双葉
とりあえずは歯も磨いたし顔も洗った。
本来なら桐花さんが来る前に終わらせておくべき事なのだが、色々とバタバタしたからな。
リビングに戻るとそこにはソファの背にぶら下がる尻があった。
「おい…双葉、だらしないにも程があるぞ」
じっとりとした目で優雅は言った。
「あ!、お兄、起きてたんだ。」
屈託のない表情で双葉は言ったが視線は桐花に釘付けだった。
まるで桐花さん専属の引っ付き虫だ。
「あのなぁ、そのセリフはそっくりそのまま返上してやる。それと桐花さんに引っ付きすぎだ。寝起きで汗臭いんじゃないのか?」
「あ!大丈夫だよ!双葉ちゃん久しぶりだもん!それに双葉ちゃんいい匂いだよ!」
桐花は嬉しそうに言った。
「桐花さん…甘やかしすぎでは…」
(それにしても兄弟揃ってパン一とは…)
【鎌鼬】は呆れたように言った。
(そこにツッコまないでくれ)
「とりあえず、桐花さんと俺はこれから学校だ。引っ付き虫は昨日お風呂にも入らずに寝落ちをしていたようなので風呂にでも入ってこい!」
俺はそう言うと桐花に付く虫(双葉)の両脇を抱えた。
「あぁ、桐花さあぁぁぁあん!」
変な声で騒いだ後、意外とすんなり剥がれ落ちた双葉は床へと転がった。
(なんなんだよその断末魔は…)
「ほら、自分の足で行くんだな。」
優雅はめんどくさそうにあしらった。
「あぁそんなぁ…」
そう言うと双葉は床で伸びた。
「お前、それじゃまるで雑巾だぞ…仕方ないなぁ…」
「ふふっ、ほんと昔から変わってないのね。手伝うよ!」
二人の様子を見ていた桐花は立ち上がり言った。するとそれに連動するかのように双葉も立ち上がり言った。
「大丈夫です!。桐花様のお手を煩わせる訳にはいきません。私は義によって立っているので!」
そう言うと双葉はキビキビと風呂場へと向かった。
「お前それこういうときに使う言葉じゃないだろ…」
呆れて言った。
「さてと…では行きますか。」
「兄ちゃんデートか!?」
風呂場から大きな声がしたと思ったら、壁際から顔だけを出しこちらをにやにやと見る双葉の姿があった。
「デートじゃねえよ!」
双葉の冷やかしにそう答えると、俺は桐花さんの反応が気になって目を向けたが、桐花さんはアイスコーヒーの最後の一口を飲み干し言った。
「行きますか!デートに!!」
「桐花さん!?」
「冗談よ。」
桐花はクスリと笑った。
「ですよね!」
内心俺はどこか複雑な気持ちを抱え、玄関へと向かった
「行ってらっしゃ~~い!!!」
双葉が風呂場から大きな声で見送りの言葉を放っていた。
「あいつ、朝から元気すぎるだろ…」