【死穢−9】
『静寂』の中に居た。
相変わらず身体が動かず、散らばる破片だけが、虚ろに輝いている。
「·····?」
しかし、今回は何かが違う。
「ーーーーーーッ」
「ーーー………」
音が、聴こえるのだ。
何かが軋む様な、あるいは誰かが呻いている様な。
そんな、音が。
其の音は、酷く疲れているようで、まるであの鉄人形の様。
あぁ、そうか。
追いかけられていた時は、逃げるのに必死で気付けなかったが、あの人形は別に、私をどうにかしたかったワケじゃなかったんだ。
唯、『疲れて』いたのだろう。
生前、身体が千切れる程働いて、死して尚、今にも千切れそうな歪んだ鉄の中に囚われている彼等は、唯、終わりたかったのだ。
楽に、なりたかったのだ。
「楽にしてくれ」と追い縋っているうちに、自分が何をしているのかもわからなくなって。
それで·····
ーーーあぁ、早く楽にしてあげなければ。
普段誰かを助けようと思う事など殆どないのに、錆びついた悲鳴を聴き続けているうちに不思議とそう思った。
昏い廃工場で果て、果てて尚その場に縛られている彼らに·····
ーーーどうか、『静寂』を。
❅
ーーーパキンッ
何かが割れる様な音と共に、暗転した意識は浮上した。
「ーーー?」
目を開けると、其処には私の光輪に似た薄紫の破片が、いくつも散らばっていて、人形の姿は消えていた。
助かった、のか·····?
しかし、2人の姿は無いのに、いったい誰が人形を倒したんだ?
「·······!」
まさか·····
まだ痛む腕を伸ばし、散らばる破片を手に取る。
間違いない、私の光輪だ。
つまり、無意識に?
先程まで見ていた『静寂』の夢。
其の中で、何かが軋む様な音が聴こえた。
つまり、私が其の夢を見ている間に、光輪に何らかの変化があって、人形を倒した····?
分からない。
まぁ、其れは後で須賀さんにでも訊くとして。
兎に角、今はーーー
「········疲れた。」
身体中痛い。
筋肉痛になりそうだし、外傷的な面においても痛い。
そして、眠い。
此処で2人が来るまで寝て、後の事は其れから考えよう······