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「『篠崎 絆』」  作者: 宇佐美 風音
23/47

23.Beyond the line of sight. ⑥

時は進み、何とあれから破竹の勢いでスコアを伸ばしては勝利を重ね続けた我がクラスは、ついぞ決勝戦を迎えた。

流石に勝ち進めば進むほど試合を行う間隔が狭くなるせいか、体力的にしんどくなって来た頃合いではあるものの、次の試合で最後なのであれば残りの力を振り絞っても良いかと言う思いが芽生え始めていた。

ここまで来たのなら、あとはもう勝つしかないだろう。

余談だが、景子の方も勝ち進んだらしく今から決勝戦のようだ。決勝戦は他の仕様やルールはそのままに、互いのチームで一度だけタイムアウトが使えるようになる。試合開始前に選手を決め、その選手がタイムアウトの宣言を行うことが可能となる。

試合時間は一〇分だけだし、用途があるようには思えないけれど、お互い連戦による疲労もあるから体を養うためでもあるのだろう。

やがてタイムアウト宣言者である四番ゼッケンを着けた大河内くん、五番ゼッケンを着けた流川くんと合流。

相手は三年二組。四人全員がバスケ部と言うチート極まり無い最強チームであり、彼らは我が校のバスケ部を代表するレギュラーだ。

キセキの世代と無冠の五将を率いる洛山高校と戦うような気分だぜ……しかも、体力は圧倒的に相手に分がある。我が校の学生の中で誰よりも長くコートに立ち続けた猛者だ、序盤で点数を稼ぐつもりで挑まなきゃ勝機はない。

まず「失敗をしない」と言うことが前提となる相手なだけに、勝ち進んだと言うアドバンテージもなく緊張に包まれる僕らのクラスは、やがて決勝戦開始のホイッスルを聞いた。

先攻は三年生チーム。四番ゼッケンの先輩にマークする僕に、彼は口を開いた。


……バスケ部入れよ、お前。今からでも間に合うぞ。


「冗談キツイっすよ」


この世に「『篠崎絆』」がいる限り、僕の居場所はバスケ部でもなければ陸上部でもない。

あの病院が、屋敷が……彼女らの隣が、僕の居るべき場所なんだ。


……そうか、そりゃ残念だ。


撥ねられるように素早いドライブで呆気なく抜かれた僕は、その後を追う。速い、そして展開も早い。僕らの目論見を理解した上で展開の早いゲームで引き離し返すつもりなのだろう。

別の選手をディフェンスしつつ四番ゼッケンの先輩に手を伸ばす太郎くんをするりと避けて、ゴール下を守る流川くんのディフェンスをダブルクラッチで振り切って、見事ネットにボールを吸い込ませた。

鮮やかで、無駄のないオフェンス力。素人はおろかチームメイトですら止められないその攻撃力に、コートが静まり返る程だ。

勝てるのか……頬を伝う汗と不安をリストバンドで拭い、声を出して紛らわせる。


「やり返そう、藍原くん」


「うん」


ゴール下でボールが渡り、一気に相手陣地に攻め入る。だが三年生もそれを把握していたのか、僕がいくらドリブルでゴールを目指そうとしてもびったりと張り付かれ、シュートチャンスをものの見事に失ってしまう。

取り戻した雑踏とスキール音で舌打ちを掻き消され、先輩の股下へボールを通して後ろでパスを受け取る大河内くんが代わりに攻めるけれど、ゴール下で構えたレイアップの姿勢で手の上にあったボールを弾かれてしまい、攻守交代。

