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「『篠崎 絆』」  作者: 宇佐美 風音
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03.Classmate.

「ウェルカムトゥようこそきょーうしつー! 今日もどったんばったんおっはー!」



 教室に着いた途端、げんなりするテンションで突進するような勢いで出迎えられた。君は騒がしいフレンズなんだね。

 取り敢えず立ち塞がったせいで僕通れないし、左右にあるはずの横道手を使って塞がないで下さる?



「どうした若人! 返事がないなぁ、もう一度行くよ! ウェルカムトゥようこそきょーうしつー!」



「呆れて声も出せないことを悟って欲しい」



「おぉ、生きてた!」



「教室着いた途端死んでたまるかよ」



 死因→飛び出死ってか。ニュースで流れたくないし、そんなことで読んでもないけど実名にて新聞に載りたくないしね。

 何より絆にも言ってないPCの秘蔵フォルダを残して死ぬわけにはいかないんだよ、あんなもの見られたら今後の自分がどんな存在だったかを想起させられるんだぞ、オチオチ死んでられるか。


 と言うか退いて、いい加減自分の席に座らせて。どうでも良いけど、昔お兄ちゃんどいてそいつ殺せないって曲あったよね。



「おっとぉ! ここを通りたくば合言葉を言いな! いつものあれだ、これが分からないようなら私も何言ってるのか分かんねぇ!」



 何だ今日はしつこいな、いつもよりテンション高いしノリがやかましい。何、明日遊園地にでも連れて行ってもらえるのん?


 つーかそもそもいつも合言葉で分かり合うとかしてないじゃん、知らぬ間にソウルトークされてたのかと錯覚しちゃうじゃん。最終的に自分でも何してんのか分かってないみたいだし。

 取り敢えず何か言っておこうか、でなきゃ僕は立ち往生をくらってしまいそうだし。自業自得とは言え、休みなくガッコウへ絆を送り届けてこっちに来てるんだから、座れないのは普通に考えなくてもしんどい。


 腹を決め咳払いを一つ。喉に手を当て、「あー、あー」と高低差のある発声練習。そして放つのは……。



「滲み出す混濁の紋章、不遜なる狂気の器、湧き上がり・否定し、痺れ・瞬き、眠りを妨げる、爬行(はこう)する鉄の王女、絶えず自壊する泥の人形、結合せよ、反発せよ、地に満ち、己の無力を知れ!」



「破道の九〇! 黒棺(くろひつぎ)! よし、通れ!」



 いや合ってたんかい。

 某ブリタニアの皇子よろしくの声に身振り手振りも加えた僕なりの頑張り(アドリブ)が適応され、道を開く倉田(くらた)の横を過ぎて行く。


 後ろからぴょこぴょこと跳ねながら着いて来る姿は、さながら兎だ。

 その度に高校生にしては大きな身長と豊満な双丘が上下に揺れるが、これだけ罵倒した後に目を向けたら何か負けた気がするので前を見続けた。



藍原(あいはら)はいつもクールでドライだねぇ!」



「藍原スーパードライとでも呼んでくれ」



「たまに飛び出すその突飛なネタ、嫌いじゃないぜ!」



 キャーとわざとらしく頬を抑えながらシャウトする倉田は、くるくると身を翻し僕の前に再び立ち塞がる。言っておくけど、お前今草むらでエンカウントする雑魚敵より厄介な立ち回りしてるぞ。

 そのまま胸を強調するように腰をくいっと前乗りにして、手を膝に当てて上目遣いとなり、にへらと笑う。まるでグラビアだな。



「でっ? どうかね! 私と共に関西で天下を取らんか!」



 いや「でっ?」って何だよ「でっ?」って。前から誘ってた文脈にすんな、こちとら初耳なんじゃ。



「……良いよ」



「えっ!? マジ!?」



「組んだな? 確かに組んだね? よし解散だ」



「はやっ! あっちょんぷりけだよ! ちなみに解散理由は何さ、相方しか仕事が来ないから? それとも不仲!?」



「音楽性の違い」



「そっちかー!」



 >ワ<(伊吹風子)みたいな顔して自分の額をぺしっと叩く。続けて「たはー!」とか言っている隙に横を通り窓際前方二列目の自席に腰を落ち着ける。はぁ、ひと段落。


 ここまで無駄に長い道のりだった。ワンピースで言えばシャンクスの腕がなくなった所からドレスローザ編に匹敵する長さである。普通に向かえば一〇秒もいらない距離なのに。


 だが、受難は終わらない。何故ならこの倉田は僕の前の席こそが自席だからである。何度席替えしても僕の前後に位置するのはどうしてなのかね。背後霊なの?

