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「『篠崎 絆』」  作者: 宇佐美 風音
46/47

46.Refrain.(2)

目が覚めた先は天国か地獄なんだとばかり思っていただけに、見知らぬ天井が視界に映ったところでまず一驚。

次に布団からもたらされる睡魔の増長に気づいて判然としない夢や幻でなく現実なんだと知って、あれだけのことがありながら生きていたことよりも、無人島での一日の始まりではないことに二度目の衝撃を受けた。

常につきまとっていた潮風や塩っ気の混じった匂いがなく、むしろ我が家よりも芳しい芳香剤が鼻腔をくすぐる。

僕のくるまっている布団もフカフカを通り越してフワフワな泡みたいな柔らかさで、身も心も包み込んでくれる。

記憶はないが母に抱かれたらこんな感じなのかな、と漠然とした思いと共に浮かび上がったのは絆の顔だった。

と言うか何だろう、浮かび上がったと言うよりは目の前に飛び込んで来た。


「うぉっほぉい!?」


謎の雄叫びを上げつつ覗き込まれた絆の顔から逃げるように起き上がるが、身体中が悲鳴を上げ今にも全身の骨が折れてしまうんじゃないかと言う激痛が走る。

一〇畳は余裕でありそうな広々ベッドの真ん中から、柵も何もない端へと転がったこともあり当然の如く床に頭を叩きつけてしまった。

ほとばしる熱いパトスのような激痛が全身を巡りつつ、現状もっとも落下で伴った頭痛を抑えるように頭を抱えて悶えた。


「だいじょーぶー?」


ベッドの上から顔だけをひょっこり突き出して僕を見下ろす少女は、絆の顔をしながら決して見せてはくれなかった明るい語調で心配していた。

明るく心配って段階で頭痛が痛い文法なのだが、今の絆はそれだけ器用なことをやってのけているんだから察して欲しい。と言うか察して?


「き、ききききき、ききき、ききききずきずききききききずき!?」


「ズッキーニ?」


「ウリ科カボチャ属でキュウリに似てるカボチャの仲間でククルビタシンと言う微量な毒性を持つが通常問題はない野菜のことでなく!」


「アハハ! 詳しいね、ズッキーニ一つでそこまで広げられるって中々ないよ!」


妙だ、僕の知ってる絆はこんなこと言えば「死ね」の一言で一刀両断してるはずだ。

なのにそれもなく純然な、思ったことをすぐに口にするような素直さを感じる明るい声は、絆の物のようで絆じゃない。

どことなく絆よりも声音が高い……?


「えっと……色々聞きたいことが山々なんだけど」


「何々? 一応これでもボク、元赤ちゃんだから何でも聞いてよ!」


「そ、それ言い出したら僕もなんだけど……」


「そんなこと言わないの、食べちゃうぞ!」


「何をだよ」


「昔入院してた頃週六でご飯がロコモコだったこと?」


「ハワイでもそんな出さねぇよ」


「その内週一でバイきんぐ」


「豪勢だな……」


「いや、お笑い芸人のね?」


「何て言えば良い!」


「家を出る時傘を忘れて戻って来たら今度はカバンを忘れる珍事が癖な点について?」


「ただのおっちょこちょいだよそれ。と言うかそうでなく……」


まさか、と言う高揚感にも似た予感を抱きながら見上げる先に問う。


「君は……誰?」


そして僕の質問に答えるべく、その真意に応えるべく良くぞ聞いてくれたと言わんばかりの満悦な笑みを浮かべ、ベッドの上に立つ。

反発性が少なくとにかく羽のように柔らかいベッドのせいか一度体制を崩しかけたが、寸前で持ち直し改めて踏ん反り返り腰に手を当てて。


「良くぞ聞いてくれた!」


思った通り表情に貼り付けられたセリフを言い放った後。


「ボクは (たより)! 篠崎頼だよ!」


僕は出会った。

人生に於いて決して消えることも癒えることも無かったことにも出来ない、僕の罪そのものと。

窓から射す朝焼けよりもヤケに眩しい少女、篠崎頼と──


「これからよろしくね! (けい)くん!」


出会った。

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