【飛べない翼−1】
『静寂』の夢を見た。
何所までも昏く、静かで、砕けた硝子の破片だけが、色とりどりに煌めいている。
·······あぁ、静かだな。
此の空間では、身体を動かす事が出来ない所為で、何も出来ない。
けれど誰にも干渉されず、批評される事のない此の空間は、酷く心地が良い。
······此のまま、消えて居なくなれたら。
ーーー其れはどれだけ、幸せな事なのだろうか。
❅
目を覚ますと、其処には、ライトグレーの天井が在った。
「·········。」
眠ぃ·····
私はまだ覚醒しきっていない目を擦りながら、のそのそとベッドから這い出る。
此処は、黒瀬さん達が拠点としている雑居ビルの仮眠室。
内装は改装された痕跡がなく、白い壁と天井に、薄紫のカーペットといたってシンプルである。
あの後私は、2人のご厚意に甘えるカタチで色々教えて貰える事になった。
黒瀬さんも意外に親切で、面倒くさそうな表情をしながらも、私の事を気に掛けてくれている。
須賀さんに対しては少々手荒いが···
兎に角、悪い人ではない。
「······何で、わざわざそんな事するんだか。」
本当に不思議だ。
見ず知らずの私に情報を与え、宿を貸すなど、少し疑ってしまう程有り得ない。
私だったら適当にあしらって終わりだと思う。確実に。
此の考え方は、私が間違っているのだろうか。
私が、思いやりのない人間だからなのだろうか。
よく周りから言われる。「お前には情緒が無い」と。
確かに、そうかもしれない。
けれど、何かするフリだけして、結局自分が大事な奴らよりかは、余程いいのではないか?
······私は他人がよく解らない。
何を思い、何がしたいのか。
「······解りたいとも、思わない。」
考えるだけ無駄だ。
今は、あの2人から情報を吸収して、周りを安定させる事に集中しよう。
時刻は午前6時半。
起きるには少し早いだろうか?
まぁ、静かにしていれば問題ないだろう。
髪を整え、仮眠室を後にする。
ーーー夢の中の静寂が、まだ脳裏にこびり付いていた。