いつの間にか僕を無視していた四番ゼッケンがフリーの状態でゴールへ向かうが、追いすがるこちらよりも速いその足に追い付くことはなく、華麗に加点を許してしまう。

4-0、マズイ。このままではさらに離されかねない。と言うかドリブルしてて多少遅くなってるはずの走力に追いつけないって、どれだけ素の状態速いんだよ、この人。

……絆も。

『絆』も足、速かったっけな。追い縋ろうとして離されていくこの感じ、懐かしいな。


「……藍原くん?」


「……ごめん、皆で何とかしよう」


熱くなった目頭を抑えた後ボールを受け取り、コートで衝く。はてさて、どうしようか。

僕の何とか切り抜けて来た適当ドライブも読まれ、これまでの最多得点王である大河内くんもシュートを止められる程ゴール下が厚い。生半可な攻撃じゃ届かない相手、明らかに今までと違う強敵。

蟻が像に立ち向かってるような気分だが……蟻が像に勝てないって誰が決めたよ。諦めない、負けたくない、胸にある僕らの願いはただ一つ。

勝つ。

勝ちたいなんて願いじゃない、僕らがすべきことは、勝つ。それだけだ。

さぁ質問だ。誰にだと?

僕自身にさ。しっかり答えろよ、無論時間はないからさっさとだ。

一度前を走らせたら僕じゃ追いつけない。足で負けてるせいでドライブも意味を成さない、そうなれば小まめなパス回し……が得策ではあるが、相手の攻撃力と機動力ではスティールの可能性もあるため多用は効かない。

ならば……。


「大河内くん、太郎くん、相談がある」


ここは一つ、賭けに出ようじゃないか。作戦を、路線を変更する。

そのための相談を二人に持ちかけ、快諾してくれた。ありがたい、そしてこれで負けたら全部「僕」の責任になるが、覚悟の上さ。

スリーポイントラインを踏み越えたところで僕はゴールを見上げる。シュートだと思い込んだ四番ゼッケンの先輩はスティールを狙うものの、ワンハンド(片手打ち)ではなく ボスハンド(両手打ち)だったことに違和感を覚えたらしく、ゴール下へ振り向き怒号を放つ。

今となっちゃ関係ない対応だ、何故なら僕のこれはシュートではなく……。


「いっけぇ! 流川ああああ!」


パスだからだ。

ゴールリングに当たる寸前、そのボールを片手で掴み強引に叩き込む流川くん。これにより一度のパスで済みスティールの心配もなく、そのまま得点にもなるアリウープ。

だがこれ、多用出来ないんだよなぁ。対策されちゃうし、呼吸が合わないと中々どうして難しいスキルだし。それでも何より僕のアドリブに合わせてくれた流川くんのおかげで、どうにか得点出来た。流川くんサンキュー。

