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潜在ライフワークス  作者: わいない
第1章ー潜在証明ー
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かまいたちの朝

 「あっつぅ!!」


 思わず声にでる暑さに男は起きた。


 すごく暑い。


 とにかく目覚めが悪い。 


 高校の先輩の用事に付き合うべくセットした目覚ましも役には立たなかった。


 というか壊れていた。


 熱い夏休みだ。


 男は焦り時計に目をやったが、予定よりも5分程早い目覚めに肩を落とし安堵した。




 「ったく、異常気象だろこれ。」


 (二度寝しよ。)


 時間に余裕がある男は再び枕に頭を置いた。


 だが、直ぐに直接脳内に訴える声に男は起こされた。



 

 (いつになったらこの声が届くのやら。)


 最初は空耳かとも疑ったのだがやはりそうではなかった。


 (こんな暑い日に二度寝ができようとは…)


 その声はしつこく男の脳内へと呼びかけていた。


 (なんだこれ、空耳?)


 男は段々と怖くなり、馬鹿馬鹿しいと思いながらも何も無いであろう空間へと喋りかけた。


 「おい!誰かいるのか?」


 すると、直ぐに返答はあった。それも脳内に…




 (私の声が聞こえるのか!?)


 その声は男の問いかけに驚いたようにも思えたが、どこか嬉しそうに聞こえた。


 (やっぱり、暑さのせいではないか…)


 男は周りをキョロキョロと見渡したが、やはり何もいつもと変わらない平凡な自室の光景だった。


 それを見かねたのか、また声が脳内に流れた。


 (何をしている?、まだ見えてはいないのか?)


 すぐに男は空間に対して問いを返した。


 「見えるも何もどこにカメラを仕込んでるんだ?、何のいたずらだよ。」


 訳もわからない男は何もない空間に言った。


 (カメラなんぞ仕込んではおらん。確かに今の状況に混乱をするのも仕方はないが、決して悪戯の類ではないから安心せい。ぐふっ)


 「おい!いま笑ったよな!この状況を楽しんでんじゃねえか!、やっぱり悪戯だろこれ!」


 (待て待て!、お前さんの爺さん、いや、謙三を思い出してついな、反応もよう似ておるわ。)


 脳内の声から祖父の名を聞いたことで男は直ぐに悪戯ではないことを察した。


 「…爺さんを知ってるのか?」


 (…謙三とは長い付き合いじゃったからな。こうして上風の人間と話すのも久しぶりだのう。いやぁ、良かった良かった!)


 その声からは無垢な喜びを感じ取れた。


 「ということは、お前は幽霊の類なのか?」


 男から幽霊と言う言葉が出たのは、上風謙三と言う男が昔、地元で有名な霊媒師だったのを父に聞いていたからだった。


 (流石察しがよくて助かる、だがまぁ幽霊と言うよりは妖怪と言った方がいいのか、所詮私の様な存在は人間の信仰の賜物に他ならないからの。)


 「信仰と言うと、人が神様を信じるようなものか…妖怪にも?」


 (この場合そう思ってくれて構わないが、神と言うのは私みたいな妖怪とは違い、その信仰もさることながら、その力は実際に存在が認知され、それが人の目に触れたことで信仰に至ったというケースが殆どじゃ。言うなれば、神と定義されるその存在は限りなく実際に存在していることになる。まあ、人間が都合よく解釈を加えたケースも多いが。)


 「…あ、あぁ、ご説明ありがとうございます。少しばかり難しいお話になりましたが、取り合えず僕の方からは二つ程お尋ねしたいことが。」


 神とかそれが存在するとか訳がわからん。


 (よし!、何でも聞いてくれて構わんぞ。)


 「なら、…なんで今になって俺はお前の声が聞こえるようになったんだ?」


 今まではそんなことはなかったのだ、男にとって幽霊が見えるとか妖怪だとか、寧ろその存在などは戯言のように思えていた。


 そして、今である。


 (そうじゃな、言うなれば隔世遺伝じゃな。)


 妖怪の類であるその声はきっぱりと言った。


 「隔世遺伝?、世代を超えて遺伝するっていうあれか。」


 確かに父には霊感と呼ばれるものは無かったし、祖父の霊媒師を継ぐという話もまるっきりだった。


 (あぁ、そうじゃな。それによって元々おぬしには少なからず霊感と呼ばれるものが極僅かに備わっていたようじゃ。だが、肝心のお主は全くそれを信じてはおらんようじゃったし、こうして声が奇跡的に届いたのも城の周期が迫っているに他ならないわけじゃ。)


「城?、城ってなんだ?」


 (はぁ、お主そんなことも…)




 ―ピンポーン!


 家のチャイムが鳴った。


 それを聞くと男は急に慌ただしく周りを見渡し何かを探し始めた。


 「まずい!、桐花さんだ!」


 (ほう、あのおなごか。)


 男はその言葉に異様な反応を示した。


 「おい、なんでお前が桐花さんを知ってるんだよ。」


 見つけたズボンのベルトをカチャカチャと鳴らしながら男は言った。


 (そりゃ、もう私はお主の守護霊みたいなもんじゃからな。)


 「ん、待てよ。と言うことは、お前、俺のあんな秘密やこんな秘密まで、」


 (そりゃあもう、余すことなく知っておるぞ。)


 「よし!この話は後でじっくりとさせてもらおうか。」


 そう言うと男はシャツを着ながら階段を駆け下りていった。


 (慌ただしいやつじゃなぁ)


