【死穢−4】
死穢に向けて、コフィンの詰まった旅行鞄を傾ける。
「··········」
漂う死穢が鞄に触れては消えてゆく様子は、まるでスポンジで水を吸ってるみたいだ。
吸う勢いは衰える事なく、面白いくらいにどんどん吸収している。
しかし、まだまだ死穢は無くなる気配が無い。此れで薄い方なのか?
いや、濃い方だと須賀さんが言ってたな。
まぁ、始めに比べれば随分と視界が良くなったと思うけれど。
「····今、何分経った?」
しかし此のペースで終わるのか?時間····
そういえば私、時計持ってないんだった。
あ、スマホがあるか。
時間は···約10分経過している。
地味に時間が危ない。早く回収しきらなければ。
少しだけ動くペースを早める。
鞄もほぼ振り回す様な感じで死穢に当てる。
·····此れでペースアップを図りたい。
❅
珍しく焦った甲斐あってか、漂う死穢はすぐに無くなった。
地味に達成感がある。
「·········」
そっと鞄の中を確認。
「·······!」
中の透明だったコフィンは、其の面影もなく真っ黒になっている。
···本当に吸収してるんだ。
というか、此れで薄い方なら奥はどうなっているのだろう?
何も見えず、真っ黒なのだろうか。
「····あと12分。」
時間が余った。
地味に暇だな。
取り零しを探して、もっとキレイにしておこうか。
ガシャンッ
「!!」
不吉な金属が崩れる音に、手持ち無沙汰で頭を掻こうとした手が止まる。
硝子が割れるのとは違う重厚感のある音は、場の空気と合わさって、より不吉な予感を漂わせてゆく。
何、だ?
何の刺激も無いのに、此処まで大きな音を立てて落ちるのは不自然だ。
そっと後ろを振り返る。
嫌な感じだ。
ガシャ、ギリリ…
「!!」
背後で起きている光景に、思わず一瞬思考が停止した。
何と振り返った先で、床に散らばった廃材が、死穢をツナギとして形を成し始めていたのだ。
「·········変、異?」
真逆、此処では起こらないはずじゃ···?
コンテナの隙間から出てきたどす黒い死穢は、地面を這う様にして散らばる廃材を吸収していく。
「·······!」
散らばった廃材が、見えない重力に引き付けられるように集まり、歪な人形へと変貌した。
其の容姿はまるで鉄屑の異形。
歪な身体から発せられる冷たい死穢は、何処か悲愴な雰囲気を醸し出している。
大きさは2m程で大きくはないが、もし力が強かったり動きが速かったりした場合、鉄製故此方に勝ち目は無い。
翼を使ったとしても、簡単な動きをするのが関の山なので無意味。
黒瀬さん達はまだ戻って来ない。
どうすれば······?