ゴールを決めて自軍に戻りつつ、寡黙な流川くんとハイタッチを交わす。さて、この攻撃を止めたら……いよいよ作戦開始だ。


……アドリブか、今の。


「生憎、人生アドリブだらけだったもので」


マッチアップしながらまた話しかけられる。精神的揺さぶりか、それとも機を図っているのか……何にせよ、そんなことしなくてもこの人なら俺を抜くくらい……。


「……! しまっ……!」


気づいた頃にはもう遅い。僕の背後には六番ゼッケンの先輩が立っており、そこにぶつかることでドライブに転じた四番ゼッケンの先輩を追うことが出来なかった。

スイッチ、と言うんだっけ。これによりディフェンスもなくミドルシュート権を獲得。そのままゴールが入ってしまう。

今度は追うことも出来ず、肩をぽんと叩いて五番ゼッケンの先輩が四番ゼッケンの先輩と自陣に戻って行く。立ち止まったまま、まんまと嵌められた僕は天井を見上げる。

雨を受け続ける屋根の裏、高く聳えるその天井を仰ぎ見て……深く息を吸って、吐く。

体は重い。多分、初戦の時より確実にキレは落ちている。ましてやスイッチに気づけなかった僕もチームメイトも、判断力が欠けつつある。

球技大会に延長戦なんて救済措置はなく、ジャンケンで勝敗を分けられる。そうなりゃ今まで積み重ねた勝利の努力に意味など皆無となる。

これまでの時間を、プレーをジャンケンなんかで決定させない。

だから僕は……否、僕がボールを太郎くんに渡した。これまでのルーティンを見て来た体育館内の観客、選手は唖然としたことだろう。

僕が行うべきボール運びを、放棄したのだから。ハーフラインを抜けたのを見計らい太郎くんが僕にパスを出す。

これまでと違う流れのせいか、僕のマークに付いていた四番ゼッケンの先輩が一歩遅れて走って来る。空中にあるボールをカットしようと伸ばした手は届かず、僕の手に収まり。


「さぁ、反撃だ」


スリーポイントシュートを放った。

一度リングに嫌われたものの、小さなバウンドをした後何とかそのボールはゴールとなり。

僕の作戦、ボール運びをかなぐり捨ててオフェンスメインに戦う路線変更を開始した。

虚を突かれた三年生は少しだけざわついたものの、すぐに普段通りのプレーに戻ったらしい。その後迷うことなく四番ゼッケンが七番ゼッケンへボールを繋げ、シュートと見せかけてドリブルで抜かれ、流川くんが飛んでしまった裏からシュートを打つ。

だが体の軸がブレたせいか、リングを掠めてゴールには至らなかった。切り替えた流川くんがコートにバウンドする前にキャッチ。一瞬フリーになった太郎くんにボールが渡り、僕と並行して攻守逆転。

しかし、そこへ追い付くのが四番ゼッケンの脚力。すぐに僕の下へ辿り着き、パスを出そうと止まってしまった太郎くんが苦々しい表情となったのが遠目から判断出来た。

だけど、これだけの距離を追いつくには、全速力である可能性が大いにある。

だから片足を突き出して止まり、止まり切れず前を走る四番ゼッケンの先輩をそのままにパスを受け取るため手を胸の前に突き出す。


「藍原くん!」


名を呼ぶ太郎くんからボールを受け取り、右サイド寄りのスリーポイントラインから打つ。このままミドルシュートかもっと奥地に足を進めても確実だったろうが、特異な僕のシュートレンジでは確実ではないし、前を走る四番ゼッケンの先輩に止められる可能性も高い。

だからこそのスリーポイントシュートだったのだが、僕も重心が横に逸れたらしい。ゴールネットにボールが吸い込まれることはなく、四番ゼッケンの先輩にリバウンドを取られて、またぞろ攻守逆転。

そのまま攻めるのだと思い込んだ僕が四番ゼッケンの下へ走り出したその瞬間、何とロングパスと言う奇行に躍り出された。


「なっ……!」


押せ押せの攻撃体制だったからだろう、大河内くんもこちらに走っていたせいで残っていた七番ゼッケンの先輩が飛んで来たボールを受け取り、あっさりゴールを……決める寸前、その策を読んでいた流川くんがシュートをカットしてくれた。

コート外に出たボールを見送った後、僕はどんな顔で四番ゼッケンの先輩を見やったのだろう。息を乱し、肩で呼吸する僕ら二人の視線が交錯し、どちらともなく……笑った。

「『藍原繋 VS 篠崎絆の大喜利バトル ⑤』」



繋「よし、これで二勝二敗。次で決着だね」


絆「『ほぇ?』『何の話?』」


繋「(逃げよったであの女)」


絆「『あぁ』『何?』『ボクが休みの間大喜利やってたんだ!』『なら任せてよ』『ボクの得意分野だ!』」


繋「それなりに長い付き合いだけど、初耳なんだが……」


【ギネス到達! そのCDの曲名は?】


絆「『書けた!』」


繋「君ら本当に答え書いてる? 書いてあるとかじゃない? 違うとしたら早過ぎない?」


絆「『はーやーくー』『ボク繋待ちなんだけどー?』」


繋「納得いかない……っと、はい。書けたよ」


絆「『じゃあボクからね!』『ジャン!』『【お湯の煮込み】』」


繋「それただのお湯じゃん」


【勝者:篠崎絆】


繋「もう好きにしてよ……何この出来レース……」

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