 いやだったら後ろ来いや。

 もっと言えば、まだ二年の交友関係ではあるがやけにグイグイ来るこの子との絡みが、何だかんだ別段嫌いじゃないと思っている自分にも困っている。

 変に気を遣わない友達って大事。そもそも友達がいるだけでもそれってキセキ。


 二人寄り添って歩いて自分の席に座り椅子を横に直してこちらを向く天真爛漫系厄介は、永遠の愛を形にすることなく何事かと聞いて欲しそうな笑顔でいる。



「……何かあったの?」



 このままスルーしても良かったんだけど、良い加減まばらに集まり出した同級生からの目線が気になり観念した。

 すぱっと本題に切り込むことで倉田は。



「藍原はニュース見た? と言うか見てなくても見たって(てい)で話し進めて良い?」



 にゅふふ、と真似もしたくないような笑い声と同時にそんなことを言う。そんな音に思わず釣られて、僕は頭を働かせる。


 ニュースか……ニャースは見たことあるがことニュースはおろか新聞も読まない僕に果たして働く頭があるのかどうか危ういどころか、無いと断言出来てしまうので大人しく黙って頷いた。



「隣町で見るも無残な殺人が起きたんだって、付け加えると今でもその犯人は逃走してて……けど昨日で同じ手口による殺害が四度目となってFFJ!」



 一先ず、話したくて話したくて震えるのかまともに会話が成り立ちそうになかった。

 これだけの話しから察するに。



「詳しく映し出せないくらいの殺人が起きて、捜索するもその足取りは掴めない。その間最初の事件と同じやり方で死んでる人が出て来て、その四回目が昨日起こったってこと?」



「そう! そうそう! 流石藍原!」



 ちなみにFFJは多分自分でも説明し切れてないと判断してアドリブで飛び出たものだろう、確か日本学校農業クラブ連盟のことだったか。

 恐らく深い意味はない、あれだよ、覚えたての言葉を使いたくなるあの名指し難い衝動みたいなものだと予測してみる。


 すると身体を僕の方に向けて乗り出す。バンと叩いた机に乗る胸、音の鳴る方と同時にそこへ落ちた視線。


 その日人類が思い出した……となり初めて超大型巨人を目撃した時のリアクションが、正に今の僕だと思う。わざと呆れたような溜息を入れてから椅子を引きずって下がって、唾が飛ぶのもお構いなしに倉田は続けた。



「それでね! 進行方向的に、私たちの町に来ててもおかしくないってことから、今後の動きによっては授業がなくなるかもって噂が立ってるの! 早めに切り上げてお昼に下校! 素晴らしいショーだとは思わんかね!」



 大佐を連れ出すな、奴は目を潰した後にラピュタから落としておけ。ただでさえ未だに何年も連続で同じ目に遭ってるんだ、そっとして置いてやれよ。

 顔にかかった唾液を袖で拭いながら、熱心に喋る倉田の肩を恐る恐る掴み、椅子に腰を据えさせる。


 これ以上このおっぱいと言う名の兵器を見せつけながら近づかれたら、男の子特有の生理現象も発生しかねない。これは、ちょっとした恐怖ですよ。

 僕じゃなくても酷く残念ではあるが、さらに近寄られて尚且つ目線が下にでも向いたら限りなくアウトだ。クラスメイトに「おっぱい星人」とか「おっぱい男爵」とか「チブ・タイラー」とか言われて蔑まされたくないってばよ。


 野生動物が初めて人間を見たかのように不思議そうな面持ちでいる倉田だが、支障はないと判断したのか身体を動かしながらさらに続け……ようとしたところで、僕は倉田の眼前に手の平を突き出した。


 僕の意図をどのようにして言葉巧みに伝えようかと頭を悩ませていたそんな最中、手の平に何かぬめっとした柔らかい何かが下から上へ沿うように這ったので、驚きのあまり飛び上がるように小刻みな痙攣をしてしまった。



「な、何してんだよ!?」



「ん? いや、いやいや。手の平あったら舐めるでしょ。うん、JK」



 JK(常識的に考えて)も、そこに情熱があったとしても、僕ら人類には三分の一も伝わらない早過ぎる思考回路を持った人間相手には何を言っても無駄だと思い至り、今度はわざとではなく自然に諦観を含む溜息が漏れた。むしろ心外だと言いたげなのは妙に腹立つけれども。


 曖昧模糊(あいまいもこ)とした僕の仕草を見て、小首を傾げる。誰かこの子の思考回路を読み取れる人居ないの、倉田専属の翻訳家とかさ。



「ま、まぁ……手を出したのは、異議申し立てがあったからだよ」



「あー、だから私、手を出されたんだ!」



「うん、あんまり大声で言わないでね」



 登校して傍を通りかかったクラスメイトの目線が僕を責める、炎身体焼き尽くす方が数倍マシな軽蔑の眼差しに居た堪れなくなり絶命を心に誓いそうだよ。

 遠巻きに聞き耳を立てて居た女子複数名も、じとっとした梅雨の湿り気を帯びたような目で見ているのが伝わる。おかしいな、今の季節は春だよね?


