其の十
「売りに行ってる者が帰ってけぇへんってどないなっとんのじゃ!?」
「す、すいやせん」
「頭下げる暇があったら早よ探して来いや!」
「「「へ、へい!」」」
あの後、売人から新しい情報を手に入れる度に次々と街中を回って売人を千都世が消していき、裏社会は今や大パニックに陥っていた。
そして現在。
千都世と由貴の活躍により、現在手元にあるお金は御子神家から持ってきたのと合わせると500万円を超えた。教科書を入れてない学校鞄は今や金の重みで持ち歩くのが大変になっていた。
「お、重たい」
これを期に、そろそろ学生服を卒業して私服とお金を持ち運ぶ財布と鞄を買わなければと思った。
現在泊まっているホテルでは、最初は大人から見ると子供1人で宿泊するのは怪しいと思われたのだが前払いで100万をポンっと出すと何処かの金持ちのお嬢様と勘違いしたのか。
「しょ、少々お待ちください!」
受付マンは走ってスタッフルームに入ると、他とは違う地位が高そうな支配人が手揉みをしながら部屋へと案内してくれた。
「こちらになります」
支配人は自信満々に部屋のドアを開けると、かなり良い部屋のか、壁一面の窓から市街を見渡す標準客室は都会的で落ち着いた雰囲気。
ワイドサイズの2人用ベッド1台の客室が有り、Wi-Fi、薄型テレビ、冷蔵庫、エスプレッソマシーン。
加えて、キッチン+リビングルーム+漆塗りのバスタブ付きの浴室まであり、その値段は一泊5万円と、庶民からすれば、かなり高めだが金銭感覚を知らない由貴は部屋を見て呟いた。
「ふ〜ん。これくらいが普通なのかしら?」
『そうじゃないかしら?』
(な、何ですと!?)
特に意味を持って言った訳ではなかったのだが、支配人の耳に入り、ホテル自慢のこの部屋見て普通と言う由貴をかなりのお嬢様と勘違いし、スタッフに決して失礼が無いようにと厳命した。
それが拍車をかけてスタッフ同士で根も葉もない噂が広まり、由貴専属のメイドまで着くようになってしまった。
「君に我がホテルの命運がかかっている。くれぐれも失礼の無いように」
「わ、分かりました」
しかしこれで終わりでは無かった。
御子神家では由貴専属のメイドは居なかったが女中は大勢いたので由貴は違和感なくメイドを受け入れてしまった。
次の日にメイドに対して由貴は何の意図もなく質問をした。
「すみません」
「は、はい御用でしようか?由貴様」
「服を買いに行きたいのですが、今まで服を買った事が無くて良ければアドバイスを頂きたいのですが…」
(ふ、服を自分で買った事がないですって!?どんだけお嬢様何ですか!!)
「はい、私で良ければお付合いさせていただきます。予算は如何程に?」
「これだけ有れば足りますか?」
由貴は鞄からバサバサと束になった500万円を机に出すとメイドは固まり、あまりの出来事に悪い方向に考えてしまい、この子がその気になればいつでも自分の首を社会的にも物理的にも飛ばせると思い込んだ。
「うーん」
そしてオーバーヒートして姿勢を正したまま後ろへ倒れんこんだ。
「だ、大丈夫ですか!?」
慌てて部屋にある電話でスタッフを呼び、倒れたメイドと由貴を見て勘違いは更に加速する。
後日。メイドから事情を聞き、支配人と副支配人、チーフスタッフが謝罪に来た。
「この度はスタッフがご迷惑をおけして申し訳ありませんでした」
三人は長年接客業に携わるだけあって丁寧な対応で頭を下げて謝罪した。由貴も倒れたメイドにらビックリしたがそれ程迷惑をかけられていないので謝罪を受け取り、気にしていない事を伝える為に口を開こうとした瞬間。
『あっ』
千都世が朝日を浴びて、気が抜け、ほんの一瞬だけ少しの邪気が漏れてしまった。
「私は気にしていませんので、今まで通りにした下さい」
由貴は言った内容はごくごく普通の言葉だったのだが、タイミング悪く千都世の邪気と合わさり、支配人の耳にはこう聞こえた。
【気にすら価値すらもう無いわ。今まで通りに行くとは思わない事ね】
支配人達はかつて感じた事の無い圧を少々から感じ、冷や汗を流し、身震いまでしてしまった。
(((か、かなり御怒りだ〜!!))」
かつて此処には御忍びで有名な芸能人や政治家も泊まり、此処にいる支配人達はその猛者を相手取ってきたエリートだったのだが、今では初めて接客したかの様に言葉が出なくなってしまった。
(な、何故だ。何故こうなってしまった…)
そのな事とはつゆ知らず、由貴は買い物に行くために、そろそろ出掛ける準備をしないと、と立ち上がると支配人達に出かける有無を伝えたい。
「あの、私はそろそろ出て行くので。謝罪は確かに受け取りましたので」
しかし残留した千都世の邪気がまだ残っており、支配人の耳にはこう聞こえた。
【こんなホテルもう出て行くわ。貴方達の謝罪は、た・し・か・に、受け取ったわ】
このままではこのホテルは潰される。そう思い支配人は由貴前で土下座し、ホテルと従業員を守る為に心からの謝罪をした。
「どうか、お待ち下さい!この度の責任は全て私に有ります!スタッフは関係ないのです!宿泊の料金はいりません!気の済むまでいつまでもお泊り下さいませ。ですがどうか、私の首で手を打って頂けませんか!?」
