【ーーー1】
【ーーー】は、三人称で夜深(と雨宮)以外の場面です。
少し薄暗いように感じる元オフィスには、普段より沈んだ空気が流れている。
オフィスのソファーには黒瀬が腰掛けており、其の向かいには、須賀が寝そべっている。
ヘレナの姿は無い。
両者口を開く気配は無く、第三者からすれば、かなり居辛い空間である。
「·····夜深は」
「夜深ちゃんなら、もう休んでるよ?」
「そうか。」
其の沈黙を破ったのは、珍しい事に黒瀬であった。
しかし黒瀬の声はいつもより僅かに低く、須賀の口調もいつもより大人しい。
まぁ、こんな空気になるのも仕方が無い。
昼間にあんな事があったのだから。
ーーー『死穢』の濃度が突如上昇。そして、同時変異。
今回は、夜深も居るからと濃度の低い場所を選んだ。
其れにも関わらず、変異が起きた。
しかも、同時に2ヵ所で。
加えて、夜深が相当酷いというワケではないが、かなりの怪我を負った。
「·····今回の件、お前はどう思う?」
「んー、詳しい事は分からないけれど此処最近で、『死穢』の濃度が上昇してるのは確かだよ。」
今回の件は、明らかに異常。
此れが、2人···否、ヘレナも含め3人の考えだ。
たまたま運が悪かったのでは無い。
何かが、起きている。
「······そうか」
「ヘレナさんからの資料によると、此処最近の濃度は戦後以来の濃さみたい。」
「·······」
戦後。
戦争中に多くの命が失われていた故、『死穢』の濃度が高いのは分かる。
だが、何かと物騒とは言え平和な現代で、此処まで死穢の濃度が濃いのは説明がつかない。
「····もしかしたら、夜深ちゃんが此の世界に来たのも、今の状況が関係あるかもしれないね。」
「·····そうだな。」
暁の刻は曖昧だ。
今まで集めたデータを見ても、暁の刻に自殺をした人間が、全員此の世界に来たワケじゃない。
ならば、死穢の濃度など何らかの関係性をもって此の世界に来るはずだ。
しかし、真相はまだまだ分からない。
唯、此れ以上何もない事を、祈るばかりである。
[暁の刻]
午前2〜5時くらい(という設定)。