 そして僕は当然無罪だよね?



「えぇ? けど、手は出したよね? 事実だよね?」



「いやもうお前本当に黙れよ」



 勘違いを加速させるようなこと言うな、確かに状況的には事実だよそこは認めるよ。けどそこだけ切り取って聞いてた人による状況推察は、些か刺激が強過ぎるだろ。

 登校して数分でもうすっかり消沈してしまった僕は、自分のペースを取り戻すことも含めて言う。



「まず、その噂は信憑性がない」



「私に手を出したことの?」



「貴様まさかわざと言ってたな?」



「まさかまさか! んで? 続けて続けて?」



「いつか仕返しすっから覚えておけよ……まず、その話しだと確かに学校を早引けすることにはなると思うよ。だけど、授業を切り上げることはない」



「なして?」



「なしてって……いや、まぁ普通に考えて、台風で登校しようにも出来ないならまだしも、起こる『かも』知れないことが授業のカリキュラムを削るだけの要因にはなり得ないから」



「うーんと……えっと、分かりづらいなぁ……ギャル語で言って?」



「ちゃけば、あーしが思うにその事件が チョボパン(オシッコ漏れる)なのは分かっし、秒で帰れねぇのガチ TBS(テンションバリ下がる)なのも察することこの上ナイツだけっど? 実際被害が出てもなけりゃガチで起きるかも分かんないことにテン上げ(テンション上がる)して早引けすんのは ITS(一等賞)な考えじゃなくね?」



 って何させてんだ馬鹿たれ。



「成る程……えーじゃあ早く帰れないのー? 萎えぽよー……」



 えっ、通じたの?

 落胆の度合いが見て取れるくらいには口をへの字に曲げている。ギャル語で言うと肩も落としてガン萎えって感じ。



「そうなるかな。あっても注意喚起とかだと思うよ?」



 或いは寄り道せずに帰りなさいとか、な。小学生に言うような集団下校の推奨が精一杯じゃなかろうか。

 教師陣が無能なわけじゃない、でもまさか行き帰りに付き添うことも出来ないんだし、こうなれば下校が早まろうが遅かろうが変わらない。



「あとは早引けって言っても精々部活が休止するくらいだと思うよ、それにその事件って時間帯に統一性はないんじゃないの?」



「うん、昼夜は関係ないっぽい。昼間の殺人は一件だけってのは聞いたけど……ちぇー、何だよー」



 口を『3』にして目を細めながら落ち込む。

 僕は頬杖をしながらそんな友人に問いかけた。



「何、そんなに帰りたかったの?」



「いや、そう言うわけじゃないんだけど……ほら、何か早く学校から帰れると、興奮しない?」



 ……分からなくもない。


 普段と違うことってのは総じて高揚する、普通と言うレールに乗らないゴーイングマイウェイの倉田みたいな奴にとっては尚更なのだろう。

 僕はこの二階の窓から春風に揺れて僅かに散る桜を横目に、静かにかぶりを縦に振った。

03

「『乳首万能説』」



絆「『改めまして!』『ボクの名前は絆!』『苗字は篠崎で』『セリーセイズは上から……』」


繋「こらこら待て待て。ネイティヴに言おうとして失敗しつつさらっとボディの情報を開示しようとするな。あっ、藍原繋です」


絆「『ボクには繋と違って特技があるからね!』」


繋「さらっと馬鹿にされた気がする。けど確かに何の練習も無しに腹話術出来てたよな、マスクしてるけど、そっからでも口動いてないし」


絆「『腹話術とは別にね』『実はもう一個特技があったりするよ!』『言う機会がなかったやつ!』」


繋「おっ、本当?」


絆「『うん』『てなわけで後ろ失礼〜』」


繋「なに、僕に羽織を着せて後ろから進入されたけど……これってまさか?」


絆「『イエス!』『そう!』『繋の思ってる通り二人羽織だよ!』」


繋「これまた意外だな、ラジオだと伝わらないのが残念な絵面だけど。どれ、ちょっとやってみてよ」


絆「『任せてよ!』『そいでは手始めにこの蕎麦を食べるね!』」


繋「うーんと……ねぇねぇ絆さんや。君の思う僕の口の位置って乳首なの? 蕎麦と箸がいやに冷たいよ?」


絆「『あー目ぇ痒い……』」


繋「乳首擦らないで、気持ち良いの通り越して痛いから」


絆「『鼻がムズムズするよー』」


繋「絆はさ、僕の顔が乳首にあると思ってるの?」


絆「『繋の乳首万能説!』」


繋「やかましい」

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