【終焉】
此の作品には、自殺について書かれている場面がありますが、決してまねしないでください。
また、そこまで暗く沈んだモノにする予定は無いので、気軽に読んで頂けると嬉しいです!
[漢字]
・此れ、此の、其の→コレ、コノ、ソノ
・何処、其処、此処→ドコ、ソコ、ココ
『ーーー死にたいんじゃない、消えたいんだ。』
私の人生を小説とするなら、冒頭にいきなり此の一文を持ってくる私は、随分と歪んでいるんだと思う。
此の一文だけならまだしも、其れを実行するあたり、私は相当歪んでいる。我ながらに。
時は暁。
1人廃ビルの屋上で、柵に腰掛け足をブラつかせながら、空を仰ぎ、まるで他人事の様に私は自嘲う。
どうして私は今から『こんな事』をしようとしているのか、正直自分にも解らない。
唯、何となく。『こうしたい』のだ。
今見上げる朝焼け歯、徹夜明けの窓から見える、切り取られた空とは違ってとても綺麗だ。
まだ鳥の飛んでいない空は、透明でまるで時が止まっているかの様に静かだ。
朝焼けを受けた真下のコンクリートは仄かに光を放ち、静かに私を待ち構えている。
そんな静かな空間の中で、短い生を終えて仕舞うのは···
「······悪く、ない。」
寧ろ、雲一つない日に15年の人生を終える事の出来る私は、幸せ者だ。
此れは私だけかもしれないが、1日の内1番静かなのは今、暁の刻だと思う。
車の音も消え、人々のざわめきも、今だけは鳴りを潜める。
限りなく『静寂』に近い此の時間が、私は好きだ。
誰にも干渉されず、独りでいられる気がするから。
自由でいられるような···そんな気がするから。
藍と紫が混じった様な色をしていた空は白み始め、いよいよ新しい1日を迎えようとしている。
彩の無い、濁った新しい1日が。
·····其の前に。
「ーーー逝こう。」
思えば、唯々長いだけのつまらない人生だった。
別に、不幸なだけの人生だったワケじゃない。勿論楽しい事だって多少はあった。
友達と呼べる存在だって、一応1人はいた。
けれども私は、『消える』という形で『静寂』を望む。
理由は無い。
世間一般からは明らかに可笑しいと思われるだろうが、唯、何となくの行為なのだ。
唯、静かなところに行きたくて、こうするのだ。
思い残す事も無いし、躊躇する事はしない。
折角だから勢い良く飛び降りてみよう。
フェンスを蹴って宙を舞う。
空が白み始める暁の刻。
私、『宵月 夜深』の命は、穏やかに終わりを迎えたのであった。
ーーープツリ。
❅
…ガシャンッ!
何かが砕ける様な音で、意識が浮上した。
「······?」
何だ?
私は、死んだ筈。
目を開けると其処に広がるはまさに虚無。
周囲に拡がる闇は、何処までも昏く、そして静かで心地良い。
もしかして、あの世、というヤツだろうか。
其れとも、死の間際に見ている、走馬灯の親戚だろうか。
身を起こそうにも身体が動かないので、仕方なく唯一動く目だけで暗い辺りを見渡す。
····何も無いのか?
「!」
何も無いと思っていた其処には、私を中心に色とりどりの硝子が散らばっていた。
赤、 青、 紫、 金、 黄、 藍、 緑…
まるで最後に見た暁の空が、其のまま砕けて散らばっているみたいで、とても綺麗だ。
でも、何でこんな所に硝子が····?
さっき迄は、何も無かった筈。
私は、もっと硝子を見ようと目を凝らす。
「·········!」
ん?此れは····
硝子なんかじゃない。
大小様々な硝子の破片をよく見ると、曲線を描いていたり折り重なっていたりと、まるで人の体の一部の様だ。
つまり、此れは···
ーーー私だ。
其の事実に気付いた時、私の意識は再び暗転した。
ーーープツリ。
※タイトルの読み方…『暁弔の末路』