【死穢−6】
ギギギッ……
錆びた金属の擦れる音が、背筋を伝う様に響く。
先程まで這いずる様に動いていた鉄屑の異形は、ものの数分で二足歩行をするようになっていた。
彷徨う様に歩く其の様は何処かホラーじみていて、僅かな緊張感を私に与えている。
目線は安定せず、唯虚空を彷徨うだけで、何者も捉えない。
「·········」
つまり、まだ私の存在に気付いていない。
ということは、まだ逃走の余地が残っているということだ。
ならば気付かれる前に指示通り逃走し、電話ボックスに戻るのが最善。
上手くいくだろうか·····
他に策は····無いな。
退避が1番だ。
翼や光輪は出さない方がいいだろう。
目立ってしまう。
万が一に備えて出しておいた方が安全かもしれないが、気付かれない事を優先するべきだと思う。
「········」
息を殺して体勢を低くし、そっと黒瀬さん達が消えていった扉へと向う。
扉を開けた時に音が立ち、もしかしたら此方に向かって来るかもしれないけれど、素早く閉めれば大丈夫だろう。
·····多分。
扉まであと数m。
大丈夫だ。
上手く遣れる。
ギギッ…ギッ……
「!!」
不快な金属音に、心臓が小さく跳ねる。
どうやら、僅かに気を許した瞬間、異形は此方に気付いたようだ。
まぁ、十分に有り得るし、今更激しくは驚かない。
先程まで這っていたのに立ち上がり、虚空を漂っていた目線は標的を捉える。
つまり、確実に進化しているという事だ。
非常に宜しくない進化のペースだ。
首を捻って割れた電球の目を此方へ向け、「見つけた」とでも言わんばかりにどす黒い死穢を毛羽立たせている。
·····マズい。
背筋を冷たい汗が伝う。
異形は置いてけぼりになった胴体を此方に向けており、今にも襲い掛かってきそうだ。
お願いだから止めて欲しい。
私は、体勢を低くしてコソコソするのを止め、立ち上がって走り出す。
「·······逃げ、きれるか」
気付かれてしまったなら、もうコソコソする必要は無い。
全速力で走って扉へと向い、逃走を図ろう。
しかし、異形がどんな動きをするのかが把握しきれていない以上、下手な行動はとるべきではないが、モタモタしていて逃げられなくなったら元も子もない。
細かいことは考えずに、兎に角走ろう。
ギギッ……
「!!」
ゴーレムが一歩前に踏み出す。
真逆、走れたりするのだろうか?
非常によろしくない。
······無事に逃げきれますように。