【鬼籍に入る−3】
黒いセーラー服に付いた灰(?)を落とし、喫茶店の扉を開ける。
カランカランッ…
扉を開けると同時に、珈琲の香りが鼻腔をくすぐった。
色は褪せても、匂いは健在なのだろうか?
店内は静かで、やはり黒い影達で溢れかえっている。
人は、見当たらない。
······っていうかそもそも、会話出来ないなら飲み物注文出来ないのではないか。
真逆の盲点。
スクールバッグに財布はちゃんと入ってるから、大丈夫だと失念していた。
「·····どうしよ。」
諦めて外に出ようか。
しかし、だからといって行く所は無い。
古書店に戻って時間潰すか?
いや、時間を潰すといっても潰したところで何かが変わるワケではないし、無意味だ。
なら····?
辺りを見渡しながら、これからの事を考え始める。
キョロキョロしてみたはいいけど、特に何も無ーーー?
「ーーー!!」
今迄平坦だった心が、少しだけ跳ねた。
店内の奥、3列目の右に『人』が居た。
其の『人』はミルクティー色の髪を後ろに束ね、カップを傾けながら角砂糖を積み上げている目の細い青年であった。
·······服装からして、医者だろうか?
ヨレた白衣を纏った青年は、何処か楽しそうに角砂糖を持て遊び、時間を潰している。
「人、居たんだ····」
少し感動。
此のまま、無意味な散策を続けるしかないと思ってた。
少し雰囲気が怪しいが、取り敢えず接触。
何か有益な情報が得られるかもしれない。
影を躱しながら、青年の座る席へと向かって行く。
「·····影、邪魔」
ホントに、何なのだろうかこの影は。
ホラゲーの如く襲い掛かってこないだけまだマシだと思うのだけど、流石にそれだけ居ると邪魔だ。
······燃やしてしまいたい。
なんて。
疲れと影に対する小さなイライラの所為で、そんな過激な考えが頭を過ぎる。
大丈夫、実行する事はまず無い。
1列目を抜けてから、チラリと青年を確認する。
「「···········」」
あ。
ヤバい、バッチリ目が合った。
青年の目は細く、瞳の動きを確認する事は出来ないが、確実に目が合ったと思う。
地味に気不味い。
ガタリッ…
「!!」
!?
さっき迄角砂糖を積み上げていた青年が、突如席を立った。
帰る、とか·····?
其れとも?
恐る恐る、咄嗟に逸らした視線を青年に戻す。
·······後ろ?
青年の向く方にあったのは、私では無く、後方の入口付近。
何が·····?
「あ~、もぅ遅いよ貴仁君!ほら見て、君を待ってる間に角砂糖がこんなになっちゃったんだよ?」
タカヒト君·····?
知らない名前。つまりは、もう1人ーーー
「····煩ぇ、時間ピッタリだろうが。」
居た。
そっと後ろを振り返る。
其処に居たのは、黒いマフィア風の男であった。
何処か威圧的な其の出で立ちに、背筋に汗が伝う。
何だか、とても声がかけ辛い。