支配人の迫真の土下座+謝罪に副支配人とチーフは涙を流し、支配人〜!とスポ根漫画のように叫んでいる。由貴は何が起こったのか理解も出来ず、取り敢えず頭を下げている支配人の手を取り言った。
「確かに、謝罪は受け取りましたので頭を上げて下さい。倒れたメイドの方も気にせずもう一度私の世話をお願いしたいくらいです」
この時、由貴は千都世の邪気が少し漏れている事に気づき、支配人達が邪気に当てられないよ浄化の印を結んで浄化した。
浄化の気は澄み渡る空の如く清らかで、神聖な気を含んでいる。
それを由貴越しに見た支配人達の目には由貴に後光が差し、観音様のようにに映った。
小さい頃に犯したイタズラや親と喧嘩別れした事を思い出し、それを全て赦されたかの様な温かく包み込まれる母の抱擁の如く安らぎに、後ろにいた副支配人とチーフも膝をつき手を合わせた。
「「「私は…赦された」」」
「えぇ…」
『何故か信仰されてるわね』
結局、狂信者の支配人が提示した提案を(無理矢理受け取らされ)受け取り、料金がタダで高級ホテルに泊まり放題となった。
取り敢えず、暫くは寝床に困らなくなったので良しとしたが、ホテル内で支配人達と会う度、ギラギラした目で手を合わせられるのは流石の由貴も少し恐怖し、都会は変わってるという偏見が由貴と千都世の中に刻まれた。
♢
数日してから例のメイドが職場復帰し、改めて由貴の専属メイドとなった。
これは本人の意思で「私以外にあの人の相手は務まらない」と支配人に直訴し、もう何が起きても由貴様だからと強い心を手に入れていた。
「それでは、前に言っていた服を買いに行きましょうか」
「かしこまりました。お伴します」
エレベーターでホールまで降り、ホテルから出るとリムジンが用意されており、専属ドライバーが扉を開けてくれた。
(サービス業界は進化しているのですね)
由貴の勘違いのままにドライバーが行き先を訪ねてきた。由貴はメイドを見るとメイドは頷いた。
とは言ったものの。メイドは自体は普通の従業員なのでお嬢様が買うような服など知らず、取り敢えず服を専門にしている大型ショッピングモールに由貴を案内する事に決めた。
揺れの少ない快適な移動から数十分後に大型ショッピングモールに着いた。
一般客は突如として現れたリムジンに驚き、足を止め車から出てくる人物を待っていた。
最初に出てきたのはドライバーで、小走りで後方のドアまで行き、ドアを開いた。
「「「おお!」」」
すると中から本物のメイドがて出来て周りの野次馬、特に男達が騒ぎ出した。
メイドは開いたドア横に立ち、中に向かって手を差し出し、その手を掴んでモデルのような少女が出てきた。
するとリムジンの助手席いた従業員が運転席へと移動し、駐車場に停めにいく。
「それでは由貴様、こちらでございます」
由貴の横にメイドが立ち、由貴を案内する。後ろではドライバーが荷物持ちとして付き従う姿に一般客は自分の買い物を放って、謎のお金持ちが何を買うか興味津々でついていった。
とあるレディースショップの女性店員は店前で客引きをしていたのだが、ある違和感を感じる。
店前にいるお客が皆んな足を止めて、ある一点を見つめている。
店員も目線を追ってみるとメイド服と執事服を着た二人が間にいる少女を案内していた。
「な、なんだあれ…」
すると、見るからにお金持ちの一行が自分の店に近づいてくるではないか。
「由貴様。このお店は如何ですか?」
メイドが立ち止まり、自分の店を指差す。
「そうですね。では先ずは此処から見ていきますか」
「かしこまりました」
メイドそう言うと女性店員に近づき店の案内とコーディネートを頼まれた。
「店で1番良い物を由貴様にコーディネートした下さい」
「は、はひ。それでは、ど、どうぞ」
店員はすぐさまに手が空いている他の店員に指示を出し、由貴1人に数人の店員が付いていた。
「そ、それで、本日のご予算は?」
「取り敢えず、他にも見て回りたいので…これくらいでしょうか」
由貴はメイドが持っている鞄から無造作に札束を取り出し、店員に渡す。
これにより数人の店員が急用がと逃げていき、渡された札束の重さに涙を浮かべていた。
(帰りたい…)
この後も同じように店を周り、数々の店員の心を折り、増えていく荷物を執事はフラつきながら待ち続けた。
この日。由貴が服を買うだけに使った額は100万を超えて伝説になった。
後日。この事は由貴に付いてきた客の1人がSNSで〔ショッピングモールでリアルお嬢様現る〕とメイドと大荷物を持ってフラつく執事。それからモデル並みに可愛いお嬢様が写され、話題となった。
しかし、一部の人から
お嬢様の後ろ何かいる
これって…
ガチやん
と心霊写真だとオカルト板やSNSで再度盛り上がりを見せた。
支配人「そこの君!今の生活に満足しているかい?心は満たされているかい?何方もないそんな君は由貴教に入る事をお勧めするよ!崇めるだけで運気上昇、御利益間違いなし!さあココに名前を書くだけだよ!さあ!」
カピバラン「由貴教万歳!」洗脳済み




