【ーーー3】
夜深が縫いぐるみを取るのに苦戦している頃、ヘレナは1人、木の葉を散らす桜並木の下を歩いていた。
「·······」
ヘレナが此処、『桜泉町』に来ている目的。其れは、偵察の為である。
前回の廃工場の1件で。
其れ以降、新参の夜深を現世に行かせるのが躊躇われるようになった。
何故なら、死穢の変異率が上昇しているのに加えて、其の変異体が強くなってきているからである。
こうなると、夜深が変異体と遭遇する可能性が高くなってくる。
ヘレナ達古参者は、態と変異が起きやすい場所を選んだりもするが、夜深の場合は違う。
極力避けるべきモノだ。
小さいモノなら構わないが、前回のような相手だった場合はかなり宜しくない。
いくら死なないからといって、死穢の変異体に喰らわれてしまってはどうなるのか分からない為、強い変異体との交戦は避けるべきだ。
今迄は、其の様な事を考えていなかった黒瀬・須賀・ヘレナの3人だが、夜深が現れてからはそうも行かなくなった。
夜深はまだ翼が上手く扱えず、体術も状況判断能力も未熟だ。
おいそれと現世に行かせる事は出来ない。
しかし、死穢を回収するという役目を全うしなければ、強制送召されてしまう。
そうなってしまえば、もうヘレナたちが介入する事は出来ない。
だから、
「····そうなる前に、早く変異の恐れが無いような場所を、探さなくっちゃね♪」
此の街は、比較的死穢の濃度が薄く、変異の危険性はなさそうだ。
面倒な作業になるが、街を歩き回って街の死穢を回収し続けていれば、当分強制送召される事は無いだろう。
「此処なら、夜深ちゃん1人でも大丈夫そうね。」
因みに、ヘレナが偵察に着たもう1つの理由が、
大人が初めから色々手を出してしまうと、夜深が成長しないので、比較的安全なところから初めて、自立に備えるというモノである。
少し早い気もするが、夜深自身も早めの自立を望んでいるようだったし、丁度いいだろう。
しかし、
「···心配よねぇ。女の子を1人で歩かせるなんて。」
心配だというのもまた事実。
いくら自立の為とはいえ、齢15の女の子を1人死穢の除去に行かせるのは気が進まない。
同じ女であるヘレナにとって、彼女を心配に思う気持ちは、他の2人よりも強かった。
もし、迷子になってしまったら。
もし、大怪我をしてしまったら。
繰り返すが、まだ15の子供なのだ。
大人のヘレナ達とは違う。
「でも、」
心配ばかりしていても仕方がない。
いずれ来る事が、少し前倒しになっただけだ。
何もない事を祈ろう。