【拝啓君へ−3】
君が居た或る日の事を思い出した。
時は夕暮れ。
神社へと続く階段も朱に染まり、もう時期辺りは暗くなる。
「最近日が沈むのが早いな。」
「·····あぁ、そうだな。」
どれだけ辺りが朱に染まろうとも、君の青灰だけは染まらず、唯々物憂げに夕日を眺めていた。
其の瞳は、とても綺麗で。
そして、今にも消えてしまいそうで。
····彼女の両親はつい先日に他界したという。
父親が、過労が原因の突然死で····
母親は、事故死だそうだ。
あまり両親と仲が良くなかったらしく、本人は気に病んだ素振りを見せないが、実際は辛い思いをしているのかもしれない。
俺で良ければ相談に乗ってやりたいが、果たして俺なんかが····?
しかし、他に誰が相談に乗るのだろうか。
余計なお世話かもしれないし、傲慢かもしれないが、俺は、宵月の力になりたい。
「よ、宵月!」
「·····?」
「その、何だ······」
力になりたいと、そう思っているのに。
いざという時に言葉が出ない。
沈黙の気不味さに、口の中が乾く。
何て情けないのだろうか。
「····もうすぐ学力テストだが、宵月はどうなんだ?」
結局口から出て来たのは、当たり障りの無い言葉。
「まぁ、数学以外はぼちぼちだな。何故だか数学はどうも苦手で。」
「···そうか、」
急に歯切れが悪くなった俺を振り返りながら、宵月は言う。
「「········」」
そして沈黙。
俺から話し掛けたというのに、言葉が喉に詰まって出て来ない。
口の中はもうカラカラだ。
本当に情けない。
「····お前が気にする事じゃない。」
「え?」
意外にも沈黙を破ったのは宵月の方で、彼女は俺が言おうとしている事が全て分かっているようであった。
青灰色の瞳は透明で、まるで全てが見えているかの様。
彼女は聡明だ。
しかし、他人には其の瞳の奥を覗かせない。
まるで、眼の表面に薄い氷でも張っている様だ。
「····そう、か。でも」
「ははっ、真面目クンは私の事が心配だと?」
「なっ、誰が真面目クンだ!」
「はははっ」
そして、からかう様に嗤う君はの顔には、薄い陰が掛かっていた。
其の表情を見ていると、堪らなく不安になる。
今にも、消えてしまいそうで。
「気にするな」と言われても、君はあまり自分の感情を表に出さないから、心配が絶えない。
しかし、何故かそうはならないだろうと思う自分が確かに存在しているのもまた事実。
ーーー此の気持ちはいったい何だったのだろうか?