【飛べない翼−6】
「ーーーえ~っと、翼を出すコツは、血の流れを意識して······」
「其れが背中に集まっていくイメージよ!!」
「ちょ、僕の台詞·······」
台詞の最後をヘレナさんに強奪される須賀さん。
前から思っていたが、2人共須賀さんの扱いが少々雑な気がする。
······別にいいか。
「まぁ、モノは試しだからちょっとやってみてよ。」
「·······はい」
本当に翼何て、出せるのだろうか?
いきなり言われても困るのだが。
しかし、「No」とも言えないので、目を閉じて言われた通りにしてみる。
まず、血の流れを意識して···
其れからーーー
❅
目を開けると、『静寂』の中に居た。
其処は昏く、煌めく硝子の破片以外は何も無い、静かな世界。
チカリッ…
「········?」
其の中に、突如現れた新しい破片。
此れはーーー?
❅
思考の海に潜っでいた意識が、徐々に浮上してくる。
目に映る世界は、灰色ながらも『静寂』の世界に比べれば眩しく、少しだけ目に痛かった。
「おー·····」
「··········?」
何だろうか?
翼を出す事に成功したのかと右に振り返ると、其処には『暁』が在った。
藍から青紫へと徐々に薄くなってゆくグラデーションの翼は、幾何学的で形は鳥と同じでも、まるで虫の様。
「······上物ね。捗るわ!」
「あはは、御愁傷様。」
翼の数は、背中から腰上にかけて3枚。
上は空色から藍色、中間は紫から緑、下は淡い金色から赤と、暁の空を其のまま写したようだ。
大きさは上のモノで2m程で、さほど大きいワケではない。
········もう少し、丈夫そうなのが良かったな。
醜いのは余り嬉しくないが、美しさには興味が無い。必要なのは実用性だ。
其の点において此の翼には、少々···いやかなりの不安がある。
大丈夫だろうか·····
欠けた湯呑み
鳴かないホトトギス
破れたカーテンに綿の出たぬいぐるみ。
ーーーそして、『飛べない翼』。
皆何かが欠けていて、全てが欠陥品。
有っても本来の義務を果たせない『翼』には、一体何の価値があるのだろうか。