 誰かとは確認するまでもなく、不用心にドアを開けたが、桐花さんを待たせるぐらいならと大急ぎだった。



 「ごめん、待った?」


 「ううん、それよりも大丈夫だった?、すごい慌ただしく階段を下りてくる音が聞こえたから、階段を転がったのかと…」


 桐花さんに純粋に心配されるとは何だか申し訳ない。


 「いや、大丈夫だよ!、ちょっと色々あってさ、はは」


 「色々?、また変な夢でも見たの?」


 桐花はキョトンとしていた。


 「あ、まあ、そんなところかな」


 こうして桐花さんと話してる間も不用心に脳内に語り掛ける声があった。



 (まあ、これに懲りたらいくら暑いからと言って、パンツ一丁で寝るのは止めるんだな)


 「おいおい、大体だれのせいだと…」


 続きを話そうと思ったが男はハッと我に返った。




 「誰と話してるの?」


 この声は桐花さんには聞こえない。


 まるで俺は急に独り言を喋りだすヤバいやつじゃないか…


 「ごめん、さっきから空耳がすごくて桐花さんに言ったわけじゃないよ。」


 桐花は再びキョトンとした様子を浮かべたが直ぐに何かに納得したようだった。


 「怖い夢だったんだね。かわいそうに…」


 「大丈夫大丈夫!、怖い夢も何もなかったから心配しなくて大丈夫だよ!」


 「そうなの…なら良かった。」


 そう言うと何だか桐花は不満げな表情を浮かべていたが、男は続けて言った。


 「桐花さん。玄関先でも悪いから、ちょっと準備が終わるまで中で待っててもらってもいいかな?」


 「ありがとう。でも優雅君、年頃の女の子を不用心に家に上げるのはどうかと思うなぁ。」


 「ははは。いやほら、確かに今両親は出先でいないけどさ、双葉がいるから警戒しなくて大丈夫ですよ。」


 男もとい優雅は引き攣った笑いをこらえながら言った。


 「では、お言葉に甘えて。」


 そういうと、桐花は真っ白なスニーカーを玄関に並べ、リビングの椅子へ腰かけた。


 「ごめん桐花さん、いま麦茶切らしててさ、アイスコーヒーでいいかな?」


 「お安い御用です。」


 これはツッコんだら良いのか、優雅はどうも面白い返しが思いつかなかった。


 「とりあえず、お砂糖多めに入れときますね。」


 「ありがとう。後はやっとくよ、優雅君は準備しておいでよ。」


 ひとしきりの準備が終わったところで桐花は言った。




 (なんだか桐花さんも中学の時とあまり変わってないなぁ。)


 何だかどことない安心感に包まれながらも、優雅は洗面台に足を運んだ。


 そして、顔を洗おうとおもむろに鏡に目をやった瞬間だった。


 「うわァ!!?!」


 見えてはいけないものが視界に入った。


 それと同時に、恥ずかしながらも男優雅は尻餅をついた。


 (お!ようやく見えたようだな!)


 不意に現れた声の主は嬉しそうに言った。


 「待て待て、なんでこのタイミングで見えるんだよ。しかもよりにもよって洗面台の鏡越しだなんて、驚くに決まってるだろ…」


 優雅は必死に尻餅をついた言い訳を述べた。


 (確かにタイミングは悪いが、霊力に目覚めたからには私の姿が見えるのも時間の問題だったぞ。)


 当然悪びれる様子もなく奴は言った。


 「あぁーもう!、それはそうと妖怪の類だとか言うからもっとグロテスクな見た目を想像してたけど、案外可愛いくて安心したよ。」


 (見た目は何だろうな何か小動物のような…)


 「それ、私に言ってるの!?」


 「え!?…」


 優雅は目の前に浮かぶ可愛いらしい妖怪に遮られ、後ろに立つ桐花に気づかなかった。


 「あ…いや、これは…桐花さんどこから聞いてました?」


 「案外可愛くて安心したってとこからだけど…」


 「あぁ~、それは間違いじゃないです。桐花さんは相変わらず可愛くて安心したなぁ~って…」


 (ばか!俺!何言ってんだよ!)


 「…大きな音がしたから心配して来てみたんだけど、優雅君…少し頭を強く打ったんじゃ…」


 「あ!いやいや!大丈夫です!すぐに準備しますね!」


 そう言って慌てふためく優雅を見て、首をかしげながらも桐花は言った。


 「大丈夫かなぁ…」


 そう言うと、桐花はリビングへと戻っていった。


 (はぁ、今日は朝から散々だよ。)


 (そんなことはないぞ!、私からしたら待ちに待った日だ!、こんなに嬉しいことはない!)


 (うわぁ‥すごいテンション高いなぁ、朝から胸焼けしそうだ。でもちょっと可愛いから許せる。)


 (ほう、私の見た目はそんなに可愛いか?)


 (まあ、その見た目なら女の子にもウケるんじゃ…って!?)


 優雅はここであることに気づいた。


 (もしかして、心の中でお前と会話ができるのか!?)


 (そうだぞ!、何も律義に声に出すことはない。)


 (お前!!それ最初に言ってくれよ!大恥かいたじゃないか!!)


 (ウワハハハハハ!!)


 小動物のような妖怪は腹を抱えゲラゲラと笑っていた。


 (お前それ絶対わざと言わなかっただろ…まぁ、いいけど、失敗から学んだということで。)


 優雅は身支度を進めた。


 (それにしてもお前のその見た目ってあれだな‥タヌキ?)


 (惜しい!鎌鼬【かまいたち】だ!。いや、惜しくない!お主わざと間違えただろう!)


 (いやいや、イタチもタヌキも似たような…)


 (似とらんわ!!、それにイタチじゃない!【鎌鼬】だ!)


 そこは何か特別なこだわりがあるんだろう。







 


 

 




 

 


 

 


 

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