。
今では地元で噂になり、全員強面だが、親切な対応と破格の値段で弁護してくれると口コミが広がり、今では大手の弁護士事務所にも負けない程に有名になり、ヤクザの頃とは比べ物にならない程儲けていた。
「兄貴〜」
「兄貴言うな言うとるやろ。何や?」
「俺今メッチャ今の仕事楽しいですわ」
「俺も…会長の由貴さんはちょっと何か怖いけど優しいし、親にマトモな仕事しとるって胸張って言えますしね」
「俺も昔の女房が戻ってきてくれたし、やっぱ兄貴に付いて来て良かったッスわ」
「……アホ言うとらんと仕事せえ」
義彦は組員…現在は部下の真っ直ぐな言葉に目頭が熱くなり、誤魔化す為に用もないのに棚を掃除し始めた。
「兄貴もしかして泣いてます!?」
「うあ、鬼の目にも涙や」
しかし長い付き合いの部下には直ぐにバレて義彦の怒号が飛んだのが、響いたのは笑い声だけだった。
ヤクザ「義彦までもうちょいや!」
千都世「(」・ω・)」うー!(/・ω・)/にゃー!」
ヤクザ「ぎゃああああ!!」




