【死穢−8】
「ーーーッ!」
痛む腕を抑えながら、人形から少しでも距離をとるべく足を動かす。
····コレはマズい。
冗談抜きでマズい。
此んなにも動きが速く、一撃が重いなんて·····
鉄故に一撃が重いのは分かるが、重そうな鉄の体で何故此処まで早いのか全く分からない。
鉄なのだから、もう少し遅くてもいいではないか。
人形は疲れた素振りも見せず、寧ろさっきより速くなっている気がする。
まぁ、機会と人だ。
人の方が早く疲弊するに決まっている。
ズッ……
「!!」
足を動かす事だけに集中していると、突如足元のコンテナの天井が大きくズレた。
······嘘だ、
体が大きく傾く。
どうやら、此のコンテナは酷く古びて軽くなっていたようだ。
他のコンテナと比べても、段違いに錆びている。
こんな事が出来るなんて·····
何とか踏みとどまろうと足掻いてみるが、前のめりに傾いた状態では無意味だった。
そして、重力に逆らわずに落下し始める身体へと、人形の重い一撃がハイる。
「ぐ······」
ガッシャァァァァンッ!!
「ーーーッ!!」
下腹部に痛みを感じた瞬間には、背中に強い衝撃を受けていた。
息が詰まって、目がチカチカする。
叩きつけられたコンテナは歪みが、どれだけの勢いで叩きつけられたのかを物語っている。
此れ、さっきよりも、圧倒的に強い。
人が叩きつけられてコンテナが歪むなんて、漫画やアニメの世界だけだと思ってた。
身体中に響く痛みが、此れが現実であると主張する。
ギギッ……
ギッギッギッ……
鉄の人形が、まるで嘲るかの様な音を立てて此方へと向かってくる。
動きは歪で、今にも崩れそうだ。
「·······う」
立ち上がろうにも、頭を打ったのか足に力が入らない。
翼を利用して立と背中に意識を集中させるが、1番上の翼が折れ曲がっており、其れも出来そうにない。
硝子の欠片で出来た光輪のみが、虚ろに輝いている。
「ーーーッ」
どうすれば、どうすれば良い?
こんな状態では、人形から逃げる事なんか不可能だ。
どうせ逃げられないのなら、一旦仮死状態になり2人を待った方が·····
ーーー意識が遠のく。
暗くなる視界の奥に、『静寂』の陰が視えた気がした。