【鬼籍に入る−2】
色褪せた風景。
行き交う虚ろな影。
そして、其の間を舞う白い砂。
聞こえる音は風の声のみで、とても静かだけれど、影達で混み合った此の街は、余り落ち着く事が出来ない。
·····あぁ、あの静寂が恋しい。
私は人混み(?)に揉まれながら、脳裏に暗い静寂を描く。
誰もおらず、何も聴こえないあの空間は、私にとって限りなく理想に近い空間であった。
···其れにしても。
此の白い砂は何所から来てるんだろう?
宙を舞い、街のいたる所に積もる砂は、まるで灰の様だ。
砂浜なんて、此の街には無かった筈だから、もしかしたらそうなのかもしれない。
宛もなく、唯何となく駅へと歩を進める。
古書店から駅までそう遠くないので、10分程で駅前の『噴水広場』まで到着した。
広場は噴水の他に花壇とベンチがあるだけで、あまり子供達の姿は見掛けなかった気がする。
駅前の割に静かだから、私はよく此処を訪れていた。
そして、夏には時々噴水でーーー
「·······!」
噴水が、無い。
『噴水広場』なのに。
石造りの大きな噴水は姿を消し、其の代わりに有ったのは、花を模したであろう白い石のオブジェ。
形的には沈丁花の花を1つ取って上向きにした感じ···と言えばいいのだろうか。
中央に青紫色の焔が揺らめく白いオブジェが、噴水に成り代わるようにして、白い砂を吐き出しながら其処に在った。
····白い砂の元が此処なら、矢張りコレは『灰』か?
火と同じ性質を持つかは不明ではあるが、仮にも此の焔によって白い砂が生み出されているのだとしたら、此れは『灰』なのだろう。
·······まぁ、よく分からないが。
全く。
何が何やら、だ。
死ぬことにより、漸く切望した『静寂』を得たと思ったら此れだ。
まったく、先が思いやられる。
行き交う影達との意思疎通は出来ないみたいだし、コレといった収穫は0。
つまりは無駄骨。
「······はぁ。」
何故か少し歩いただけなのに、ドッと疲れが湧いた。
苦手な人混み(?)の中を歩いたからだろうか。
······何所か、休めるトコないかな。
休息を求めた私が吸い寄せられたのは、広場から歩いてすぐの、古い喫茶店だった。